一番の近道は、たいてい一番悪い道だ。 ――フランシス・ベーコンの言葉 |
ジェスターのひとり言IFストーリー、CHH編です。
何らかの理由で直接このページへ飛んでしまった方は必ず一度このページを目に通してください。
ページを下にスクロールしたら貴方もCHHの仲間入りです。
裏小説・番外編シリーズ |
概要 表には置けない、ちょっとアレな話をテーマにしたジェスターのひとり言番外編です。 不定期更新を予定。 |
メッセージ送信にて返信しづらいアレ的なものはここで返信させて頂きます。
お手数ですがよろしくお願いします。
メッセージ返信(主に表であげる事の出来ない内容
送信 (こいつジョグ友以上の変態だ) (こいつ、台詞付きエロ画像とかでググってそうだ)
なんの役にも立たないでしょうが、リョナラーには本番嫌いが比率的に多いそうです
返信 ジョグ友はもっと凄いんです!!本当なんです!!!それでも僕はジョグ友より(ry
台詞付きエロ画像って言っても実際に物凄い台詞の多い絵って好きじゃなかったりします。二言程度の台詞が一番大好きです。
リョナラーは本番嫌いが多い・・・。一体誰がこんな統計を。これでは私がまるでリョナラーみたいじゃないですかー!
でも緩やかな絶望系は嫌いじゃないってことはやっぱりリョ(ry
うーむ・・・・・・・チラッ
琶月「ど、どうしてそこで私を見るんでしょうかね・・・・。そ、そっちのレミなんとかリアって人を見てください!」
レミリア「こっち見るなー!向こうの琶なんとか月って人を見ていなさい!」
お前等本当は仲いいだろ。
送信 なんだあの裏ページのカオスは
声出して夜中の3時に吹いてしまったじゃないか
でも、本番が嫌いというのは共感できるような……うん。
嫌いというより苦手なだけですはい。
返信 一度下ネタエンジン入るとあんな事になります。
ジョグ友と会話している時は大体あんな感じ。ひっでーひでーじゃん。
本番が嫌い!!っていうことは貴方はリョナラー!(酷い決めつけ
い、いやぁ。でもあれだと思うんです。昔の人はビッグマグナム突っ込む程度しか方法なかったと思うんですが今は道具が豊富だから
その分だけ趣向が別れるのは当然なんじゃないのかなって思っている私が(ry
実際他人の奴見ても汚いって思うだけの事も多いしなぁ・・・。
目次
第一話 タイトル:『CHH』
第二話 タイトル:『BW』 *注意:過激な性表現あり
第三話 タイトル:『WIH?』 *注意:微エロ・微グロ注意
第四話 タイトル:『機会』 *過激な性表現あり
第五話 タイトル:『機会2』
第六話 タイトル:『ヘル』
第七話 タイトル:『その時』
第八話 タイトル:『精神』 *注意:性表現あり
第九話 タイトル:『隔靴掻痒』
天国にひとりでいたら、これより大きな苦痛はあるまい。 ―ゲーテの言葉 |
アノマラド大陸西南に存在する港町、ナルビク。
「ここは首都だ」と嘘を言われても初めて来た人はそれを見抜けない程盛んな街だ。
それぞれ癖はあるが国家依頼も引き受ける事のある二つのギルド。
所狭しに立ち並ぶ酒場。
そして五月蠅いほどに鳴き喚いているカモメ。その真下には無数の漁船が存在しており
時折急降下しては売り物にならないために捨てられた魚を口に咥えて何処か去っていく。
時刻は午前七時。ナルビクの朝は早い。
・・・海に面したとあるクエストショップでも何らかの動きがあった。
キュピル
「ルイ。・・・だめなのか?」
ちょっと神妙な表情をしたキュピルが必死にある事を頼もうとルイに語りかけている。
ルイが困った表情を見せ、キュピルと同じく頭を下げ続けている。
ルイ
「本当に申し訳ありません・・!どうしてもその・・外せない用事が入っていまして・・・。」
キュピル
「うむむむー・・・。今回の依頼は女性かつ信頼のおける人じゃないとだめで・・・。
ルイは一番信頼出来、かつ実力もピカイチだからぜひチームをお願いしたいんだが・・やっぱり駄目か?」
ルイ
「その・・すみません。私用ではありますけれどメイド長を務めていた時の後輩が近くに来てまして
今日の機会を逃すと次何時会えるか分らなくて・・・。」
キュピル
「あぁ・・・、確かに痛いほどその気持ちが分るな・・。」
一瞬キュピルが物想いに耽る表情を見せる。
アノマラド大陸へ飛ばされる前の世界に住んでいた頃を思い出しているのだろうと、ルイも容易に見当がついた。
キュピル
「わかった、他にも当たって見るよ。」
ルイ
「ごめんなさい、キュピルさん。」
キュピル
「気にしないでくれ。変に責任を感じなくていいよ。」
ルイ
「ありがとうございます、私はこれから行ってきますがお仕事頑張ってくださいね!キュピルさん。」
キュピル
「ん、あ。あぁ。所で今日会う後輩はやはり女性なのか?」
ルイ
「勿論ですよ。メイド職は女性しか就けませんから。
・・・あ、今浮気したのかどうか不安になりましたね?」
キュピル
「む、うーむ・・ぬぅーん・・。・・反応に困ってしまった・・。」
ルイ
「ふふっ、ちょっとその反応が見たくて言ってみただけですよ。
最近キュピルさん性格が固くなってきてますよ。もっと昔みたいにリラックスして砕けてください。」
キュピル
「ハハハ・・。ギーンに頼まれて始めたクエストショップのせいだな、完全に。
それじゃ俺は他を当たってくるよ。」
ルイ
「はい、わかりました。」
その場を跡にし、クエストショップの部屋へと移動する。
ジェスター
「わー!こっちに来ないでー!」
キュー
「おーおー!それじゃ鬼ごっこになんないぜ!こんにゃろ〜!
追いかけっこしているジェスター、キューとすれ違う
キューと目が合う。
キュー
「・・・お!お父さんも鬼ごっこ参加しよーぜー!」
キュピル
「あー、俺が参加したら遊びじゃなくなっちまうぜ。」
キュー
「ジェスター、これが大人げないって言うんだぜ。」
ジェスター
「んー、二人とも似てる。」
キューが再びジェスターを追いかけまわし始める。
子供を危険に晒すわけにもいかないため何も話さずクエストショップのリビングへと向かった。
==クエストショップ
キュピル
「輝月、今いるか?・・って、うぉ!?」
琶月
「あぁー!キュピルさん!助けてくださーーーい!!」
リビングで堂々と輝月とヘルが決闘を繰り広げており、お互い怪我している。
輝月
「トドメじゃ!一閃!!」
ヘル
「死に晒せ!!」
キュピル
「うおぉぉぉーー!!?今は輝月を傷つけるなぁーー!!?」
慌ててキュピルが制止させようと前に出るが、一歩遅かった。
輝月の刀がヘルを斬り捨て、ヘルの巨剣が輝月の胴体に突き刺さった。
キュピル
「うわあああーーーーー!!!輝月!!!!!」
ヘルキュピル
「俺より糞野郎かよ・・。」
「テルミットは!?ディバンは!!?」
琶月
「え、え、え、えっと・・・テルミットさんはそこに・・。」
琶月が指差した場所に気絶しているテルミットの姿があった。
琶月
「・・・ディバンさんはいつも通りです。」
キュピル
「くそ、トレジャーハントか。・・・輝月、大丈夫か?今日チーム組んである依頼をこなしたいんだが出来るか?」
輝月
「・・・・・・・。」
輝月がしかめっ面を浮かべ、初めは終始無言を貫いていたが徐々に体を震わせ
魂が抜けたかのようにすっと力なく地面の上に倒れた。
キュピル
「だああああ、くっそ!!琶月!まずはこの巨剣を抜いてすぐにヒール詠唱するぞ!」
琶月
「え゙っ!?キュピルさん魔法使えるんですか!?」
キュピル
「こう見えても昔あのアノマラド魔法大立学校に通っていた事があった。」
琶月
「おぉ、あの有名校にいたんですか!!?すごいですよキュピルさん!!」
キュピル
「ただし成績は1の連続だ。むしろ本命のファンが行くついでにオマケ扱いで俺も連れて行かれた。」
琶月
「もーだめだーーー!!」
キュピル
「後で覚えてろ、琶月!とにかくテルミットを叩き起こしてくれ。俺は巨剣を引っこ抜く!」
琶月
「テルミットさんを使う!そ、そういう手もありますね!」
ヘル
「一体何故あの糞野郎が優遇されているんだ・・・。」
・・・・。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ヘルと輝月の一命を取りとめた事を確認し、キュピルとテルミットと琶月がリビングにある椅子に座る。
テルミットが後頭部をずっとさすり続けている。恐らく喧嘩を止めようとして後頭部を殴られ気絶したのだろう。
一方琶月は何の怪我もしていないため、びびって端で震えていたのが容易に予測ついた。
キュピル
「はぁ・・・。・・・いつも通りとはいえ・・・。輝月もヘルも一週間は再起不能か。
というか朝っぱらから喧嘩するな・・・。」
琶月
「いつか師匠死んでしまわないかとっても心配です・・・。」
テルミット
「どうにか改善策を編み出さなければ本当にいつか事故が起きてしまいますね・・。」
キュピル
「事故というよりは事件だな、こりゃ・・・。・・・はぁ、この依頼どうすればいいのか・・。」
キュピルがポケットから折りたたまれた一枚の書類を取り出し、深いため息をつきながら書類を眺める。
琶月
「そういえば先程師匠にチームを組んで欲しいと言っていましたね。どんな依頼何ですか?」
キュピル
「ん。」
・・・・・。
キュピルがマジマジと琶月の顔を見つめ続ける。
始めこそ何のリアクションを示さなかったが、違和感に気付いた琶月が驚いた顔をし焦りながらキュピルに問う。
琶月
「・・・・な、何ですか?私をジッと見ていますが・・・。」
キュピル
「・・・・琶月!」
琶月
「は、はい!!・・・って、それは師匠だけが使って良い台詞です!!」
反射的に体が動き、椅子から立ち上がる琶月。
キュピル
「どうでもいい。琶月!」
琶月
「もうどうにでもな〜れ〜・・・。」
キュピル
「この依頼を無事達成出来たら昇給・ボーナス贈呈。ついでにこれまでの減給・ペナルティを全て取り消し。
どうだ?チーム組めるか?」
琶月
「・・・・・!!!!!???」
バッと琶月が身を乗り出し鼻息が当たりそうな距離まで接近する。
琶月
「ホントですかっ!!?」
キュピルが全く動じずに更に琶月に問う。
キュピル
「ただし先に宣告しておくぞ。とっても危険な上に何が起きるか分らない。それに長期ミッションになる。
それでもいいか?」
琶月
「はい!!!!!!」
キュピル
「・・・ってか、琶月の実力を考えるとこの依頼は明らかに向いていない。ボコボコにされても文句言わないように。」
琶月
「あああああああああああああああ!!!!!!!(ry
・・・でも大丈夫です!慣れていますから!!」
苦笑いしながらOKサインを出す琶月。
キュピル
「自分で言っていて悲しくならないのか・・・?」
テルミット
「琶月さん、安請負すると危険ですよ。」
キュピルの高待遇に疑問を思ったテルミットが琶月に忠告する。
横目でキュピルの表情を伺うが何も考えていなさそうな表情をしている。
琶月
「いやいや!キュピルさんと一緒ですよ。何が起きても絶対大丈夫ですって。」
キュピル
「これは酷いフラグ。もうだめかもしれない。」
琶月
「そ、その・・不安になります!!」
キュピル
「とにかく時間ギリギリだ。すぐに出発するから身支度整えてくれ。
必ず万全の装備で来るように。」
琶月
「はい!」
琶月が即座に自分の部屋に戻り身支度を整えに行った。
琶月が居なくなった事を確認してからテルミットがキュピルに向き直り質問する。
テルミット
「・・・ところでキュピルさん。」
キュピル
「ん?」
テルミット
「何故女性の方じゃないとチームを組めないのですか?」
少し間を置いてから返答が返ってくる。
キュピル
「・・・すまん、ちょっと今はまだ言えない。ただ危険極まりない依頼ってのだけは言える。
本当はルイか輝月。・・・欲を言えばスタイルの良いルイが一番よかったんだが・・・。」
テルミット
「・・・ますます何を言っているのか分りません。キュピルさん・・。」
キュピル」
「頼む、忘れてくれ。
キュピルも席から立ち上がり支度しに自室へと戻って行った。
その数秒後、同様にテルミットも自室へと戻ろうとする。その道中琶月とすれ違い羨ましそうな目で琶月の背中を見る。
テルミット
「・・・矢って結構出費するんですよね・・。経費降りないか今度相談してみよう・・・・。」
キュー
「剣術教えるぜー。三万で。」
テルミット
「うわっ!いつのまに!?」
キュー
「にっひひひひ。」
・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
==名もなき砂漠
琶月
「あ゙ーづーい゙ー!」
広大な砂漠を歩き続ける琶月とキュピル。
ナルビクに存在するワープポイントを使ってカーディフまで移動し、そこからはひたすら歩いている。
途中から地図には存在しない道を通り始める。既に周りには特徴となる物が一切なく一歩間違えれば遭難してしまいそうだ。
キュピル
「熱中症に気をつけろ、ここはいつでも暑い。」
琶月
「いまだに私は何も教えて貰ってないんですけど一体どこに向かっているんですかー!
まさか私と心中するつもりじゃありませんよね!」
キュピル
「琶月と心中するぐらいなら一人で死ぬがな・・。」
琶月
「ああああああああああ!!!酷い!!」
琶月が嘘泣きしながら水筒の蓋をあけ大事に水を飲む。
午前八時にナルビクを出発。それから既に四時間が経過しちょうど正午になった所だ。
砂漠にしてはキュピルの行軍速度は早い。暑さに慣れていない琶月にとって今の行軍ペースはすぐに体力を消耗する。
琶月
「キュ、キュピルさ〜ん・・。歩くの早すぎです・・!」
キュピル
「どうしても早く行かなければいけないんだ。あんまりゆっくりしていると依頼に間に合わなくなる。
出来る事なら走って進みたい。」
琶月
「・・・あ!それなら私を背負って走るってのはどうですか?きっと今より早く進m・・・。」
アンギャァーーーー
琶月
「自分の足で走ります・・・。可愛い可愛い女の子を背負えるんですよ!!役得ですよ!!」
キュピル
「もうちょっと胸があれば・・・・。」
琶月
「あああああああああああああああああ(ry」
琶月が砂漠の上にうつ伏せで倒れる。
キュピル
「ほら、そんな事やってると体力消耗するぞ。そろそろ目的地ぐらい教える。」
琶月
「ほんとに?」
琶月が起き上がりキュピルの後を追う。
キュピル
「・・・このペースで進めば後二時間後ぐらいには『地図には載っていない街』に辿りつく。」
琶月
「・・地図には載っていない街・・・?」
キュピル
「そうだ。・・・それと同時にアノマラド大陸最大の貧民街とも言われている。
その街で産まれた子の90%以上は親の顔を知らないだろうな・・・・。
そこだけもはや別国と考えるのが正しい。」
琶月
「・・・何か治安悪そうですね。気のせいかもしれませんけど。」
キュピル
「治安は最悪だ。琶月。何故その街は地図に載っていないと思う?」
琶月
「え?・・・うーん・・。あ、実は載せ忘れたとか!」
キュピル
「琶月の頭がやばい。」
琶月
「・・・ああああああああああああああ(ry」
キュピル
「何故その街が地図に載っていないのか。・・・・それはな。
どの国も干渉を避けているからだ。」
・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
砂漠を歩き続けて六時間。結局琶月は熱中症になってしまい今はキュピルに背負られている。
キュピル
「慣れているから大丈夫だろうと思ったが和服なんて許可するんじゃなかった。自殺行為だ。」
琶月
「うぅぅ・・・。」
琶月の頭から水筒の水をぶっかける。服が濡れても全く気にしない。
キュピル
「ほら、前見てみろ。目的地が見えたぞ。」
琶月
「んー・・。」
首をあげ、キュピルから手渡された双眼鏡を覗き見る。
・・・沢山のビルが建っており、一本だけ他の二倍ぐらい高く伸びた建物があった。
キュピル
「ここから大体20Km先だ。」
琶月
「思ったより大都会だ・・・。」
キュピル
「よく見ろ、あれは全部石で作られたビルだぞ。近代的な建物じゃない。」
琶月
「え?・・・ちょっと遠すぎてよく見えない・・・。」
キュピル
「まぁそうだろう。さぁ、ここから先は自力で歩いて進んでくれ。事情がある。」
琶月
「あ、頭がふらふらする〜・・。」
キュピル
「ほら、頑張れ。一番暑い所は抜けだしてここは結構適温なはずだぞ。」
キュピルに手を引っ張られながらドンドン進んで行く。キュピルの言っていた通り気温は既に30℃を下回っており
熱中症の琶月でも涼しく感じられた。街に近づけば近づくほど気温はドンドン下がり、ある場所から境目に
砂漠は砂利道に、そしてコンクリートで舗装された道へと変わった。
街まで残り5Kmまで差し掛かると気温は20℃を下回り肌寒く感じられた。
気がつけば天気は曇り始め不穏な空気になりつつあった。
琶月
「どうして急激に気温が変化したり天気が変わるのですか?」
キュピル
「何でだろうな・・。・・・俺もちょっと分らない。ファンとかテルミットがいれば何か分ったかもしれないが。」
・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
そして歩き始めて六時間半。
目的地にたどり着いた。
琶月
「ここが・・・アノマラド大陸最大の貧民街・・・?」
キュピル
「そうだ。・・・この大陸の中で最も犯罪率が高く、実力のない者は決して近づくなと言われている街だ。」
中央アルミド、カーディフより大分右側にずれた先に存在するこの貧民街。
貧民街だが巨大な石造建築されたビルが立ち並んでおり、あちこちにある排気口から湯気が噴き出ている。
ビルとビルの間はおよそ1mしかなく、その道を沢山の人が通行している。だがどの人も、人とは思えない程
汚れた格好をした者ばかりで、時々大富豪を思わせるダサイ服を着た人がいる。
ツンと鼻を刺激する異臭がこの貧民街で立ちこもっている。とても狭い歩道や階段脇に生ごみなどの
正体不明の汚物が大量に捨てられている。臭いの原因は恐らくこれだろう。
この貧民街は公式的には存在しない街とされているため地図には乗っかっておらず名前も存在しない。
だがこの街に住む者、常連は皆この街をこう呼ぶ。
『CHH』
琶月
「・・・CHH?それは一体どういう意味何ですか?」
琶月が立ち止まりキュピルに質問する。
が、立ち止まった瞬間即座に琶月の腕を引っ張り体と体を密着させる。
琶月
「わっ!!・・・い、一体何を考えて・・・!?」
キュピル
「黙れ。・・・琶月。今からお前に設定を与える。その役を演じきれ。いいな?
守れなかった時は強大な危険に身を晒されると思え。」
今まで見た事ない程、怖い表情をしたキュピルにきつく言われ流石の琶月も恐縮する。
琶月
「う、うん・・。・・・それで、私の設定・・っていうのは・・?」
キュピル
「金持ちで強大な権力を持つ俺に買われた奴隷だ。」
琶月
「ど、奴隷!!」
キュピル
「大きな声を出すな・・!・・・これが輝月やルイだったら話しは別だったんだが琶月となるとこうせざるを得ない。
琶月の実力的な意味で。」
琶月
「あああー・・うぅー・・。・・・一体どういう事何ですか?私まだ何も詳細を聞いていないんですけど・・。」
キュピル
「宿屋に行こう、そこで今回の依頼内容及び作戦を全て話す。
・・・気になっているであろう事は全てそこで話す。とにかく今は俺に買われた奴隷っていう設定を演じきれ。いいな?」
琶月
「わかりました・・。・・・でも奴隷かー・・。ある意味クエストショップでもそんなに変わらないような・・・・。」
キュピル
「本物の奴隷にしてやろうか?」
琶月
「す、すみませんでした・・・!!」
キュピルに引っ張られながらCHH内を歩く。15分程歩くと突如道が開き広い場所に出た。
ここはCHHの中で唯一開けた場所・・・中心地である。円形に広がっており直径2Kmはあるように思われる。
だがその広場の真ん中には棘の生えた黒い塔が禍々しく建っていた。
確実にビルと呼ぶよりは塔と呼ぶに相応しい建築物。この塔も円状に出来ており直径1Kmはあると思われる。
どのビルよりも高く伸びており何百メートルあるのか分らない。もしかしたら1000m以上あるのかもしれない。
砂漠で見た一番大きな建物はこの塔で間違いないだろう。
琶月
「この塔って一体・・。」
キュピル
「喋るな!奴隷が!」
琶月
「ひっ・・・ごめんなさい!」
キュピルに叱責され黙る琶月。内心文句を言うが大人しく言う事を聞く。
しばらく歩き続けるとまたビルとビルの狭い通路に入り、ビルに隠れて塔は見えなくなった。
狭い路地に入ってから数百メートル先に存在する、ビルの中の宿屋に入る。
ビルの中はこれまでの汚らしい通路と打って変わって高級感あふれる内装になっていた。
・・・だが、清楚な高級感ではなく下品な高級感を漂わせているため琶月からすれば異世界にいるように感じられた。
キュピル
「部屋はあるか?」
キュピルがカウンターにいるオーナーに話しかける。
寝ていたオーナーが半目を開き、怪訝そうな表情でキュピルに問い掛ける。
オーナー
「・・ランクは?」
それを聞いたキュピルの表情がピクッと動き、オーナー以上に怪訝そうな表情をする。
キュピル
「こいつの格好を見れば分るだろ。・・・それともCHHで宿屋を営んでおきながら分らないとでも言うのか?」
キュピルが琶月を後ろ指で指す。
オーナーがマジマジと琶月を見た後、姿勢を改めキュピルに向き直った。
オーナー
「・・・失礼。すぐに部屋の鍵をご用意させましょう。暫くお待ちください。」
今までの態度と打って変わり貴族を相手するかのような態度を示すオーナー。
・・・数十秒後。奥の部屋から宝石の埋め込まれた鍵を手渡されそれを乱暴に受け取る。
琶月
「わっ!宝石!!」
キュピル
「誰が勝手に口聞いて良いと言った!!このっ!!」
琶月
「っっ!!!」
キュピルが琶月の髪を乱暴に引っ張り、最後にビンタして張り倒す。
突然の出来事に琶月が驚いた表情を見せ、今の状況に気付きガクガクと震えだす。
オーナー
「・・・今日のために、こちらの鍵の方が良いでしょう。」
オーナーが一度奥の部屋に戻り別の鍵を持ち出してきた。
キュピルが鍵を投げつけ、持っていた鍵を交換する。
取り替えた鍵には、さっきのような装飾品は施されておらず一つのマークが荒く掘られていた。
そのマークはスペード。
キュピル
「行くぞ、さっさと立て!」
キュピルが琶月を蹴り飛ばし無理やり立たせて奥の階段へと連れて行く。
・・・一階から六階へと移動し、足早にチェックインした部屋へと入る。
部屋へ入り即座に鍵を閉めるキュピル。
そして挙動不審な動きを見せた後、即座に琶月に振りかえった。
琶月
「ひっ・・・!」
キュピル
「琶月、本当にすまなかった・・・・!!ちょっとやりすぎたと思っている。」
キュピルが土下座し琶月に謝罪する。
予想していた行動とは違い唐突にキュピルが謝ってきたため、どう態度を示せばいいのか困惑する琶月。
キュピル
「・・・ここが一つの鬼門だった。誰かに絶対に怪しまれてはいけない。
本物の奴隷だと思わせるためには乱暴な手を使うほかなかった。」
琶月
「・・・えっと・・。・・・あれは演技・・ってことでいいのですか?」
キュピル
「ああ。本当に申し訳なかった。」
キュピルがもう一度土下座し琶月に謝罪する。
琶月
「・・・よ、よかったぁ〜・・・。
・・・初めてキュピルさんが物凄く怖い人に見えて・・ほ、本当に・・もうだめ・・かと・・。」
琶月が嗚咽をこらえながら話す。本当に怖かったようだ。
キュピル
「・・・琶月、今日は遠征で疲れているだろう。ゆっくり休め・・って言いたい所何だが時間があまりない。
一体何の依頼なのか、どういう事をしなければならないのか。それを全て話す。
聞く準備は出来ているか?」
琶月
「はい・・大丈・・夫です。」
手の甲で涙を拭い椅子に座る。キュピルも一度頷き椅子に座った。
キュピル
「・・・順を追って説明していこう。まずこの場所・・・CHHと呼ばれるこの街がどういう街なのか全て話そう。」
琶月
「もうどれだけ恐ろしい場所なのかなんとなくわかりました。・・・こんな街が存在していたなんて信じられないです。」
キュピル
「CHHを略さず言うと『City
of Heaven and Hell』。そこから街、天国、地獄の頭文字を取ってCHHと呼ばれている。」
琶月
「・・・天国と地獄の街・・?」
キュピル
「そうだ。ここはこの世の天国とも呼ばれておりこの世の地獄とも呼ばれている。」
琶月
「私にはこの世の地獄にしか思えないのですけれど・・・。」
キュピル
「まぁ、あんな目に遭わせてしまったからな・・。琶月が想像している以上にもっと地獄だぞ。ここは。」
琶月
「・・・具体的に言うと・・?」
キュピル
「・・・態々怖い事を知る必要はないだろう。今は順を追って説明する。
CHHはさっきも言った通り公式的に認められた街じゃない。いや、存在そのものを世界が否定している。
だから一般人に知られないために地図には乗っけられていないし、ここで起きた重大な事件も公にされない。」
琶月
「どうして存在そのものを否定しているんだろう・・。確かに認めたくないのは分るけど・・こんな街。
・・・あれ?この街はどこの国が管理しているのですか?」
キュピル
「CHHはどこの国にも管轄されていない。いわばここは中立地帯。
アノマラドでもなければ中央アルミドでもない。トラバチェスでもオルランヌでもない。CHHのバックに国はない。」
琶月
「でも地図でみれば中央アルミドに位置していますよね。」
キュピル
「だが、中央アルミドが管理している訳じゃない。・・・琶月、少し意識を変えて聞いてくれ。この街には
これまでの常識は一切通用しない。」
琶月
「わ、わかりました。」
キュピル
「CHHがどこの国からも管轄されていない理由はこの街そのものが一つの国として模擬的に機能しているからだ。」
琶月
「・・模擬的に機能?」
キュピル
「そうだ。このCHHを治める統領がいるんだ。簡単に話すとその統領が強大な力と権力。そして隠されてはいるが軍を持っている。
・・・その統領が住んでいる場所があの塔だ。琶月も見ただろ?」
琶月
「はい。キュピルさんに怒鳴られたあの場所ですね?」
キュピル
「そんな風に言わないでくれ・・。俺も悪気があって言った訳じゃないんだ・・・。
・・・その統領はどこの国の支配下にも置かれる事を良しとしない。支配下に置こうとした国の軍隊全てを抹殺してきた。
次第に何処の国もこのCHHには手を出そうとはしなくなったっと言う訳だ。」
琶月
「へぇー・・・。・・・・・・・。」
琶月が部屋をきょろきょろと見回す。
入ってきた時はキュピルに対する恐怖心で頭が一杯になっていたため特に意識していなかったが
この部屋も相当変わった部屋だ。部屋の作りは一般的な宿屋に近いが壁紙は乱雑に張り付けられた動物のなめし革で
清潔感が一切感じられない。繋ぎ合わせられたなめし革に僅かな隙間が開いており、その隙間の先に石の壁が見える。
不思議とこの部屋にいるだけで琶月は圧迫感と焦燥感に駆られ不安な気持ちになって行く。
琶月
「・・・キュピルさん・・・。」
キュピル
「何だ?」
琶月
「・・・CHHを治めている統領は一体どんな事をしているのですか?」
キュピル
「自らの私腹を肥やすためにありとあらゆる事を用いている。
例えば・・・奴隷売買とかだな。」
琶月
「奴隷売買・・?」
キュピル
「CHHと言えば何だ?っと聞けば大概の人は奴隷を売買する街って答えるだろう。
ここから1Kmぐらい離れた場所にあるビル群に行けば人を売買している商店街に出る。・・・信じられない事にな。」
琶月
「・・・さっき私に奴隷として役割を与えたのには何か理由が・・・?」
キュピル
「勿論ある。いや、今回の肝とも言える部分だ。
CHHは中立地帯で国家間の敵対関係は全て関係ない。赤子から老人。全ての者はこの街に入ろうと思えば入れる。
だが、力のない者がこの街に入ればどうなるか。想像出来るか?」
琶月
「・・・恐喝されたり強盗にあったり・・?」
キュピル
「物盗られる程度で済んだのなら自分の運に感謝すべきだ。
大概は生捕されて人身売買の競売へかけられるな。男なら劣悪環境での強制労働に、女なら売春だ。」
琶月
「売春・・・。」
キュピル
「琶月に奴隷としての役割を与え、その主は俺としたのはこのCHHで強大な力を持つ権力者の一人だと
思わせるためにやった。・・・もし仮に琶月が本物の奴隷なら相当の上玉だから値が張るだろうな。」
琶月
「お!それは私が美人だからですか?ふっふっふ。」
キュピル
「いや、琶月が偶然和服を着ているからだ。」
琶月
「な、なんでですかー!!本当にそれだけの理由なんですか!?」
キュピル
「あんまり大きな声を出すなって。この部屋は一応防音されているらしいが部外者に聞かれたらまずい。
大体の奴隷はまともな服なんか着せて貰えない。なのにそんな良い服を着せて貰えているという事は
可愛がっている奴隷=相当高い奴隷って事に繋がる。
高い奴隷を買える奴は傭兵を雇っているような力の持つ貴族だけが出来る事だ。
そんな貴族は誰だって敵に回したくない。・・・つまり、琶月に奴隷役を与える事で自然と自衛出来る訳だが意味分るか?」
琶月
「・・・んー・・なんとなく・・。でも何だかあんまり嬉しくないですね・・・。ち、ちなみに・・その。
余談みたいなものなんですけど私が人身売買の競売にかけられたらどのくらいの値が張られると思いますか?」
キュピル
「実際にかけてみればわかると思うぞ。」
琶月
「お願いですからそれだけはやめてください!!!」
キュピル
「冗談だって!そんな事して何の意味もないだろう。それにさっきも言った通り俺はCHHについて殆ど知らない。
どのくらいの値が張るかなんて競売所に行った事ないんだから予想がつく訳がない。」
琶月
「それじゃー、もしキュピルさんが私を買うとしたらいくらだします?」
キュピル
「クエストショップの成果で判断、なおかつ定年退職までに得られる総額で判断するとして・・。
・・・そうだなぁ・・。・・・・・・。胸も小さいし1万Seedで。」
琶月が即座にキュピルに飛びかかりタコ殴りし始める。
琶月
「自信喪失するじゃないですかーーー!!やだーーーー!!!」
キュピル
「悪い!すまん!謝る!!!」
琶月
「も〜う〜だ〜め〜だ〜〜〜〜〜!!!」
琶月が再び椅子に座り机の上に突っ伏す。
琶月
「絶対まだ実際に競売にかけられた時の値段の方が上だ!!」
キュピル
「世の中、嘘を嘘だと見抜けないと生きて行くのは難しい。キリッ。」
最後の一言のせいでまた琶月がキュピルに飛びかかりボカボカ叩きはじめる。
キュピル
「ギェー!!すまんかった!!」
琶月
「普通に考えて人権侵害だー!訴訟!訴訟!!」
キュピル
「ま、まぁまぁ・・・。この依頼を無事達成したらボーナス沢山あげるからそれで許してくれ。な・・?」
琶月
「いくらくれますか?」
キュピル
「そうだなぁ・・。報酬額の五割で。」
琶月
「報酬額の五割・・?数値で言ってくださいよ!」
キュピル
「80万Seed」
琶月
「なーんだ・・・・。・・・えええええぇぇぇぇっんむぐぐぐ!!!?」
琶月が大声を上げると即座にキュピルが口を抑えた。
琶月がキュピルの手をどかし、小さな声で喋る。
琶月
「一体誰からの依頼何ですか。」
キュピル
「ギーン。このぐらいの規模の額は大体ギーンからだ。」
ギーン。キュピルがアノマラド魔法大立学校に在学していた頃の同級生でもあり
数々の戦争を共に生き残ってきた戦友でもある。過去に戦争でトラバチェス国の首相が失踪し
ギーンが実質乗っ取りに近い形で首相に就任した。支持率は半々のようだ。
以来、国をあげて行動しづらい事件などは全てキュピルに頼んでいる。・・が、それを理解してくれる人は少ない。
キュピルが椅子に座り直し荷物から大きな封筒を取り出した。
琶月
「ギーンさんからなんですか・・。」
キュピル
「話を戻そう、琶月。CHHがどんな街か大体分ったか?」
琶月
「分りました。・・・とても危険な街で国の管轄外だから法律もない。だから奴隷売買など
あくどい事で満ち溢れている街って事ですね?」
キュピル
「琶月にしては随分物分りが良いな。」
また琶月がキュピルに飛びかかろうとしたが今度は先にキュピルが琶月の手を抑えた。
キュピル
「今回の依頼内容を話す。」
琶月
「やっとですね・・。何で出発する前に話してくれなかったのですか?」
キュピル
「話したら来るか?」
琶月
「勿論行きません!」
キュピル
「ほれみろ・・。」
琶月
「でも師匠やルイさんを連れて行こうとしていましたよね?数日待つ事は出来なかったのですか?」
キュピル
「今日の深夜、CHHで一夜限りの盗品オークションがかけられる。待つ事なんて出来ないし
そもそもこの依頼・・即ちギーン側に情報が回ったのは今日だ。」
琶月
「何故ギーンさんはいつもいつもキュピルさんにこう危険な依頼を頼むのでしょうか。」
キュピル
「今回の件は簡単な話だ。国をあげて行動すれば速攻でばれるってのが要因だろう。
強大な軍事力を持つCHHに睨まれれば何らかの被害を受けるのは確実だからな。
だからと言ってトラバチェスの精鋭でもあるギーン本人がいけば首相だから即ばれるしミーアも側近だから知られている。
最近ギーンが今まで国が放置してきた場所を徹底的に取り締まり始めたからトラバチェス国籍の人全てが今
怪しまれている。」
琶月
「トラバチェス国籍の人達にとってはハタ迷惑・・・?」
キュピル
「ギーン曰く、そういう悪やってる奴等に人権はないから問題ない、だそうだ。ギーンらしい。」
琶月
「キュピルさんは?こういう事を引き受ける義務はないはずですよね?」
キュピル
「まぁ、そうなんだが・・。・・・俺はギーンに大きな借りを作ってるからなるべく協力してあげたいんだ。」
・・・ギーンのお陰でもう一度過去住んでいた別次元の世界へ帰る事も出来たし
あの時・・永遠に生きると決めた俺にとって恐れる物は殆どない。
キュピル
「軽い乗りで言えば大金が貰える仕事だ。大金貰って旅行とか美味しい物食べたいだろ?」
琶月
「うーん、流石キュピルさん。私には分らない頭の作りになっていますね。」
アンギャァーー!
キュピル
「改めて依頼内容について確認するぞ。」
琶月
「はい、すみませんでした。」
キュピル
「今夜CHHのとある場所で密売品のオークションがかけられる。
その密売品の中にどうやって盗んだのか知らないがトラバチェスの印章が今日出展されるらしい。」
琶月
「トラバチェスの印章?」
キュピル
「国の判子だよ。国家間取引などする時に使う調印だ。契約内容に対して国が承諾した事を示す大事な判子だ。
この判子が盗まれるということはトラバチェス首相に偽装して勝手な契約を結びつけられる恐れがある。
それだけじゃなく国としての信用もがた落ちだ。だから印章ってのは絶対に盗まれないように大きな金庫の中や
誰にもわからない所に隠されて居たりするんだが・・・。」
琶月
「その印章を取り返せば良いってことですね?」
キュピル
「目的は単純だがそれを取り返すプロセスは非常に複雑かつ難解だ。
一応ギーンからは取り返すのが困難な場合、落札も視野に入れても構わないと言われている。
まぁこれが一番安全かつ妥当なんだが・・・。」
琶月
「落札しようとすればどれくらいの額がかかるんだろう。」
キュピル
「億単位は下るな。」
琶月
「お、お、お、億!!!?私のお給料の何年分だろう・・・。」
キュピル
「不老不死にならないと無理だな。」
琶月
「私の給料あげてください!!!」
キュピル
「この依頼に成功したらな。」
琶月
「よーし!頑張るぞー!」
琶月がバッと椅子から立ち上がり万歳のポーズを取る。
キュピル
「なんて現金な奴なんだ・・・。」
琶月
「それで、どういう作戦で印章を取り返すつもりなんですか?」
キュピル
「・・・それが詳細な段取りは全く決まっていないんだ・・。
困ったことにオークション会場の場所も分っていないし、どんな段取りでオークションが行われるのか・・。
何一つ分っていない。ただ今分っているのは今日印章が出展されるという事だけ。」
琶月
「えっ!それじゃ早く会場を探さないと!」
キュピル
「ああ、だから時間がないんだ・・・。琶月はどうする?部屋で待機するか?」
琶月
「そうですね・・。実力のない私が外に出ると危険なような気がしますし・・・。
あれ?でも奴隷役の私と一緒に居ないと設定上の自衛が働きませんよね・・・?」
キュピル
「その点は心配するな。俺だけの時は喧嘩売られたらボコボコにするだけだ。
ただ琶月と一緒に居る時は常に安全を重視しておきたい。守れるかどうか分らないからな。」
琶月
「さ、流石キュピルさん・・。」
キュピル
「この宿屋はさっき言ったその『奴隷』を躾けするのに適したシステムになっている・・・らしい。
だから誰かが入ってきたり敵が攻撃してくるって事はないはずだ。そんな事すれば大問題だからな。」
琶月
「わかりました。私はこの部屋でゆっくりしてて大丈夫ですか?」
キュピル
「ああ。・・・今は午後三時だ。オークションは深夜から朝方にかけて行われると聞いている。
どんなに遅くなっても六時までには帰る。それまで少し寝てたほうがいいかもしれないな。」
琶月
「分りました。」
キュピル
「・・・そうだ。万が一、危険な目にあったらこの水晶を2秒以内に五回叩いてくれ。
俺に救援信号が届く。」
キュピルが荷物から透明色の小さな水晶を取り出す。人差し指と親指だけで摘みマジマジと眺める琶月。
琶月
「了解です!」
キュピル
「それじゃいってくる。和服にポケットとかあるのか知らないが近くに置いておくように。」
琶月
「はい!」
そういうとキュピルは部屋から出て行った。
琶月
「・・・怖い所に来ちゃったなぁ〜・・。・・・寝よう・・・。」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
キュピルが一階に降りると先程会話したオーナーと目があった。
オーナー
「お出かけでございますか?」
キュピル
「ああ。」
オーナー
「BWのランクは?」
キュピル
「(・・・BW・・・?)」
聞いた事ない略称単語(と思われる)が出てきた。
・・・BW・・・?様々な言葉を思い浮かべるが全く見当がつかない。
オーナー
「A、B、C、V。この四つのアルファベットから最大お二つまでお選びになれますが。」
キュピル
「(A・・B・・C・・V・・?・・・一体何の事だ・・・?この宿屋のランク・・感想の事か?
・・だがそれだとCの後がVってのは不自然極まりない・・。それに最大二つまで選べるって言っていた。
ランクじゃないな・・・。・・・くそ、全然わからない・・・!!)」
オーナーが喋ってから8秒ほどが経過した。
キュピル
「(まずい、考えすぎだ。)」
返答が長引けばCHHをよく知らない人と判断され騙されたり危険な目に遭う確率が増える恐れがある。
結局何の事か全く分らないが適当に言うことにした。
キュピル
「BとCで。」
オーナー
「かしこまりました。」
オーナーがふかぶかと礼をする。・・・BW・・。
様々な推測、憶測が頭の中で飛び交う。
もしかして実はあるエリアに入るために許可証だったりするのか?
Aエリア、Bエリア、Cエリア、Vエリアの四つの区間があってそこに入るにはBWという名の許可証が必要・・。
・・・違う。何か変だ。そんな感じではない。
ではBWという物がある?
Aランク、Bランク、Cランク・・・あぁ、ちがう。何故CからVへ飛ぶ!何故Dじゃない?
キュピル
「(・・・もういい・・。今はオークション会場の探索を優先すべきだ。)」
キュピルが宿屋から出て行く。
宿屋から出て行っておよそ10秒後。別の男性が階段から降りカウンターの前を通った。
オーナー
「旦那様。お出かけでございますか?」
男
「おう、そうだ。」
オーナー
「BW出来ますよ、ランクは?」
男
「BWだぁ〜?俺あったま悪いっから何っにもわかんねぇーよ!!」
オーナー
「旦那様、当ホテルではBWというサービスをやっております。正式名称はブレーンウォッシング。
ブレーンとウォッシングの頭文字を取ってBWと呼ばせております。」
男
「んで、どんなサービスなんだよ?」
オーナー
「旦那様の連れている奴隷を洗脳するサービスでございます。
奴隷になり下がってからまだ日の短い人間は反抗的。BWは反抗心を完全に砕き旦那様の良いように
洗脳するサービスでございます。」
男
「んっおぉ!それはいい!やってくれよ。」
オーナー
「A、B、C、V。この四つのアルファベットからお好きな部位を最大お二つまでお選びになれますが。」
男
「あぁ?A、B、C、V?・・・・あぁ、一瞬何の事か分んなかったが部位でわーったよ。
A=アナル、B=バスト、C=クリトリス、V=ヴァギナの事か。」
オーナー
「さようで。」
男
「んなの選んでどうすんだよ。」
オーナー
「BWの理屈は簡単です。その部位を徹底的に責め尽くして快楽で頭を一杯にし何も考えられなくなった所を
専用の魔法で理性や常識を全て吹き飛ばすんですよ。」
男
「それはいいけど全部はできねーのかよ!徹底的にやるってことはそこが敏感になっちまうだろ。偏るじゃねーか!」
オーナー
「三つ以上からは料金を頂きますが。」
男
「んだよ!みみっちいな!」
・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
続く
暗示を軽く見てはいけません。私たちの心は暗示を大変受けやすいものなのです。 ですから、よい暗示をつねに与えるようにしなければなりません。 ―ジョセフ・マーフィーの言葉 |
宿屋を出たのはいいが、一体何処に行けば情報を得る事が出来るのか。
懐から予め持ってきたCHHの地図を広げ眺めるが、当然地図を見ても情報が集まりそうな場所は分らない。
誰かに聞ければ一番いいのだが、下手に話しかけて騙されたり詐欺に遭っても困る。
ひとまず人が一番集まる中央エリアへと移動する。ここは先程琶月と通った場所だ。
円状に大きく広がっている場所へ出る。中央には統領が住んでいる黒い塔が聳え立っている。
キュピル
「(・・・一体どんな奴がこのCHHを治めているのか。・・・・ん?何だ?)」
塔の近くで人だかりが出来ている。
人だかりに興味を示したキュピルは人ごみをかき分け、何が行われているのか覗き見る。
何度か金属音が響く音が聞こえ大方の予測がつく。
人だかりの視線の先には男二人が戦っていた。一人は重鎧を身に着け巨大なハンマーを持っており
もう一方はフード付きのローブを着こんでおり武器は両手にダガー、双剣のようだ。フードのせいで顔がよく見えない。
重鎧を身に着けた男
「そんな攻撃で本当に俺を倒すつもりかぁ?」
ローブを着た人物
「・・・油断してると手痛い一撃を貰うぞ。」
ローブを着た男の声が若い。恐らく二十歳から三十歳の間だろう。
重鎧を身に着けた男はハンマーを乱暴に振り回し、ローブを着た男を叩きつぶそうとするが
俊敏な動きで攻撃を避け続ける。
キュピル
「(早いな。)」
ローブを着た男
「・・・お前の弱点はよくわかった。次で仕留める。」
重鎧を身に着けた男
「言ってくれるじゃねーか。」
ローブを着た男がバック転を繰り返しながら急接近する。重鎧を身に着けた男が大きく横にハンマーを振る。
が、ハンマーの上にローブを着た男が着地し縦に高速回転しながら何かを投げつけた。
だがキュピルの目を持ってしても何を投げつけたのか確認できなかった。
・・・しかし重鎧を身に着けた男は無傷だ。ダガーや武器が刺さっている様子はない。
重鎧を身に着けた男
「・・・へへ。びびらせやがって。避けただけじゃねーか。」
ハンマーを地面に降ろし高笑いする。
ローブを着た男が声を潜めて忠告した。
ローブを着た男
「首元に触れてみろ。」
重鎧を身に着けた男が笑うのをやめ、顔を青ざめながら首元に手を触れる。
一本の針が刺さっており慌てて引きぬく。
重鎧を身に着けた男
「・・・な、なんだよこいつは!」
ローブを着た男
「毒針だ。10分以内にお前は死ぬ。・・・お前の負けだ。」
観戦していた野次馬達が一斉に雄叫びをあげだした。
罵声を浴びせる者、歓喜の声をあげる者。ローブを着た人物が勝利宣言すると大きな箱を持った男が現れ
観戦者が持っていた券を現金を交換し始めた。どうやら賭けが行われていたようだ。
重鎧を身に着けた男
「・・・た、頼む!まだ俺は死にたくねぇ!解毒してくれ!持ってるんだろ!?解毒剤!」
ローブを着た男
「察しが良い。この解毒剤が欲しければ今すぐ100万Seed払う事だ。」
重鎧を身に着けた男
「100万Seed!?そんな額今持っている訳ないだろうが!!」
ローブを着た男
「その鎧と武器でも良い。」
ローブを着た男が重鎧を身に着けた男を指差す。
勝手な事をドンドン言われ男が憤慨し怒鳴り散らす。
重鎧を身に着けた男
「馬鹿野郎!!こいつは二つ合わせて100万Seed以上もすんだぞ!・・・てめぇ、まさか・・。」
ローブを着た男
「その鎧と武器を手放すか、それとも命を手放すか。好きな方を選べ。」
一瞬沈黙し怒りと苦しみの混じった表情を見せる。
数秒後、重鎧を身に着けた男はすぐに鎧を外し武器もローブを着た男に投げ渡した。
ローブを着た男がそれを魔法で何処かにテレポートさせる。奪還防止目的だろう。
そして男に解毒剤を渡した。その解毒剤をすぐに飲みほし、男はその場から退散した。
ローブを着た男
「・・・他に俺と戦う奴はいるか?勝った奴には何でもするぞ。」
見物人
「ホモセックスしろって言ってもかー!?」
野次馬達がハハハハと蔑むように笑う。勿論ローブを着た男とは誰とも戦おうとしない。
所詮口だけの奴等。新たな挑戦者が現れる気配がなかったため引きさがろうとした時、キュピルが前に出た。
キュピル
「何でもしてくれるのか?」
ローブを着た男が顔を後ろに向ける。
ローブを着た男
「嘘は言わない。」
キュピル
「CHHには長く居るのか?」
ローブを着た男
「その問いには答えない。」
キュピル
「俺がして貰いたい事はCHHに詳しくなければ出来ない事だ。何でもしてくれるんじゃなかったのか?」
ローブを着た男
「倒されたら考えよう。」
ローブを着た男が振り返りキュピルと向き合う。
フードを深く被っているため向き合っても男の顔は見れなかった。
キュピル
「よし、お手合わせ願おう。」
新たな挑戦者が現れた事を知ると野次馬達がどっと歓声を上げる。
どっちが勝つか賭け始める。だがキュピルの装備は赤い剣一本のみなので倍率が異様に高い。
殆どの人がローブを着た人物が勝つと予測し賭けが殆ど成立していない。
命をかけたこの試合。キュピルが望む事は勿論オークション会場を突きとめる事。
この戦い。実は既にキュピルの中ではある勝算が立っていた。
キュピル
「さぁ、どこからでもかかってこい。」
キュピルが愛剣を抜刀する。
ローブを着た男も双剣を構え迎撃のポーズを取る。
お互い一歩も動かずにらみ合いが続く。にらみ合いが三分続くと観戦者が早く動きを見せろと罵声を浴びせ始める。
キュピル
「(やはりあの男の得意としているのはあくまでも迎撃だけだ。自ら攻めるのは得意じゃなさそうだ。
だが確かにこのままにらみ合いを続けてもダメージが入る訳じゃない。)」
キュピルが一歩前に詰める。ローブを着た男が深く腰を落とし双剣を構え直す。
キュピル
「(冷静なタイプだ・・。攻撃に出ず、ずっと俺が防御態勢に入っていても向こうから攻めてきそうにない。
そういうときは・・・)」
キュピルが剣を前に突き出し魔法を詠唱する。
キュピル
「マイナーバースト!」
剣先から小さな火の玉が飛び出る。魔法の素質がなくても殆どの者が唱える事の出来る簡単な魔法。
ローブを着た男は双剣を一振りし火の玉を弾く。
火の玉を弾いた瞬間キュピルが一瞬で距離を詰める。双剣が元の位置に戻る前に素早い突きを繰り出す。
ローブを着た男は迎撃に出ず、空中バック転で攻撃を回避する。懸命な判断だ。
キュピル
「(危険な行動にも出ない。これは隙を作りだすのに苦労しそうだ。)」
ローブを着た男
「・・・・・。」
風が吹く。フードが揺れ、一瞬男と目があった。
キュピル
「(灰色の目か・・・。)」
剣を構え直し、いつでも迎撃出来るようにしておく。
キュピル
「どうした、かかってこないのか?さっきは俺から攻撃した。次は君から攻撃したらどうだ?」
ローブを着た男
「危険な行動にはでない。」
キュピル
「俺も危険な行動は取らない。」
ローブを着た男
「いいや、君は危険な行動を取る。いや、取らざるを得ない。そうやって今自分が持つ地位を獲得してきたはずだ。」
キュピル
「何故そう思う。」
ローブを着た男
「君が冷静だからだ。冷静と慎重は違う。」
ローブを着た男が懐から黒い布を取り出しキュピルに投げつけた。
空中で広がり、布に隠れて男が見えなくなる。
来る。あの男が攻撃に入ってくるはずだ。ここは迎撃ではなく刺し違える覚悟で手痛い一撃を与えてやろう。
キュピルが突進し剣を振って布が真っ二つに引き裂く。
引き裂かれた布の向こうには先程と全く立ち位置を変えていないローブを着た男が立っていた。
今まさにダガーを投げつけようとしている。
キュピル
「!!」
ローブを着た男
「俺の言った通りだ。君は危険な行動を取った。冷静に判断した結果か。」
ローブを着た男が双剣を投げつける。キュピルが慌てて背中から地面に倒れ攻撃を緊急回避する。
が、その一秒後にローブを着た男がダガーを両手で持って刃を下に向けながら飛び降りてきた。
キュピルが不敵な笑みを浮かべる。
キュピル
「嘘ついたな。君も危険な行動を取った。」
キュピルが起き上がりながら落ちてくるローブを着た男を蹴り飛ばそうとする。
男は蹴りあげてきたキュピルの足に乗り、素早く蹴って遠くへ着地する。・・・仕切り直しだ。
ところが。
ローブを着た男
「決まりだ。」
キュピル
「なに?」
ローブを着た男
「首元に手を当ててみろ。」
キュピルが首元をさする。
あの毒針が刺さっていた。冷や汗が流れる。
ローブを着た男
「お前の負けだ。」
キュピル
「・・ふむ。」
毒針を指先で引き抜き、くるくる回したり弄ったりし始める。途中圧力が加わりすぎ真っ二つに折れてしまった。
ローブを着た男
「さて、解毒剤が欲しいか?」
キュピルがローブを着た男に接近する。男が懐から解毒剤を取り出そうとした瞬間。
剣を目にもとまらぬ速さで前に突き出し、ローブを着た男の足を刺した。
男は刺された自分の足を見てハッとしたかのように顔を上げた。
ローブを着た男
「・・・そうか、解毒剤は要らないか。」
ローブを着た男が懐に解毒剤を仕舞うがキュピルは何一つ表情を変えない。
そしてニッと満面の笑みを見せ男を驚かせる。
キュピル
「その通り。実は俺にはドルイドの素質があって毒が全く効かないんだ。だから勝負はまだ終わっていない。
勝負は勝手に終わらせちゃだめだ。」
足に突き刺さった剣を抉るように引き抜き、片足を当分使い物にならなくする。
剣を前に突き出し勝利宣言する。
キュピル
「俺の勝ちだ。それとも片足をひきずりながらまだ戦うか?」
観戦していた野次馬達が凄まじい歓喜の雄叫びをあげる。ブーイングとコールの嵐。
キュピルがローブを着た男の手を引っ張って何とか立たせる。
ローブを着た男
「・・・負けを認める。片足が動かなければ勝算がない。最後に油断した俺の方が悪かった。」
キュピル
「願いを二つ聞いてくれるか?」
ローブを着た男
「何だ?」
キュピルが野次馬達に話しを聞かれない程度に男の元まで接近する。
肩に手を回しひそひそと呟く。
キュピル
「今夜開かれる盗品オークション会場の場所を教えてくれ。」
ローブを着た男
「・・・一つ、君に謝らなければ行けない事がある。」
キュピル
「え?」
ローブを着た男がキュピルの手を払いのけ向き合う。
フードで顔が隠れ顎先しか見えないため表情は分らない。
ローブを着た男
「負ける事を想定していなかった。・・・盗品オークション会場の場所も知らない。」
キュピル
「なんだと、くそ・・。」
ローブを着た男
「だがこのままでは私の信念に反する。いずれ何かで君の役に立とう。
ひとまず情報が欲しければCHHの西エリアにある酒場に行くといい。
そこのバーテンが情報屋をやっている。聞いてみるといい。」
そういうとローブを着た男はキュピルのポケットに入っているCHHの地図を勝手に取り広げる。
西エリアに存在するビルの一角に黒丸をつけ再び折りたたんでキュピルのポケットに突っこんだ。
キュピル
「わかった。もう一つ願いを聞いてくれるか?」
ローブを着た男
「出来る範囲で聞こう。」
キュピル
「解毒剤をくれ。俺にドイルドの素質なんてない。」
ローブを着た男が顔を上げキュピルの表情を確認する。
顔は青ざめ、脂汗が滲み出ている。・・・ローブを着た男が面喰らった表情を見せた。
・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
キュピル
「CHHで一番大きな酒場か・・。」
ローブを着た男に言われた通り、CHH西エリアに存在する酒場へとやってきた。
この酒場も所狭しに立ち並ぶ一つの石造ビル群の中にあり、先程の宿屋と違ってこちらは内装に関しては
全く力が入れられておらず石壁がむき出しになっている。
キュピルがカウンター席に座ると50歳前後に見えるバーテンが現れた
白い口ひげが特徴的で唇の両端を通って顎まで伸びている。バーテンがとても低い声で注文を聞く。
バーテン
「注文は?」
キュピル
「酒はいい。今夜密売品のオークションが開催されると聞いたが何か情報を持っているか?」
バーテン
「・・・・へっへっへっへっへっへ。」
バーテンがヘラヘラとキュピルに対して笑う。
が、キュピルがコートの内ポケットから大量の札束をチラッと見せつけるとバーテンから笑みが消えた。
バーテン
「いくら出せる。」
キュピル
「80。」
勿論口でこそ言わないが、後ろには『万』がつく。
バーテン
「150だ。」
キュピル
「いや、80だ。」
バーテン
「それじゃ話しにならねぇ。酒の注文を聞こうか。」
バーテンが棚に置いてあるウィスキーボトルを一本持ち出し、ガンッとカウンターの上に叩きつけるように置く。
キュピル
「・・・負けを認めよう。だがそれでも100だ。これ以上要求するなら別の奴に聞く。」
バーテン
「それで時間までに間に合うと踏んでるならいいだろう。だがこっちも150以上じゃなければいわねーな。」
キュピル
「わかったよ、150出す。あとエールボトル一個くれ。」
バーテン
「いいだろう。少し待て。」
バーテンが棚からエールボトルを取り出しカウンターの上に置く。
その後従業員専用の控室に戻った。
ボトルの栓を抜いてエールをグラスに注ぎ少しずつ口に含みながらバーテンが戻るのを待つ。
・・・・・。
5分ほど経過し、ようやくバーテンが控室から戻ってきた。
が、そのままキュピルを素通りする。
キュピル
「金は何時出せばいい。」
バーテンが振り返り再びキュピルの前で立つ。そして少し姿勢を低くし小さな声でキュピルに語りかけた。
バーテン
「俺がお前に魔法石を渡す時に出せ。現金でな。
今場所を魔法石にインプットしている。部屋に帰ったら魔法石を四回叩き、三秒経過したら5秒以内に5回叩け。
そうすれば後は魔法石が場所を教えてくれる。」
キュピル
「嘘の場所だったらどうするつもりだ?」
バーテン
「俺はここでCHH最大の酒場を営んでる。嘘つくメリットはないから安心したまえ。」
キュピル
「わかった。どのくらいかかる。」
バーテン
「さあな、だが開演までには間に合わせてやるよ。それまで酒でも飲んでな。こいつは俺のサービスだ。」
バーテンがウォッカの入ったボトルをカウンターの上に置く。
バーテン
「火酒とも呼ばれるウォッカだ。飲んでみるか?」
キュピル
「過去にスピリッツを飲んだ事がある。それと比べればウォッカなんか大した事ない。」
バーテン
「スピリッツを飲むとは大した男だ。だがこのウォッカは普通のウォッカじゃないぞ。」
バーテンがグラスにウォッカを注ぐ。
バーテン
「飲んでみろ。」
キュピルがニヤリと笑い一気飲みする。
魔法石が完成するまで十分暇はつぶせそうだ。
・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
キュピルが宿屋を出てから15分ほどが経過した。
ずっとベットの上で横になっていた琶月だが未だにこの部屋の圧迫感に慣れず
ゴロゴロ転がって寛いでいた。
琶月
「(う〜ん・・・。・・・不安・・。キュピルさん早く戻ってこないかなぁー・・。)」
枕元の隣に置いてある透明色の小さな水晶玉を手に持ち眺める。突かなければキュピルに救援信号が届く事はない。
琶月
「(これやっぱりギーンさんから貰ったのかな。国の首相と連携している個人経営者って・・・よくよく考えたら凄い・・。
ルイさん玉乗りしましたね!)」
そんな失礼な事を考えていると扉の鍵が開く音が聞こえた。誰かが入ってきた。
琶月
「あれ?キュピルさんもう戻って来たんですか?」
持っていた水晶玉をベットの上に放り投げ上体を起こしてベットから降りる。
部屋の角を曲がって玄関の見える位置に移動した瞬間、突如男二人に拘束された。
琶月
「っっっ!!!!????」
全く予想していなかった展開に半パニック状態に陥る琶月。
そのまま壁に叩きつけられ頭を強打する。意識が朦朧とし首がガクッと下がる。
男一人が琶月を特殊なテープで両腕両足を拘束し、もう一人は琶月の和服を脱がしていく。
琶月
「ぅっ・・・っ・・・・。」
何が起きているのか全く理解できないまま、されるがままになり意識が回復した時には
既に両腕両足は壁に拘束されており和服は脱がされていた。
残りは胸を隠すサラシと下着だけだった。
琶月
「い・・・一体何が・・何をっ・・・。」
男二人は無言のまま琶月のサラシを取り、無色透明のシールを乳首を覆いかぶせるように張り付ける。
壁に叩きつけられた時に後頭部を強打した痛みが徐々に引き始め意識もしっかりしてきたが今度は恐怖により声を出せない。
下着は破かれ同様に無色透明のシールを大事な部分であるクリトリスに密着するようにシールを張る。
琶月
「いっ・・・・嫌だ嫌だ嫌だ!!取って!!」
琶月が暴れて拘束を解こうとするがただのテープではなく鉄の鎖以上に強い力で琶月の四肢を拘束している。
男達が仕事を済ませるとその場から去り部屋から出て行った。
琶月
「な・・何もしてこない・・・?」
絶望しか見えなかった展開から突如救われた気がした琶月。
一度大きく深いため息をつき気持ちを落ち着かせる。
琶月
「は、早く水晶玉を・・叩いて・・キュピルさんに救援・・信号を!」
今水晶玉はベットの上に置いてある。手でも足でもあの水晶玉にさえ触れられれば・・・。
だが仮に片手が拘束から解かれたとしても届きそうにはない位置にある。結局は四肢の拘束全てを解かなければいけない。
琶月が精一杯力を振り絞って腕を動かし、腕を壁に張りつけているテープを剥がそうとするがやはりビクともしない。
またあの男達が帰ってくるかもしれない。そう考えるだけでまた半パニック状態に陥り暴れるが体力を消耗するだけで
剥がれる兆しが全く見えない。
琶月
「はぁ・・・はぁ・・はぁ・・。」
体力を使い果たし息切れする琶月。裸で壁に張りつけられているため徐々に体温が奪われていく。
琶月
「もう・・一体何なの・・・・。」
もう一度大きく深呼吸し、スタミナを回復させようとしたその時。
突如乳首とクリトリスに張り付いていたテープが微振動を起こし始めた。
琶月
「ひぃっ!!?」
突然の刺激に体をビクッとふるわせる琶月。
ヴィィィィンと鈍い音を立てながらテープは細かな振動を送り続けていく。
琶月
「う・・、はぁっ・・・!」
未知の感覚に戸惑いを覚えつつ、吐息を漏らす。
琶月
「なにこれっ!い、痛い・・!止まって!」
敏感な所が直接振動による摩擦を受けているため若干の痛みがある。
このまま激痛になってしまうのではないのかと不安になりもがき続けるが意味はない。
だが不安とは裏腹に体が勝手に跳ね、経験した事のない未知の刺激が襲いかかってきている。
若干の痛みと未知の感覚。琶月が苦悩の表情を見せ耐える。
気がつけば痛みは感じなくなった。だが心地よい気はしない。いずれにしてもよくない状態だと判断し脱出しようともがく。
だが神経の塊であるクリトリスに微弱振動が伝わり意思に反して体が跳ねる。
慣れた人であっても直接振動が響けば誰だって堪える。
初めて味わう未知の刺激に琶月は再びパニック状態になり泣き叫ぶ。
琶月
「や、やだっこれ!あああぁぁっ!!」
激しく暴れて拘束を解こうと精一杯もがくが努力空しくも琶月の体力を消耗するだけだった。
琶月
「んぅっ・・!んっ・・・!」
時々大きな刺激を受け胸や腰をビクッ、ビクッと震わせる。
琶月
「んっ・・・っっぁ・・・!!」
勝手に変な声をあげてしまい、それに恥ずかしさを覚えた琶月は声を抑えるが
運動して息切れしたかのように息を荒げる。
琶月
「はっ・・・はぁっ・・!・・・っっああぁ!!」
また大きな声をあげる。刺激が段々ピンポイントに琶月の弱点へと響く。
それと同時に振動が段々強くなってきている事にも気付く。
琶月
「はっ・・!はっ・・!!」
膝がガクガク震える。クリトリスへの刺激もそうだが琶月にとって胸から与えられる刺激も大きい。
クリトリスで与えられる刺激は琶月の体を昂らせ、胸から与えられる刺激は琶月の精神を昂らせる。
体を震わせ刺激に耐え続けていた琶月にある変化が訪れる。
これまで与えられた刺激に対してただ体が反応してきただけだが、昂らせられた感情と強制的に与えられる刺激が二乗し
刺激が快感へと変わりつつある。
琶月
「こ・・・これっ・・・はああぁぁっっ・・・。」
虚ろな目をし、胸と腰をぶるぶると震わせる。
気持ちがドンドン昂り余計に乳首とクリトリスへの意識が集中していく。
腰が熱く、勝手に震えていく。与えられる刺激・・・快楽は徐々に下半身全てに広がって行く。
乳首を震えさせているテープからにも快楽を覚え、刺激・・快楽は上半身全てに広がって行く。
琶月
「あっ、あっ、あぁっ!」
鼓動が速くなり息も荒くなる。
振動はドンドン高まり耳を澄ませば先程まで鈍い音だった振動音は徐々に高音へと変わりつつある。
体全身で快楽を受け止め琶月がいよいよパニックが最高峰に達する。
琶月
「こ、これ誰か止めてええええ!!!い、いぃぃ・・あああぅぅぅ!!!!」
何度か叫び声を上げるが息切れを起こし呼吸を整えようとする。だが刺激のせいで上手く深呼吸出来ない。
必死に落ちつけと自分に言い聞かせるが一人と言うこの状況が酷く不安に感じまともな思考能力が残っていなかった。
歯を食いしばり、勝手に涙がこぼれキュピルが助けに来てくれる事を祈り続ける。
裸を見られてしまう羞恥心より今は早く安心したい。そんな気持ちで一杯だった。
だがそんな事はおまかいなしに、またしても知らない感覚が琶月を襲う。
お腹のあたりがピクピクと軽く痙攣を起こし熱いエネルギーのような塊が体をのぼりつめて行く。
琶月
「うう・・・・ああああぁぁぁっっ!!!!」
大きな快楽の塊がドンと琶月に送り込まれる。体がビクンと大きくはねる。クリトリスで小さな絶頂を人生初めて経験した。
だが絶頂を迎えても振動は止まる事を知らず、更に強くなっていく。
絶頂を迎えた後に味わうはずの甘い余興が手のひらを返し、凶暴な牙を向いて琶月に襲いかかる。
琶月
「だ、だめっ!!わああああああああああああ!!!!」
弓なりに体を仰け反らせる。何も考える事が出来ず、体全身が震えだす。
琶月のアソコからは愛液が溢れだす。クリトリスを震わせているテープに愛液が被着すると
振動によって遠くへ飛び散り辺りを濡らしていく。
琶月
「だめ、だめ、だめ!!もうだめ・・!!」
止まるどころか更に振動が強くなっていく。与えられる刺激は一番始めと比べると大分強くなっており
琶月が初めて感じる快楽は徐々にキャパシティを越えつつあった。
汗を全身にかき、滴となった汗が琶月の体を伝って落ちて行く。
琶月
「そこ・・変にっ・・・!!うぅぅ・・・うううぅぅぅっ!!!」
一度軽い絶頂を味わった琶月のクリトリスは今敏感になっている。
振動も徐々に強くなっており声を抑える事が難しくなっていた。
いや、既に琶月の頭の中ではこの刺激、快楽に耐える事に精一杯でそこまで既に頭が回っていない。
琶月
「あっ!あっ!!はああぁぁっっ・・!!!」
心臓が激しく鼓動する音が聞こえる。体は快楽で一杯になっており心も快楽による昂りで一杯になっている。
今の所乳首よりクリトリスの方が刺激が強く感じられるが再び琶月の身体に異変が現れた。
胸周辺がチリチリと焼けるような感覚に襲われ息が荒くなっていく。
琶月
「ああっ・・やあぁぁっ・・!!む・・胸・・・変・・に・・・」
目をぎゅっと瞑り体をこわばらせる。
自然と息も詰まり、その数秒後。胸を前に突き出し大きく弓なりに仰け反る。
振動の仕業もあるが琶月の胸の筋肉が収縮を繰り返し上半身をぶるぶると震わせる。
乳首で初めて絶頂を迎え琶月が大きな叫び声をあげる。
だがその時、クリトリスと乳首に張り付けられたテープがより一層激しく振動しだす。
まるで胸で絶頂を迎えた事をテープが知りたたみかけているかのようだった。
ガクガクと体を震わせ、胸による絶頂が終わる前に今度はクリトリスによる絶頂を迎える。
琶月
「っっぅううぅっっぁぁっっっぁあああああああああーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
今自分の体が一体どうなっているのか理解出来なかった。
勝手に体が陸に打ち上げられた魚のように跳ね、与えられる快感全てを脳、心で感じている。
壁に寄りかかり襲いかかる快感全てを受け止め続ける。数秒間の間、頭の中が真っ白になったが
琶月に取って数十分のようにも感じられた。
僅かに絶頂が退き、強張っていた足から一気に力が抜け地面に座りこもうとしたが両腕を拘束しているテープがそれを
許さず半宙づり状態になる。
ぜぇーぜぇーと荒く呼吸し涙を目に浮かべる。
テープが起こす振動は微振動から振動、そして強い振動へと変わって行く。
今さっき絶頂が訪れたばっかりだったが、すぐにまた絶頂の波が押し寄せてきた。
琶月の膣が収縮を繰り返し続け、そして痙攣を起こす。
再び絶頂を迎えようとした瞬間、またしてもテープの振動が強まり、今までの中で一番強い快感が押し寄せた。
琶月
「っっっっっ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
全身ガクガク震える。もう足に力が入らず腕の拘束で体のバランスを保っている。
もはや叫ぶ事もままならず、考える事もできない。今分っているのは耐えきれない快感にやられているっということだけ。
絶頂の波は退かず、強振動によってまた新たな絶頂が訪れる。
その間隔はどんどん短くなっていき体全身が常に痙攣しているかのようにビクビク震える。
意識が朦朧とし、何も考える事は出来ない。今はただ襲いかかる快感を全て受け止める。
あまりに強すぎる快感に琶月の意思、心が打ち砕かれていく。
世の中にこういった感覚があることを琶月は今まで知らなかった。
そう、琶月にまた新たな変化が現れてきている。
それはテープの発する魔法の仕業か。それとも偶然琶月がそういう考えに至ったのか。
琶月
「っっっぁぁぁぁっっ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
くっ・・・・くるぅっ〜〜〜〜!!!!
はぁぁぁぁっっっぅ〜〜〜!!!!!!!!」
何度目か分らない強い絶頂。
恍惚とした表情を浮かべ強い快感に体全身を震わせ、そして半歓喜のような声をあげる。
琶月自身はまだ気付いていない。
しかし今琶月は確実に快感に身を全て委ね、そしてそれを求め期待している。
終わらない快感。永遠に続くと思われる強振動。
再び胸と腰を前に突き出し強すぎる絶頂を迎える。
琶月のアソコから愛液が吹きだし、体全身から汗が滲み出る。
無色透明だったテープは青白く光り魔力を帯び始める。
・・・・。
この時。既に一時間半経過していた。
・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
バーテン
「起きろ。おい。」
キュピル
「んむっ・・・ぐっ・・・。」
バーテン
「ハハッ、お前実は酒弱いな?無理して飲み続けやがって。だがその根性、嫌いじゃないけどな。
ほら、起きないと間に合わなくなるぞ。」
キュピル
「・・・今何時だ・・・?」
バーテン
「午後六時半だ。待たせたな、今インプットが終わった。部屋にでも戻ってゆっくり位置を確認する事だな。」
キュピル
「・・・・・。」
キュピルが無言で札束をカウンターの上に置く。
バーテン
「これは気付け薬だ。少しは酔いも醒める。飲んでおけ。」
キュピル
「ありがとう・・。」
そう言って魔法石をポケットの中に入れ酒場から出て行く。
バーテンがニヤリとほくそ笑む。小声でぶつぶつつぶやく。
バーテン
「お前は本当は酒にそんなに弱くなかった。だがこの酒はちょっと例外でね。
飲むと眠くなっちまう。・・・なぁに、安心しろ。その魔法石に刻まれてる地図『は』本物だ。へっへっへ・・。」
・・・・。
・・・・・・・・・。
段々気付け薬が効いて来た。
意識がはっきりとし腕時計に目をやって少し焦りを覚える。
キュピル
「(しまったな、琶月には六時に帰るように行っていたのに30十分もオーバーしてしまった。
俺こんなに酒弱かった自覚はないんだが・・・)」
酒場から更に15分ほど時間をかけて宿屋へと戻る。
宿屋に入ると再びオーナーと目があう。
オーナー
「おかえりなさいませ、旦那様。BWは順調でございますよ。」
キュピル
「それはよかった。」
適当な返事をし自分の部屋へと帰る。
ポケットから部屋の鍵を取り出し、解錠して扉を開ける。
が、扉を開けた瞬間琶月の叫び声が聞こえた。
キュピル
「!!」
慌てて部屋の中に入ると目の前には全裸で壁に縛り付けられ快感に悶える琶月の姿があった。
全身汗びっしょりで乳首とクリトリスに青白く発光するテープのようなものが張られている。
そのテープが振動を起こしているようだ。全速で扉と鍵を閉め、琶月の拘束を解こうとする。
キュピル
「何だこれは!!くそ、剥がれろ!!!」
酔いが一瞬で醒める。
驚くべきことに琶月は目の前にいるキュピルに気付いていない。頭の中が快楽で埋め尽くされている。
とにかくこのふざけた事をやめさせなければ。一旦拘束の解除を諦めクリトリスに張り付いているテープを
剥がそうとした。だが琶月の愛液でテープが塗れており滑ってうまく摘めない。
振動も強すぎてずっと触っていると手がしびれてくる。
琶月
「ぃっっっ〜〜〜〜〜!!!!ぁぁっっ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
琶月が体を激しく震わせる。これではうまくテープが剥がせない!
何が何でもテープを剥がさなければ。キュピルが無理やり琶月の体を抑えつけ、力づくでテープを剥がす。
剥がした瞬間琶月の頭がガクッと下がる。すぐに両乳首にも張り付いているテープを剥がし捨てる。
テープは剥がれた瞬間振動を停止している。
キュピル
「琶月!大丈夫か!?誰か入ってきたのか!?」
琶月
「っっっ〜〜〜〜!!!!」
刺激が止まってもまだ体が震え続けている。
次はこの拘束を解かなければ。手っ取り早く剣で切り裂いた方が早そうだ。
剣を抜刀しようと腰に手をかけたその時。
キュピル
「・・・ない・・!?剣がない!!?
・・・しまった・・まさか酒場で寝ていたあの時に・・・!!!」
大失態だ。だが今は反省している場合じゃない。
怒りを力に変えて無理にテープを剥がす。強引に剥がそうとするがやはり取れない。
・・・が、数秒かけて1cmずつ剥がれてきているのが分る。その調子で無理やり引き剥がし続けようやく左腕の拘束を解いた。
同じように右腕の拘束を解くと力なく琶月がキュピルの身によりかかった。体がまだ震えている。
キュピル
「琶月!!しっかりしろ、俺が誰だか分るか!?」
キュピルが呼びかけるがただ荒い呼吸を繰り返し、時折大きく体を震わせるだけだった。
琶月の姿勢に気を配りながら残った両足の拘束も解き身を自由にさせる。
すぐに琶月をベットの上に寝かせ浴室にあるタオルで琶月の汗を拭きとる。
キュピル
「(・・・まさか・・・BWってこれの事じゃないよな・・・!?)」
もしそうだとすれば・・・。
・・・とんでもない失態を犯してしまった。
まだそうだと分った訳ではないが・・・これは一体・・・。
タオルで琶月の胸に付着した汗を拭くと突然起き上がりキュピルに抱きついて来た。
キュピル
「っ!?」
琶月
「っっっっっ〜〜〜〜!!」
体がぶるぶる痙攣し震えている。・・・信じられなかったが軽く触れられただけで強い刺激を受けているようだ。
流石にもうどうすればいいのかキュピルも分らなくなり、今琶月に一番何をしてあげなければいけないのか考える。
そして導かれた結論は体力、意識の回復。この様子では刺激を与えられ続けていた場所は相当敏感になっており
気化熱を防ぐために汗を拭きとっても下手すれば逆効果になる可能性がある。
今は毛布もかけずただベットの上に寝かせる。
キュピル
「・・・・・・・」
心の中で悪態をつきまくる。
・・・・誰かに襲撃されたのか・・・どうしてこうなったのか・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
しかし異常経験を積んできているキュピルはこの状況下でも冷静に物事を考えられている。
それは薄情か、それとも利口か。
琶月の意識が回復するのを待つ間にバーテンから渡された魔法石を動かし詳細を確認しよう。
場所と開催時間さえ分れば何時まで部屋で休めるのか分る。
バーテンに言われた通り魔法石を四回叩き、三秒経過してから魔法石を五秒叩く。
その瞬間、魔法石から青白い光が溢れだし飛び出て行った。
飛び出た光が壁にぶつかるとCHH全体の地図が映し出されていた。
そしてあるビルの一点だけ紅く光っている。
その横にはビルの名前、オークション開催時刻、そして合言葉が描かれていた。
キュピル
「オークション開催時刻は午前1時から・・・。
入場に必要な合言葉が・・『WIH』。・・・WIH?」
これもまた何かの略称なのだろうか。
手帳に情報を数分かけて記載する。記載し終えた瞬間魔法石は粉々に割れた。
・・・今時刻は午後7時。あと五時間後に開催される。
事前に建物内の調査もしたい。今すぐ出発したい所だが琶月をこのままにしておく訳にはいかない。
もしかするとまたあんな目に合わせてしまうかもしれない。
ベットの上で横になっている琶月に目をやる。
まだ時々体が震えているが、少しずつ呼吸も整ってきた。それでもまだ荒いほうだが・・。
ベットの隣に移動し額の汗を拭きとる。すると琶月がゆっくりと目を開けキュピルを見る。
キュピル
「琶月、大丈夫か・・?」
琶月
「はぁっ・・・・。・・・はぁっ・・・。」
目が虚ろだ。今の状況を理解出来ていないでいる。
琶月
「・・・・うぅぅっ・・・・はああぁぁっ・・・!!」
琶月が頭を抱え苦しそうに呻く。
キュピル
「どうした?頭が痛いのか?」
琶月
「なにっ・・これっ・・!私と・・・私じゃない何かが・・・ああぁっ・・!!」
キュピル
「どういう事だ?琶月!」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
琶月
「(頭が・・・痛い・・・!)」
一瞬キュピルが見えたような気がしたが今はそれどころではなかった。
ハンマーで直接頭を叩かれているかのように重い頭痛が琶月を襲う。
・・幻聴が・・聞こえる。
『C (City of) H (Heaven and) H (Hell)。』
琶月
「うるさ・・・いぃ・・!」
『C (City of) H (Heaven and) H (Hell)。
私のこれまでの人生は地獄だった。地獄で産まれ地獄で育った。』
琶月
「何の・・事・・か・・全然・・・わからない・・!!
『私のこれまでの人生は地獄だった。地獄で産まれ地獄で育った。
けれど今私は天国にいる。地獄では味わう事の出来なかった気持ちよさ、快楽で私は天国へ昇れた。』
琶月
「やめ・・て・・!!そんなの変・・・!!うああぁっ・・・!!!」
『けれど今私は天国にいる。地獄では味わう事の出来なかった気持ちよさ、快楽で私は天国へ昇れた。』
琶月
「うぅぅっ・・!!うぅぅぅぅぅっっっっ!!!」
『今、私は幸せ。』
『今、私は幸せ。』
『幸せ』
『BW』
続く
すべての不幸は、幸福への踏み石に過ぎない。 ―ヘンリー・デイヴィット・ソローの言葉 |
キュピル
「琶月、しっかりしろ!まず俺が誰だか分るか!?」
・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
琶月
「・・・・こ・・・ここ・・は・・・?」
輝月
「・・・気付いたか?」
琶月
「・・・あれ?・・・師匠?」
意識がハッとし布団から起き上がる。辺りを見回しクエストショップの自分の部屋に戻ってきた事を確認する。
琶月
「・・・あ、あれ・・・。」
輝月
「起き上がるでない。もう少し横になったほうがよかろうて。」
輝月が優しく琶月の体を押し布団の上へ寝かせる。
体がとても軽い。まるで自分が羽になったかのようだ・・・。
輝月
「随分と苦労したようじゃな。」
琶月
「・・・はい。」
輝月
「キュピルが言っておった。しばらく休むが良いと。」
琶月
「キュピルさんが?」
輝月
「うむ。」
琶月が無言のまま布団を見つめ続ける。・・・五分ほど経過して輝月の方を見る。
琶月
「・・・これって今現実・・ですよね?夢何かじゃ・・・。」
視界がぼやける。
琶月が驚き布団の上から飛び出る。
『琶月!!!』
琶月
「・・・・?」
何処かで聞いた事のあるような声。
『頭が痛いのか?薬がある、ほら。目を開けてこっちを見てくれ・・・。』
琶月
「・・・・。」
輝月
「琶月!」
琶月
「は、はい!・・・あれ?」
気がつけばまた布団の上で横になっていた。
輝月
「大丈夫か?少しお主の事が心配じゃ・・・。」
琶月
「・・・心配してくれるなんて今日の師匠は優しいんですね。」
輝月
「失礼な奴じゃな。それとも苛められる方がお主は好きか?」
ああああ! っと叫ぼうとする。・・・ところが叫べない。
琶月
「・・・・・?」
声が出なかった事に違和感を覚えるが数秒すると違和感が消えた。
輝月
「お主は本当に辛い運命を歩んだな。じゃが安心せい。これから先はワシがお主を幸せに導こう。」
琶月
「・・・し、師匠?」
琶月がもう一度起き上がるが、ゆっくりとまた輝月に押し倒された。
輝月が優しい眼差しを琶月に向けながら和服に手をかけ、ゆっくりと脱がせる。
突然の輝月の行動に驚きも違和感も覚えなかった。ただされるがままになりサラシが露わになる。
輝月が両手でサラシをゆっくり千切る。膨らみが全くない胸が露わになると輝月が優しく琶月の乳首を摘む。
摘まれた瞬間、電流を流されたかのように体がビクッと反応し吐息を漏らす。
琶月が輝月の顔を見続ける。
輝月
「嫌か?」
輝月が琶月の乳首を唇で軽く咥える。恍惚な表情を浮かべながら返事を返す。
琶月
「いえ・・もっとやってください。」
返事を聞いた輝月が咥えている琶月の乳首を舌でコロコロ舐めまわす。
両腕を交差するように顔の上に乗せ心地良い刺激を全身で感じ続ける。
琶月の心、頭はある一言で一杯だった。
「幸せ。」
キュピル
「琶月!」
キュピルに呼びかけに初めて気づく。
助けられてから1時間経過した時だった。
琶月
「・・・・・・?」
琶月が弱った表情でキュピルの顔を見る。
キュピル
「俺の事が分るか?もう大丈夫だ、琶月から離れない。怖い事、危険な事から全て守る。」
まずは琶月を安心させる。そう思って言ったが妙な答えが返ってきた。
琶月
「・・・私は幸せです・・・。」
キュピル
「・・・幸せ?」
琶月
「師匠・・ずっとついていきます・・。」
キュピル
「俺は輝月じゃないぞ。なんだ、まだ寝ぼけているのか?」
琶月
「・・・寝ぼけて何か・・・・・あれ・・・今私は何を言って・・・?」
キュピル
「大丈夫か?ほら。」
キュピルがタオルを差し出しす。が、琶月はタオルではなくキュピルの腕を掴む。
そしてそのままキュピルの手を自分の胸に当てる。
さっきと同じように琶月がまた、ぶるるっと震え幸せそうな表情をキュピルに見せつける。
すぐに手を引っ込め、すっと表情を変えてあえて笑顔で琶月に問い掛けた。
キュピル
「ほら、寝ぼけているじゃないか。目の覚ます一言でも言ってやるか?」
琶月
「・・・・・・・。」
キュピル
「琶月!!!」
琶月
「・・・!」
琶月の目が大きく見開く。
キュピル
「今すぐ目を覚まさなければ減給!!」
琶月
「はぅ・・・。」
ひたすら胸を攻められ喘ぎ声をあげる。でも嫌じゃない。大好きな師匠が愛してくれている。
幸せな気持ちで満たされずっとこのままでいよう・・。そう思った瞬間、突然叫ばなければいけない気がし叫び声をあげる。
輝月
「琶月?」
琶月
「し、師匠!ちょっとどいてください!」
輝月をどかし、そして・・・。
琶月
「ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!(ry」
脳が瞬時に覚醒しあやかしの琶月が一瞬で消える。
琶月
「起きます!!はい!減給取り消し!!!残念でしたーーーーー!!」
キュピル
「これはうざい。」
ポカッと琶月の頭を軽く叩く。
琶月
「痛っ・・・。・・・・あれ・・・?今まで私何を・・・?」
キュピル
「・・・とにかく・・目覚ましたか?」
琶月
「はい!・・・へっくしゅん!」
下を向いてくしゃみする。が、その時服がない・・いや、服を着ていない事に気付く。
琶月
「・・・・あれ?・・・なん・・・ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!」
ようやく自分がいま裸だという認識出来、琶月がキュピルの顔面を思いっきり殴る。
キュピル
「ぐぇっ!!!」
琶月
「わ、わ、わ、私に何しようとしたんですかぁぁぁーーーーーーー!!!!
る、るる、るる、る、ルイさんがいながらーーーー!!!!」
キュピル
「・・・・お前ーーーーーーーーーーー!!!!」
琶月
「あんぎゃああぁぁっぁぁぁぁーーーーー!!!」
キュピルが枕を思いっきり投げつける。琶月の顔面にぶつかりそのまま後ろに倒れてベットから落ちる。
キュピル
「壁に拘束されていたってのに!」
琶月
「か、壁に?・・・・・っっっ!!!!」
記憶がよみがえる。突然男二人が部屋に入り、琶月を拘束して服を脱がし・・・大事な所にテープを張られ悶えていた事を。
琶月
「(・・・キュ、キュ、キュピルさんに・・あんな姿・・見られた・・・?)」
キュピル
「・・・と、とにかく・・。」
キュピルが若干赤面しながら背を向け椅子に座る。
キュピル
「ここで俺は作戦考えているから早く服を着てくれ。」
琶月がバッとベットから飛び降り床の上に落ちている和服を拾い鞄の中から新しい下着とサラシを取り出す。
真っ先に下着を履く・・・が。
琶月
「ぅんんんっ・・!!」
履いた瞬間体がビクビクと震えその場に座り込む。
・・・認めない。絶対に認めない。
同じようにサラシを手に持ち、真っすぐに伸ばすと端を片手で押えながらぐるぐると強く胸を締め付ける。
琶月
「・・・っっ!・・はぁぁぁっっ・・・!!!」
キュピル
「琶月?」
キュピルが振り向く。それに気付いた琶月が即座に枕をキュピルに投げつけ慌ててベットの下に隠れる。
琶月
「へ、変態変態!訴えますよー!」
キュピル
「頼む、それだけは勘弁してくれ。不可抗力だ!」
キュピルが色々喚くが全て琶月の耳に入ってきていなかった。
サラシを強く締め付ければ締め付けるほど体全身が震え、壁に張りつけられて悶えていた時となんら変わらない状態になってくる。
何とかサラシを結び、和服も着るが体を動かせば覚えたばかりの快楽が再び琶月を襲う。
特に乳首がサラシと擦れるたびに信じ難い快楽を受け困惑する琶月。
・・・こんな状態が仮にずっと続いたとしたら、とてもじゃないが日常生活に戻れない。
琶月
「うぅっ・・・はぁっ・・・」
キュピル
「着替えたか?」
琶月
「は、はい。」
キュピル
「・・・琶月、例のオークション会場の場所が分った。」
琶月
「・・・・・。」
キュピル
「琶月?」
琶月
「あ、はい!!・・・えーっと、会場が見つかったんですか?」
キュピル
「そうだ。・・・心ここにあらずって感じだな。気持ちは分る。何も言わなくていい。」
だが当然の事だがキュピルの考えていた事と琶月が考えている事は全く違った。
それは琶月も予測出来ていた。
琶月
「・・・・っっ・・・・。」
少しでも乳首がサラシと擦れると小さな吐息が漏れる。
キュピル
「琶月、本来の予定では一緒に同行してもらう予定だったがあんな事が起きてしまってはもう無理だ。一旦・・・」
琶月
「い、いやです!!私ここに一人残りたく・・うはぁぁっっぅうぅっっ〜〜〜!!!」
琶月がキュピルの腕を掴んで引きとめようと動いた瞬間、敏感になった乳首とサラシが擦れて大きな快楽を生み
そのままキュピルの腕を抱きしめる。
琶月
「ぁぁっっっっ〜〜〜〜!!!?」
体がガクガク震え、震えを抑えようとより一層きつくキュピルの腕をきつく抱きしめる。
キュピルが何か叫んでいるが耳に入ってこない。
押しつぶされそうな不安感。その不安感を打ち消そうと信頼できるキュピルに抱きついて安心感を得ようとする。
それでもどうしようもない不安とプレッシャーに結局押しつぶされ泣き喚きながらキュピルの腕にしがみ付く。
その間キュピルはこの先どうすればいいのか分らず、ただ困惑した表情を見せるだけであった。
・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
琶月が泣きつかれ眠ってしまった。、先程の拷問に等しい快楽責めの疲れも重なってのだろう。
時刻は午後9時。・・・そろそろ現地調査しに行きたいが琶月がこの様子ではかなり難しい。
キュピルが茶色の魔法石を荷物入れから取り出し数回叩く。すると茶色い魔法石から映像が映し出された。
映像にはギーンが写っている。
ギーン
『どうした。』
キュピル
「ギーン。作戦遂行が困難だ。」
ギーン
『何が起きたか具体的に話せ。』
キュピル
「パートナーの琶月がダウンしてしまった。調子が戻るのに相当時間かかる。
これではオークション会場に入れない可能性がある。」
ギーン
『詳しく話せ。』
キュピル
「オークション会場を特定するために調査に出かけ、戻ってきたら琶月が壁に拘束されていて
・・その・・なんだ。拷問見たいなことをされていた。」
ギーン
『おい。BWされた訳じゃないな?』
キュピル
「ギーン、BWの事について知っているのか!?宿屋から出る時BWについて聞かれたんだ。
いきなり四つのアルファベットの中から選べって言われたからBとCって言ってしまったが・・・。」
ギーン
『・・・クソが。報告を遅らせたあの兵士にはあとで厳しく追及してやる!
早くお前に知らせるべきだった。』
魔法石から流れる音声からギーンの声のほかに兵士同士で喧嘩する声が聞こえる。
・・・三馬鹿兵士か?
ギーン
『BWはブレーンウォッシングの略称だ。どんな手段でもいいから頭の中を真っ白にさせて何も考えられない状態にさせる。
その状態で特定の魔力を流し込むと、名前の通り脳を綺麗に洗い流される。』
キュピル
「洗い流されるとどうなるんだ?」
ギーン
『何者かに色々囁かれ、結果今ある自分を捨て自分が一番求める物をご主人様とやらに求めるそうだ。
奴隷なら主人。お前の場合は偶然共にしていたっていう理由だが。それで琶月はBWされてしまったのか?』
キュピル
「・・・残念ながら・・・そうだ。だが冗談交じりによく言う台詞を言ったら一時的に何時もの琶月に戻った。
・・・これは関係あるか?」
ギーン
『一時的に何時もの琶月に戻った?・・・BWは24時間かけて行う物らしいが・・。琶月は何時間BWを受けた?』
キュピル
「推測しか出来ないが最長でも4時間だ」
ギーン
『四時間なら初期段階をちょうど終えた所だったかもしれないな。まだ本来の自分というものを流しきれなかったのだろう。』
キュピル
「琶月はBWから回避できたと思っていいのか?」
ギーン
『思って良い。ちゃんと性格は元の琶月に戻っているはずだ。後の事もあるだろうがそれはお前が何とかしろ。』
キュピル
「何とか・・って・・。」
ギーン
『BWされていたってことは琶月の裸を見たってことだろ?責任でも持ったらどうだ。』
キュピル
「冗談はやめてくれ。琶月はまだ・・・・」
そこまでいいかけて喋るのをやめた。
ギーン
『早めにBWから救出出来て幸運だったな。下手に長引けば元に戻らない可能性だって当然ある上に
局部にマナが流れ続ける。丸一日やられたら敏感になりすぎて廃人になる所だったな。』
それを聞いてますますキュピルが焦る表情を見せる。
ギーン
『・・・大体なぜ、クズを連れてきた。ルイならば信頼関係も実力も良いはずだ。
お前が勘違いでもしてルイがBWされそうになったとしても迎撃しただろうな。』
キュピル
「ルイは別件でどうしても駄目だった。」
ギーン
『なら輝月だったか?あの小娘には頼まなかったのか?信頼関係はルイには遠く及ばないだろうが
実力ならルイ以上なはずだ。同様にBWされそうになっても迎撃したはずだ。』
キュピル
「輝月はヘルと喧嘩して重症を負って来れなくなった。」
ギーン
『・・・クソが。・・・確かにそうなると次は琶月しかいない。』
キュピル
「悪いが、ジェスターとキューは例え実力、信頼関係あったとしても連れて行く気はない。」
ギーン
『それはわかっている。・・・なら他三人は?他三人なら危険な目に合わせてもよかったのか?』
キュピル
「ルイと輝月は信頼関係はあるし実力もあるから任せても良いと思っていた。
・・・・琶月は・・・・。」
ギーン
『ふん。この一件が終わったら一応補助するが然るべき責任とっておけよ。言っておくが労災の意味でだぞ。』
キュピル
「分ってる。・・・頼む、俺もこんな事は初めてで少し動揺しているんだ。あんまり俺を怖がらせないでくれ。」
ギーン
『・・・まぁそうだな。お前にはしっかり印章を返してもらわないといけない。
オークション会場は分ったのか?』
キュピル
「オークション会場は分った。」
ギーン
『流石だな。だが肝心の琶月がダウンしたっていうことは入場条件を満たさなくなったってことだな。
どうやって入場する? 主催者は何を考えているのか知らんが、入場条件は女の奴隷を一人連れてきている事だったな?』
キュピル
「レポート報告が正しければ・・な。そのために琶月を連れてきたが・・・。」
キュピルが振り返り琶月に目をやる。
疲労困憊の顔を見せながら爆睡している。これはもう叩いても起きないだろう。
・・・一応試しに叩いてみるが反応が返ってこない。
キュピル
「琶月。」
琶月
「・・・・・・・・・。」
気絶しているのか眠っているのかよくわからない。
キュピル
「・・・無理だ。」
ギーン
『単騎突入はどうだ?いけるか?』
キュピル
「・・・実は剣を盗まれてしまった・・・。武器なしで突入は無理だ。」
ギーン
『くそがっ!!・・・琶月の刀は?あるのか?』
キュピル
「一応ある。外を歩いている時は奴隷の役割を演じているから俺が携帯していたが・・・。」
ギーン
『琶月の刀では単騎突撃も難しいか?』
キュピル
「やってみなければわからないが・・・。とにかく今は最悪の手段・・普通に落札も視野に入れている。」
ギーン
『止むを得ん・・・。犯罪率がますます上がるがここで印章を渡すわけにはいかんからな。今のうちに資金を用意しよう。
それで変わりの奴隷を用意しないといけないな。』
キュピル
「・・・まさかCHHで信頼できる奴隷を一人見つけてこいって言うのか?」
ギーン
『出来るならそれでも構わんが?だが俺が言いたいのはクエストショップの連中を魔法で
即座にその場にテレポートさせる事が出来るぞ。』
キュピル
「・・・もしかしたらルイがもう家にいるかもしれない。・・・だけど・・・・。」
・・・・琶月がこんな事になってしまっている。
キュピルも大きな責任を感じているのと同時に琶月がこうなってしまった事実を隠したい。
特にルイに知られたら後で大きな問題になるような気がする。
キュピル
「・・・現地で信頼できる奴隷を探してくる。あるいは琶月の刀で単騎突入する。」
ギーン
『見栄を張るな、安全な手段を使え。戦闘はなるべく回避しろ。』
キュピル
「見栄なんか張っていないし、ちゃんと印章は取り返してやるさ。」
そういってキュピルは魔法石を二回叩き通信を切断させる。
キュピル
「・・・琶月・・・・。」
項垂れるようにして琶月が寝ているベットに寄りかかる。
・・・・しばらくそのまま考え込んでいると突然頭に何か乗ってきた。
・・・琶月の手だった。
キュピル
「琶月・・・?」
呼びかけるが返事はない。顔を見るが眠っている。
・・・琶月の手がキュピルの腕をしっかり掴み離さない。安心できる人が近くに居て欲しいのか。
キュピルが腕ではなく、手を握らせギリギリの時間まで琶月の面倒を見ることにした。
・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
更に3時間程が経過した。時刻は0時0分。ちょうど日付けが変わった所だった。
キュピル
「ん・・・しまった・・。つい寝てしまった・・。」
前のめりになってベットの上で寝ていた。恐らく横顔にベットの痕がついているだろう。
起き上がろうとしたが体が豪い重い事に気付く。
後ろを振り返ると琶月が必死な形相をしながらキュピルに抱きついていた。
キュピル
「琶月、起きたのか?」
琶月
「起きてます・・。・・・・・・・・。」
キュピル
「大丈夫か?具合は悪くないか?」
琶月
「・・・死にそうな程不安何です・・。私・・・私っ・・!」
キュピル
「落ちつこう。な?クエストショップに帰ろうか。」
琶月
「・・・え?でもお仕事・・・。」
キュピル
「気にするな。仕事の残りは全て俺がやる。
CHHにワープポイントはないから徒歩で帰る必要があるが砂漠の途中まで見送ってやるから。」
琶月
「い、嫌だ嫌だ嫌だ!キュピルさんも一緒に帰ってくれないと・・・私・・不安で・・不安で!!!」
キュピル
「は、琶月!俺より信頼できる輝月がいるだろう・・!それとも俺の事心配してくれてるのか?優しいな。」
琶月
「ち、違いま・・す・・!!キュピルさんと離れるって・・・それを考えるだけで・・・こ、心が・・あ、ああ・・・ああああああ!!」
琶月がキュピルを強く抱きしめ泣き喚く。
琶月
「怖いいぃっっ!!怖いんです!!!」
・・・何も言えなかった。
・・・一体どうすればいいのか。
キュピル
「だ、だが琶月・・!もうすぐオークションが開催される!俺は行かないと!」
琶月
「だったら!だったら私も行きます!!」
キュピル
「そんな調子だとまた恐ろしい目にあうぞ!」
琶月
「そ、それは・・・その・・・だけど・・・だけど・・・!!!
今はキュピルさんと離れたくないんです・・!一人は怖い・・・!!」
キュピルの服を細い腕と小さな手で強く握りしめ、顔をキュピルの背中に埋め涙で服を濡らす。
・・・琶月の背中から離し正面に向きあう。両肩に手を置いて小さな声で呟く。
キュピル
「・・・わかった。だが今から言う事は守れるか?言うぞ?
1、俺の許可、指示なしに勝手に喋らない事。
2、役割を最後まで演じきる事。
3、危険な目にあってもパニックにならない事。
4、最後まで俺の事を信じる事。
・・・一つでも守れないのがあったらクエストショップに返すぞ?」
琶月が一度大きく深呼吸する。そして手の甲で涙を拭きとる。
琶月
「・・・はい、大丈夫です!!
私はキュピルさんの許可、指示なしに勝手に喋りません!
そしてキュピルさんから与えられた役割を最後までこなし、どんな目にあってもパニックになりません!
最後に、どんな事があっても必ずキュピルさんが何とかしてくれると信じています!」
キュピル
「最後が何か妙に俺を不安にさせたが、元気出たようだな。
・・だが本当にいいんだな?危険だぞ?成功失敗ともかく宿から出たらもう後戻りできない。それでも来るんだな?」
琶月
「はい!行きます!!」
琶月の小さなが手がキュピルの手を強く握りしめる。
強い不安の原因は俺にある・・?そう心に思いつつも、作戦を遂行するために琶月は必要なため連れて行くことにした。
キュピル
「よし、それなら琶月。心の準備を済ませてくれ。いよいよオークション会場に突入だ。」
琶月
「はい!」
キュピル
「琶月が演じる役割はこの前も話した通り『奴隷』だ。大事にされている奴隷は衣服の着用は認められているが
武器の装備は基本的に認められていない。とりあえずいつも通りの服でいいし荷物関係は何も準備しなくていい。」
琶月
「わかりました。・・・あ、ちょっと・・・後ろ振り向いて貰って良いですか?」
キュピル
「ん?」
琶月
「サラシを少し巻き直したいんです。」
キュピル
「あぁ・・わかった。」
キュピルが後ろを向き、椅子に座る。
琶月が帯を緩め上半身を露わにする。そしてサラシを外す。
琶月
「(んんっ・・!)」
サラシと乳首が擦れまた声が出そうになる。
・・・だがピークは越えたのか。一眠りする前とした後で比べれば幾分か感覚は鈍くなっている。
それでも常人と比べれば遥かに敏感だが・・。
サラシを外してそのまま荷物入れにしまう。今サラシをして歩けば擦れて感じてしまう。
あえてサラシを外してそのままにする。角度によっては和服ともこすれるが常時擦れるサラシよりはマシだ。
すぐにまた和服を着直し立ち上がる。
琶月
「(よし、大丈夫。)」
下半身の方は始め下着を見に着けた時はかなり厳しかったが、今は特に問題なさそうだ。
琶月
「キュピルさーん、準備出来ましたよー!」
キュピル
「準備出来たか?それじゃさっそく出発するぞ。役割を忘れるなよ。」
琶月
「はい!」
キュピル
「あぁ・・・それと琶月。」
琶月
「何でしょうか?」
キュピル
「琶月の刀。借りていいか?」
琶月
「え?別に構いませんが・・・。キュピルさんの剣はどうするんですか?・・・あれ?キュピルさんの剣どこ?」
キュピル
「・・・盗まれた・・・。」
琶月
「ええええええ!!!ど、どうするんですか!!?」
キュピル
「大丈夫。今まで何度もあの剣を失くしてきたが最終的には俺の元に戻ってきた。
それにあの剣は高い。もしかしたら今日のオークションで流れるかもしれん。」
琶月
「なるほど!それなら早く行かないといけませんね。」
キュピル
「(本当だったら事前にその建物内部に侵入してどういう構造しているか調べて再度突入だったが・・。
今回は仕方ない。会場に入ってオークションでセリ落とそう。)
さっそく行くぞ、琶月。苦労かけるけど頼むぞ。」
琶月
「はい!」
・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
琶月を連れて建物一階へと降りる。
先程会話をしたオーナーと再び目が合う。思わずオーナーに怒りの表情を見せるがすぐに隠す。
オーナー
「・・・いかがなされましたか?まだBWの途中だと思われましたが・・。」
キュピル
「お前に知る権利はない。」
オーナー
「・・・その通りです。ご無礼失礼致しました。」
オーナーがふかぶかと頭を下げる。
琶月
「(キュピルさん・・口論というか舌戦というか・・口勝負になると凄く強いなぁ〜・・。)」
オーナー
「何かご不満があった訳ではございませんよね?」
キュピル
「違う。この宿屋に文句はない。」
オーナー
「恐縮でございます。」
キュピルが宿屋の外に出ようとした時、オーナーに再び話しかけられた。
オーナー
「旦那様。その女をまた外に出すつもりですか?逃げられたら一溜まりもありません。」
キュピル
「こいつにはよく躾している。」
オーナー
「そう言って逃げられ捕まった者を私は何人も見てきています。外に連れ出すなら首輪ぐらいはつけておくべきですよ。」
そういうとオーナーはカウンターの下から鉄の首輪を取り出しキュピルに投げつけた。
首輪の先には鎖と南京錠が繋がっており鍵がないと外せない作りになっている。
オーナー
「遠慮する事はありません、旦那様。それは私からのサービスです。」
キュピル
「・・・なら頂いて行く。」
キュピルが目で琶月に合図する。琶月が自らキュピルに背を向け、乱暴にキュピルが琶月に鉄の首輪をつける。
首輪をつけ終えると琶月が少し苦しそうな表情を見せているが「我慢してくれ」と目で訴える。
オーナー
「確かに。よく調教された子のようで。」
その言葉には返事せず、キュピルが首輪に繋がった鎖を引っ張りながら外に出て行った。
再び異臭のする路地に出てきた二人。
この広大な貧民街を渡り歩き今夜開催される盗品オークション会場へと向かう。
道は全て手帳に記録してある。
鉄の鎖を引っ張りながら歩くキュピルと琶月。
時折人とすれ違うが、当たり前の光景なのか琶月の顔をチラッと見てすぐに何処かへ行った。
琶月
「(・・すれ違う度に私の顔見てくる・・・。何かついてるのかな・・・?)」
キュピル
「(奴隷でも顔は皆重視するんだな・・・。男だったら見ないか。)」
琶月の疲労も考えて走ることはしないがやや早歩きで進んで行く。
宿屋から出たのが0時10分。そして40分後にオークション会場に辿りついた。
キュピル
「(ギリギリだった。)」
他のビルより一段と高く、入口もやや広い。両端にフードをふかぶかと被った男が立っており手には
物騒にもナイフを持っている。
キュピルが入口を通って中に入ろうとするとフードを被った男がキュピルに近づいて来た。
フードを被った男
「用件は。」
キュピル
「今日ここで開かれる盗品オークションに参加しにきた。」
フードを被った男が、ナイフを持っていない手でフードを少しあげキュピルの顔を見る。
キュピルの方からはフードのせいで顔元が暗くよく見えなかった。
男が一瞬鼻で笑う。
フードを被った男
「合言葉は。」
キュピル
「WIH」
フードを被った男
「・・地下3階だ。入って左にある扉を開けて階段を使え。」
それだけいうと再びフードは定位置についた。
キュピルもそれ以上は何も口を聞かず、琶月の首に繋がっている鉄の鎖を引っ張って建物の中に入る。
石の壁がむき出しになった建物内。鉄の扉を開け湿気た階段を降りて行く。
15m程階段を下り地下三階へと辿りつく。目の前に少し錆びた鉄の扉がある
キュピル
「(ここにオークション会場があるのか。)」
キュピルが鉄の扉を開け中に入る。目の前には壇上があったため一瞬オークション会場だと思ったが
よくみると壇上にあるのは四肢を拘束する器具。そしてその隣には文献でしか見た事のない怖い拷問道具が置いてあった。
即座にバーテンから受け取った地図は仕組まれた罠だと察知し、琶月の刀を抜刀する。
その瞬間、左右から斧を持った傭兵らしき敵が現れキュピルを真っ二つにしようと振りおろしてきた!
しかし先に察知したのはキュピルの方だった。琶月の刀で傭兵を一突きし、更にもう一人の傭兵を
振りかえりざまに切払い首を切断する。
琶月
「わっ!わっ!わっ!!!」
琶月が驚きキュピルの体に密着する。
キュピル
「琶月、やられた。これは罠だ!!」
琶月
「わ、わ、罠!!?」
「反応が良いな。ただの冒険者じゃなさそうだ。」
キュピル
「お前は・・・。」
壇上に誰かが現れた。・・・夕方会った酒場のバーテンだ!
キュピル
「騙したな!!」
バーテン
「騙される方が悪い。生憎だが私は利益主義者でな。利益となりそうな事だったら何でも手を出す。
今日の盗品オークションは実に有意義な時間だった。」
キュピル
「何だと。・・・・まさか。」
バーテン
「そうだ。とっくのとうに盗品オークションは終了した。開催時刻は午後9時。終了は午後11時。」
琶月
「え・・そ、そんなぁ!!何でそんな酷い事するんですか!せっかくの昇給、ボーナスが〜〜!」
キュピル
「騙す理由なんて・・決まってる・・・。こいつが盗品オークションに参加していたのなら尚更だぞ・・。」
琶月
「え?キュピルさん分るんですか?」
バーテン
「そこのマヌケな女のために教えてやろう。この男が盗品オークションの会場を知るかどうか私に訪ねてきた。
私は盗品オークションの参加予定者だ。参加に必要な条件は全て知っている。
盗品オークションの参加条件は奴隷を一人・・連れてくることだ。私が嘘の情報を与えれば
その男はきっと信じ込んで奴隷と共に嘘の場所へとやってくるだろう。
現にお前は奴隷を一人連れてここへやってきた。」
階段から傭兵が数人現れた。キュピルと琶月が部屋の中央に退避すると四方八方から傭兵が現れ
キュピルと琶月を中央に追い詰める。
バーテン
「CHHではね、宝石や高い酒なんかよりも『人』の方が高く売れる。
・・・特に若い女の子は宝石並・・いや、それ以上の価値を持つ事もある。
見た所その娘は価値の高そうな奴隷だ。」
琶月
「わ、私は・・奴隷何かじゃ・・!!」
バーテン
「余興はお終いだ。予定通りやれ。女は間違っても殺すな。」
バーテンが指示を下すと傭兵が一斉に襲いかかってきた!
即座に琶月が傭兵に捕まり、部屋の隅へ追いやられる。
琶月
「い、嫌だ!嫌だああ!!た、助けてキュピルさん!ひ、一人・・一人は・・怖い!!怖い!!!!!」
キュピル
「くっそ・・!!!」
罠だったとは。情報料の値引き合戦・・・、嘘だったら酒場を潰すなど様々な要因がキュピルに
正しい情報だと思わせてしまった。傭兵は皆斧を持っており、上下に振って地面を砕いたり
左右に大きく振って避けにくい攻撃などを繰り出してくる。
こんな攻撃を刀で受け止めればたちまちヒビが入ったり壊れてしまうだろう。
始めは防戦一方や反撃を入れたりしていたが多勢に無勢。
いくら反撃しても攻撃が装甲を貫かず、急所を斬りつけたりしようとしても他の傭兵の斧が飛んで来て
刀を引っ込めざるを得ない状況に持って行かれる。
キュピル
「(まずい・・・。)」
静かに焦るキュピル。
後ろに一歩、また一歩下がりながら攻撃を避け時々反撃する。だが誰一人傭兵は倒れずついに壁際まで追いつめられた。
琶月
「キュピルさんっっーーー!!!!!」
琶月の声に反応しキュピルが思わず琶月の方に目をやる。
その一瞬の隙に傭兵が一斉に攻撃し何の鎧も身に着けていないキュピルの腕を斬り落とした。
琶月
「!!!!!!」
キュピル
「っ・・・あぐあがぁっ・・?!!!」
刀を持っていた右腕が斬り落とされた。
死を覚悟するキュピル。
キュピル
「・・くっ・・・。・・・琶月・・・琶月・・!!」
傭兵が斧を振り上げトドメを刺そうとしたその時。斧を平らにし刃のない所でキュピルの頭を思いっきり叩いた。
強い衝撃を受けキュピルが一瞬で気絶する。
殺されるとばかり思っていた琶月が仰天し目を丸く見開く。
琶月
「・・こ・・・ころ・・殺して・・ない・・?」
バーテン
「殺しはしない。さっきも言っただろう。この街・・・CHHでは人は時に宝石や酒より高く売れると。
この男の顔、細い体つきは売春要員に向いている。だが男は女と違って力が強い。時に脱走をもくろみご主人様を
傷つける事もある。だから売春される男の奴隷はご主人様に引き渡される前に利き手と片足首を切断する。
脱走を防ぐためにな。勿論権利を得たご主人様が『よせ』と言えば切断されないが、今はいずれ切断される運命だ。
それが少し早くなっただけだと思えばいい。・・・意外に思ったか?まっ、大半は売れずにそのまま強制労働施設に連れて行かれるけどな。そいつを早く連れて行け。」
傭兵が気絶したキュピルを引きずり別室へ連れて行こうとする。
右腕の二の腕付近から腕が切断されており、引きずられた右腕から血が溢れ続け赤い道が出来る。
心の柱となっていたキュピルがやられ、大パニックを起こす琶月。
泣き喚いたり見境もなく大暴れし始めた。一瞬傭兵が琶月から退く。
琶月の右腕が硬い石の壁にぶつけ怪我をする。
バーテン
「怪我させるな!大切な『商品』だ、早くあの拘束器具で動きを止めろ。」
四人の傭兵が琶月の四肢をそれぞれ一本持ち運ぶ。体を揺らして暴れる琶月だが全く意味がない。
そのまま祭壇の上にある拘束器具に四肢を拘束され10時間前の時とまた同じ状況になってしまった。
涙をぼろぼろ零し、恐怖で体を震わせる。
バーテンが琶月の体をあちこち触り、時折魔法を唱えたりして体を調べる。
バーテン
「・・・こいつは中途半端にBWされた状態か。極度に精神が不安定なのも頷ける。
既に一度、一部ではあるが極度に敏感になってしまった体も味わった事がある・・と。
・・・決まりだ。お前の体はとっても貧相で普通の方法じゃ中々売れん。
だがお前をしっかり・・じっくり調教して開発してやれば驚くほど敏感な体になれるセンスを持っている。
世の中には、『声も出ない程強烈な快感を受けて悶える姿』を見て満足する変態がいるんだよ。
お前はそういう所に売り飛ばされる運命だ。・・・まずはそのためにも。」
バーテンが振り返り、祭壇の上に置いてある箱を開く。そして中から琶月も見た事のある物を取りだす。
・・・指には一枚のシールが張り付いていた。
バーテン
「BW・・そしてじっくり調教する。」
バーテンが近づいて琶月の胸に触り貼り付けようとした瞬間。琶月が最後の抵抗か、頭を大きく振り下ろして
バーテンに頭突きする。
かなり強烈に入り、バーテンが痛そうに頭部を抑えながら座りこむ。
・・・そして。
バーテン
「・・・この糞アマァァッ!!」
琶月
「ひぐぅっっ!!!!」
バーテンが思いっきり琶月にボディーブローを入れる。琶月が苦しそうに咳き込むが二度、三度間髪をいれずに
次々と琶月には耐えられないボディーブローを繰り出す。琶月が体を動かせる範囲で丸くなりそして嘔吐した。
長い間食べ物を食べていなかったため吐き出たのは胃酸だけだったが、時々ピクピク動いた後、力なく項垂れ気絶した。
バーテン
「ったく・・・。目覚ましたら天国に強制的に連れてってやる・・・。
お前の連れが言っていただろ。『WIH』って。あれは略し言葉だ。お前に教えてやるよ・・。
W(Where) I(is) H(heaven)・・だ。『天国は何処?』・・・ここだよ、ここ。
あぁ、だがもう一つの意味もある。Where is Hell。地獄は何処?・・・それもここだよ、ここ。クックック・・・。
安心しろ、お前等二人とも天国へ行く。連れていけ。目ぇ覚ましたらBWする。」
バーテンがそう言うと傭兵達は拘束器具の台を動かし何処かに連れて行った。
続く
一番の近道は、たいてい一番悪い道だ。 ――フランシス・ベーコンの言葉 |
ルイ
「ただいまぁ〜♪」
ジェスター
「おっかえっりえり〜♪・・・・わっ!!ルイお酒臭い!!」
ルイ
「わぁっ!ジェスターさんがお出迎えしてくれてる〜〜♪ジェスターさん本当に可愛いですよ〜。もふもふ〜♪
だめでしょージェスターさん!今何時だと思っているんですかー?危ない人に襲われたらどうするんですか?」
ジェスター
「ぎゃぁぁぁー!ファン〜!助けて〜!ルイが危ない人ーーー!!」
ファン
「ルイさん、お酒飲んできたのですか!?あれほど酒癖悪いと自覚しておきながら・・・。これ気付け薬です。」
ルイ
「ありがとうーファンさん〜。ふふふ。」
ファン
「ジェスターさんも早く寝てください。深夜一時すぎてますよ!!」
ジェスター
「今日のルイ怖い。寝る。」
ぴゅんと自分の部屋に逃げるジェスター。
ルイ
「はぁ〜。キュピルさぁ〜ん!お土産ありますよ〜!」
ファン
「今日キュピルさん帰ってきていないです。」
ルイ
「え?帰ってきていないのですか?」
ファン
「はい。もしかすると数日間出張で帰って来れないかもと仰っていました。」
ルイ
「私にお願いしようとしてたお仕事頑張ってるみたいですねー・・。パートナー探してましたけど結局誰が?」
ファン
「琶月さんです。」
ルイ
「あぁぁー!!琶月さん!!私のキュピルさんを寝取らないでくださいよ!!!」
ファン
「ルイさん!早くお風呂にでも入って酔いを醒ましてください!!」
ルイ
「ふふふ〜♪
・・・・・・。・・・・ファンさん。」
ファン
「何ですか、もう。」
ルイ
「・・・・・今キュピルさんの身に何か起きた気が・・。」
ファン
「酔っているんです!早く寝てください。」
・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
琶月
「ん・・・。」
体が物凄くだるい。・・・自分でも物凄く長い時間の間眠っていた事がよくわかる。
両手両足を伸ばして背伸びしようとするが体が動かせない。
目を開け自分の体がどうなっているのか確認する。白い台の上に寝かされており、服は脱がされている。
両腕両足は拘束器具によって絞めつけられている。・・・意識を失う前に何が起きていたか、状況を振り返って行く。
その途中、声が聞こえた。
「目、覚めたか。」
首を少しだけ起こし、声のする方に目をやると自分達を捕えたあの男が立っていた。
バーテン
「準備を済ませた後に目覚めとはタイミングが良い。」
琶月
「・・・・・・・・。」
バーテン
「怖いか?体が震えているぞ。」
バーテンの問い掛けに答える余裕もなかった。
頭の中で地下三階で起きた戦いの記憶がグルグルと繰り返し再生している。
・・・罠にかかったとキュピルが叫ぶ・・中央に追い詰められ捕えられ・・・キュピルが右腕を斬り落とされ・・・
そして最後に・・・。
バーテン
「怖がらなくてもいい。間もなくお前は天国へ辿りつく。今お前はその入口に居る。」
琶月
「・・・・・・・・。」
無言のまま涙がこぼれる。
バーテン
「これからBWする前に自己紹介は済ませておこう。私の名はバル・マハラ。琶月・・。名前は覚えているぞ。
身元や詳細も調べさせてもらった。紅の道場の当主・・輝月の一番弟子らしいな。
今はクエストショップにお互い身を置いているみたいだが・・。」
身元が割れた事に琶月が驚きの表情を見せる。
琶月
「ど、どうやって・・・。」
マハラ
「不思議か?だろうな。しかしこの輝月と言う娘は奴隷にしたらさぞ上玉になれるだろうな。」
琶月
「し、師匠は絶対に負けない!!」
マハラ
「キュピルに敗れ続けている輝月がか?キュピルが瞬殺されたと言うのにか?」
琶月
「ちゃんとした装備で正々堂々と戦ったらキュピルさんは絶対に負けなかった!」
マハラ
「正々堂々?・・・ハッハハハハハハ!!このCHHでそんな言葉を使うとは!
すっかりそんな言葉忘れていた!せいぜい輝月が助けに来ない事を祈るんだな。
さもなければ、お前の隣で同じように快感であんあん喘ぐ事になるぞ。」
琶月が珍しく怒りを露わにし、怒った表情でマハラを睨みつける。
拘束器具をガチャガチャと激しく揺らし勢いだけで見れば今にも鎖をちぎりそうだ。
マハラ
「面白い。その心、いつまで持つか。
そうだな・・・あの男。キュピルに会いたいか?」
琶月が体を動かせる範囲で上体を動かし、必死な形相で頷いた。
マハラ
「会いたいか。それならこれでも持ってろ。」
マハラが床から何かを拾いあげ琶月の手に握らせる。
それは確かに手の形をしていて・・・だが氷のように冷たく・・。
恐る恐る目を向けると、今琶月が握っている物は斬り落とされた誰かの右腕だった。
だが琶月はすぐにそれがキュピルの腕だとわかった。
琶月
「ひっ・・!!っ・・ぁっ!!?」
驚き手を離す。ボトッと右腕が落ちる音が聞こえた。
マハラが目の前で高笑いする。
マハラ
「落としたらあの男が可哀相だろ?
・・・さて、余興もこの辺にして本番に移ろう。自分の体を見ろ。そこの位置からだと胸しか見えないだろうが。
いや、貧相すぎて胸も見えないか?」
琶月が震えながら頑張って上体を起こし目を限界まで下に向けて自分の体を見る。
・・・胸には見た事のあるテープが張られていた。
マハラ
「A、B、C、V。全て張りつけてある。徐々に天国へ昇っていくが良い。」
マハラがにやりと笑う。
琶月
「い・・嫌だ・・嫌だっ・・!」
まだ何もされていないのに呼吸が荒くなる。
A、B、C、V。その意味は分らなかったがあの時よりも怖い目に会うという事だけは分っていた。
目を瞑って気持ちを落ち着かせようとする。だが次の瞬間。テープが震えた。
琶月
「はぁぁっ・・!!」
大きなため息が漏れた。
両胸に張り付けられたテープが微振動を起こしている。
今はまだそこしか震えていないが乳首が敏感になっていた琶月に取っては辛い刺激だ。
もう何度目か分らないパニック状態に陥り声を上げようとするが思うように声が出せず心の中が滅茶苦茶になる。
マハラ
「このテープは統領が開発した物だ。統領は偉大なる権力者でもあり、偉大なる魔術師でもある。
テープを張り付けられると、その場所の神経が徐々に作りかえられ敏感になっていく。
何なら手にでも張り付けてやろうか?」
琶月が一生懸命首を横に振る。
マハラ
「ハッハハハハハ、安心しろ。今はやらない。
だがいずれは全身このテープを張り付ける。それまでドキドキしながら待つんだな。
今日一日。じっくりとな・・・。」
琶月の顔が青ざめる。この感覚が体のどこを触れてもそうなってしまったら・・・。
もう二度と日常生活には戻れない。マハラが高笑いする。
その時、部屋に誰かが入ってきた。マハラが雇っている傭兵のようだが慌てている。
マハラ
「何だ?」
傭兵
「マハラ様。・・・あのお方からお電話です。」
マハラ
「すぐいく。」
部屋から出て行くマハラと傭兵。
一人取り残された琶月。
・・・BWが始まった。
・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
キュピル
「・・・・・・・。」
意識はとっくの前に覚醒している。ただ今は目を瞑りじっと機会を待っている。
右腕は斬り落とされ、魔法か治療か分らないがよくわからない革がくっついて止血されている。
そして残った左腕は鎖につながれ、両足も足枷がついている。
今キュピルがいる部屋は独房だ。当然鎖をはずすことは出来ないし仮に出来たとしても
この鉄格子だけはどうにもできない。
暴れたりもがいたりしても体力を消耗するだけ。それをキュピルはよく分っていた。
だから暴れることはせず、ただひたすら眠って機会を待つ。
いずれ何らかのアクションを起こすために一時的だとしてもこの独房から出される日が来る。
その時が最後のチャンスだ。そのチャンスを失えば二度と・・ここから逃げる事は出来ない。
強制的に肉体労働をされるのか。それとも身も心も自由を奪われるのか。はたまた投薬実験でもされるか。
何にしてもハッピーエンドでないのは間違いない。
キュピル
「(・・・CHH。・・・この街は想像以上に闇が深かったな・・・。
あの時は信じるしかなかったとはいえ・・・もう少しどうにかできなかったものか・・・)」
腕を切断されたのは今回が初めてじゃない。だからそれほど動揺したりはしていない。
今は魔法も科学も進歩している。義手だろうが何だろうか右腕はきっと元通りになる。
だから今はここから逃げる事だけを考えよう・・・。
独房から抜け出す事が出来たらすぐに琶月を・・・・。
キュピル
「(・・・俺は琶月を助けられるだろうか。)」
心の中で考え事をし、この議題が来るたびに迷いが生じる。
仮にこの独房から抜け出せたとしても武器もなければ利き腕もない。不慣れな左手だけで戦うのは難しい。
・・・そう、最善の道は琶月をここで見捨て一度帰還し態勢を整えることである。その後琶月を助け出す。
だがそれまで琶月がずっとここにいるとは限らない。もしかすれば何処かに売られる・・または死んでいるかもしれない。
あの事件が起きてから琶月はずっとキュピルに救いを求めていた。今も助けを呼んでいるに違いない。
・・・いつ、琶月の心が砕けるか分らない・・・。
キュピル
「(・・・どうする・・・・・。)」
・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。
「ぐあっ!」
キュピル
「・・・・?」
今叫び声が聞こえた。一体何が起きた?
目を開ける。・・・足音が大きくなってきている。誰かがこっちに来る。
・・・独房の前に誰か一人現れた。
???
「情けないな。」
キュピル
「・・・・その声・・。」
ローブを着た男
「また会ったな。」
中央エリアで一度手合わせしたあの男だ。
男は独房の鍵を取り出すと大きな錆びた南京錠を外し独房の中に入る。
そしてキュピルに近づくと切断された右腕を観察する。
ローブを着た男
「少し痛むだろうが我慢しろ。」
ローブを着た男が魔法を詠唱しながらキュピルの右肩に触れる。
しばらくすると突如激痛に襲われキュピルが呻き声をあげる。
キュピル
「うわっ・・・うぐがっ・・・!!」
ローブを着た男
「声を抑えろ、痛いのは分るが今は耐えろ。」
切断した部分を覆い隠されていた革が燃え、次の瞬間。切断した部分から白い骨が生え出し
それを包み隠すように赤い血管が伸びる。最後にそれも包み隠すように肉が出来、先端は徐々に手の形になっていく。
数十秒後にはキュピルの右腕が元に戻り、今まで通り動かせるようになった。
キュピル
「おぉ・・・すごいな・・。・・・しかしどうしてこんな所に・・・。まさかあの時の借りを返しに来たとか言わないよな?」
ローブを着た男
「俺にはある目的がある。そのためには君の力が必要だ。」
キュピル
「俺の力?・・・純粋に戦いの腕は君の方が上に見える。」
ローブを着た男
「腕が良くとも頭脳明晰な頭がなければこのCHHでは生きられない。」
ローブを着た男がキュピルを縛り付けている手枷に針金を入れる。
ローブを着た男
「助けてほしいか?」
キュピル
「当たり前だろう。」
ローブを着た男
「それなら取引しよう。」
キュピルが怪訝な表情を見せる。こんな所で取引しようと言いだすなんて気が触れているとしか思えない。
キュピル
「取引だって?・・・手でも貸して欲しいのか?」
ローブを着た男
「流石頭脳明晰な頭の持ち主だ。察しがいい。」
キュピル
「手を貸すって・・・。一体何に手を貸すって言うんだ。奴隷売買の手伝いでもさせる気じゃないよな?」
ローブを着た男
「かもしれないな。」
キュピル
「なんだって。」
ローブを着た男
「だが君は受け入れざるを得ないはずだ。なぜならば今脱出できる唯一のチャンスなのだから。」
あの男の言っている事は滅茶苦茶だ。
こんな状況でなければ受け入れるはずもない提案だ。
キュピル
「・・・全く持ってその通りだ。」
ローブを着た男
「手を貸してくれるならこの魔法石を右手で握って名前を呟け。この前みたいに嘘を吐かれちゃたまったもんじゃない。」
キュピル
「契約みたいなものか。」
新しく出来あがった右手で魔法石を握り、自分の名前を呟く。
一瞬魔法石が光ったがその後は何も起きなかった。
キュピル
「これでいいのか?」
ローブを着た男
「それでいい。キュピル、これから先長い付き合いになるだろうがよろしく頼む。」
キュピル
「長い付き合いになるのかどうかはまだ分らないぞ。」
ローブを着た男
「いいや、なる。この魔法石を使って契約したからにはな。これから先逆らうと魔法の力で即死するから気をつけろ。」
キュピル
「おい!」
ローブを着た男
「さて、別の看守がやってくる前に一度退散しよう。俺の目的・・そして仲間も紹介したい。」
キュピル
「待て、知らないかもしれないがこの建物に琶月っていう名前の俺の仲間がいる。救出しないと。」
ローブを着た男
「・・・そうか。あの子は君の仲間か。だが困ったな。あの子にはもう買い手がついてしまった。
それも恐るべき事にCHHを治める統領がな。」
キュピル
「なんだって?・・・どうしてもうそんな事を知っている?」
ローブを着た男
「仲間を紹介した時分るだろう。テレポートで移動する。俺の手に掴まれ。」
キュピル
「待て琶月が・・!」
ローブを着た男
「今は諦めろ。タイミングが悪い。
・・・誰か来る。行くぞ、キュピル。」
ローブを着た男が強制的にテレポートを唱えその場から脱出する。
その数十秒後。別の看守がやってきたが牢獄は蛻の殻だった。
・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
琶月
「はぁぁぁっ・・!!」
深いため息を吐きながら体を震わせる。乳首、クリトリスに張られているテープが微弱振動を起こしている。
琶月の気持ちが昂り、筋肉が強張る。絶頂を向かえそうになると急激に強くなり一気に絶頂を迎える。
宿屋で受けたあの責めとは物が全然違う。
向こうは乱暴に振動を加え、始めは痛みとも取れる刺激だったがここではギリギリ感じ取れる微弱振動から始まり
気持ちが十分に昂ってから振動が強くなっていた。
無理やり高みへと突きあげられた絶頂と違ってこっちは体の芯にまで響くような絶頂。
優しい絶頂を味わう度に琶月の緊張が徐々に解れ与えられる刺激、快感に対して素直になっていく。
先程まで心の中でこの快感に対して頭ごなしに否定していたが今ではそんなことも忘れ、与えられる快感に現をぬかす。
琶月
「す・・・凄い・・こ・・れ・・。うぅぅっ・・・わぁぁっ!」
また絶頂を迎えそうだ。振動がまた一気に強くなる。四肢を伸ばし襲いかかってくる強い快感に耐える。
ぶるぶると震え体が弓なりになる。そして一気に力が抜け背中が拘束台に叩きつけられる。
琶月
「も・・もぉ・・もぉだめ・・・はぁぅっぁ・・!」
その時、誰かが狭い部屋の中に入ってきた。・・・マハラだ。
マハラ
「お楽しみの所悪いな。悪い知らせと良い知らせを伝えに来た。何から知りたい?」
マハラが琶月に問い掛けるが耳に入っていない。虚ろな瞳で天井を見上げるだけだった。
マハラ
「聞こえていないか。では良い知らせから伝えよう。琶月に買い手がついた。
それもCHHを管理している統領からだ。・・・琶月、運がいいな。もう一生人生に困る事はないぞ。」
だが琶月はマハラの言っている事に耳は貸さない。いや、与えられる刺激で精一杯なのか。
マハラ
「次に悪い知らせだ。・・・琶月。密かに期待していたのかもしれんがキュピルが脱走した。」
琶月が上体を起こす。腰を何度かビクビク震わせるがその顔は希望に満ちている。
マハラ
「助けに来ると思っているのか?だが琶月が思っている程状況はよくない。残念なことにな。
誰の仕業か知らんがテレポートで逃げた形跡があった。ククク、テレポートが使える奴を
味方に入れている癖にお前を助けずに真っ先に帰っちまった。」
琶月の動きが一瞬止まった。与えられる刺激も完全に脳がシャットアウトしてしまっている。
マハラ
「まぁ仕方ないな。諦めろ。琶月はクエストショップでは成績が悪く使い物にならなかったようだな。
事あるたびに減給されて今までずっとお師匠さんに養ってもらってたんだってな?
そんな使えない奴は当然見捨てられる。このCHHだって例外じゃないからよくわかる。」
琶月
「・・・・・そ・・・・そん・・・な・・・。・・・キュ・・ピル・・さん・・・・・・?
本当に・・・本当に私・・・私を・・・見捨てたんですか・・・・・・?」
マハラ
「見捨てた。これは避けられない事実だ。」
琶月
「・・・・う、嘘だ・・!私を絶望のどん底に突き落とそうたって・・・む・・無駄・・・!!」
マハラ
「・・ご勝手に。」
マハラが内ポケットから葉巻を一本取り出しマッチで火をつける。
一服しながら琶月に問い掛け続ける。
マハラ
「ま、俺はこの結果でよかったんじゃないのかって思ってるが。
クエストショップではお前は必要とされていないがこれからは統領に必要とされる。
やっと自分の存在意義が出来あがったな。よかったな。」
琶月が上体を起こしたままずっとマハラを睨み続けていたが、糸がプツンと切れたかのように力なく倒れた。
涙が止まらない。
マハラ
「そう言う訳だ。統領に渡るからには中途半端な状態では引き渡せない。遊びはここまでにして本気でBWさせてもらう。」
マハラがそういうと琶月の膣内に指を二本入れ魔法を唱える。
その瞬間。膣内、アナルに張られていたテープが一斉に振動し始めた。
琶月
「ぁっっ!!!」
マハラ
「テープを追加する。」
マハラが道具箱からテープを一枚取り出し、適当な長さに切って琶月の膣内の中に挿入する。
マハラ
「魔法ってのは本当に便利だ。抱きなれた女じゃなきゃ見つけにくいGスポットだって一瞬で見つけてくれる。
琶月、お前のGスポットはここだ。」
マハラが膣内のある一カ所にテープを張り付け魔力を流す。その直後、Gスポットに張り付けられたテープが
強く振動と衝撃を繰り返し始めた。
始めはあまり変化は見られなかったが数分経過すると琶月の表情が恍惚に満ちた物となった。
数秒後、体の芯まで響くとても深い絶頂が訪れた。足先から指先までピンと伸ばし、仰け反る琶月。
アソコは愛液でびっしょりと濡らし、呻き声をあげ続ける。
乳首、クリトリス、Gスポット。三か所から与えられる快感は単純に足されたものではなく
それぞれの快感が三乗になって琶月を襲う。
マハラ
「今はまだ膣内の一部、アナルはそこまで刺激を感じられないだろうがいずれは少しの刺激だけで
泣き喚く体になる。その時を楽しみに待ちながら幸福を味わえ。」
葉巻の煙を琶月に吹きかけ、部屋から出て行く。
琶月の意識は既に朦朧としており、絡まった操り人形のように不気味な痙攣を続ける。
だらしなく口から涎をこぼし、何度も何度も絶頂へと追いやられる。
琶月
「もっ・・・もぉぅっ・・・うぁぁっ・・・!とっ・・・どめ・・・てぇっ・・・・!!」
叫び声をあげる余裕もない。体力の消耗が激しく、絶頂は琶月に信じられない快楽と幸福をもたらすが同時に
大きな苦しみも与えた。
琶月
「たっ・・たすけっ・・・し・・死ん・・死んじゃっ・・息・・できなっ・・。
・・・っっっっっっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
拘束台を大きく揺らしながらとても深い絶頂をまた迎える。
もう何も考える事が出来ない。何も考えられない。大きな快感は助けが来る事を信じる余裕さえも奪った。
そしてある瞬間から琶月は全く声を出さなくなり、ただ体を何度も震わせる人形となってしまった。
琶月
「・ぉ・・・・ぅっ・・ぁっ・・・・。」
暴力的な快感を受け止めながら琶月は悶え続けた。
ローブを着た男に連れて行かれた場所は、石造の壁がむき出しになっている部屋だった。
それなりの広さはあるが不思議なことにドアも窓もなく、外に繋がっているのは天井にある換気扇一つのみ。
照明は天井にカンテラが一つぶら下がっているだけで他に照明はない。そのため部屋の隅は非常に暗い。
部屋で真っ先に目についたのは中央にある巨大な水晶石と男と同じくローブとフードを身に着けた別の誰かが立っていた。
手には長い杖を持っており水晶を見つめ続けている。
ローブを着た男
「シャルウィン。俺達を助けてくれる新しい仲間を一人連れてきた。」
ローブを着た男がシャルウィンという名前の人物を呼ぶ。シャルウィンと思われし人物が振りかえった。
凛とした顔つきの女性で男と同じく灰色の目をしていた。目付きはやや鋭く顔の掘りも深い。
シャルウィン
「・・・そう、あなたが。」
キュピル
「・・・初めまして。きゅp・・」
シャルウィン
「キュピル。ナルビクでクエストショップを営んでいるオーナー。
数人の精鋭のみを雇用していて自ら依頼を引き受けて実行に移す事もある。」
キュピル
「・・・凄い、何故そこまで俺の事を・・・?」
シャルウィン
「全てこの水晶のお陰。」
キュピルが水晶に近づく。・・・時折青い光を発しているが不思議なことにその光で部屋が照らされる事はない。
水晶をまじまじと見つめ続けるが、いくら眺めてもキュピルの目にはただ時折光る水晶石にしか見えなかった。
ローブを着た男
「シャルウィンは本物の超能力者だ。彼女には全てを見通す力がある。
シャルウィン、彼を仲間に引き入れる事に賛成か?反対か?」
キュピル
「待て、意見も聞かずにあの魔法石を使って契約させたのか!?」
シャルウィン
「・・・心配する事はないわ、キュピル。私は貴方を迎える事に賛成する。
幾多の修羅場を潜ってきたその実力は申し分ない。それに貴方の心の属性は善良。中立でも邪悪でもない。
このCHHでは善良の心を持つ貴方はとても珍しいわ。悪が嫌いなのね。」
悪が嫌い。そう言われ何故か歯がゆい気分になる。
・・・そういえば小さい頃は本当に悪が嫌いだった。いつでも正義の味方だと叫んでいた。
ローブを着た男
「・・・まだ俺の自己紹介を済ませていなかったな。俺の名前はアーリン。アーリン・ゲンドだ。よろしく頼む。」
手を伸ばし握手を求める。新しく出来あがった右腕でアーリンの右手を強く握りしめ握手を交える。
キュピル
「・・・そろそろアーリンの目的を聞いてもいいか?」
アーリン
「これから話そうとしていた。・・・キュピル。話しを解りやすく進めるために先に目的を話す。
俺達の目的はCHH中心部にある黒い塔で監禁されている仲間を救出することだ。」
キュピルが驚いた表情を見せる。
キュピル
「・・・もっと難しい目的かと思っていた。何だか意外だ。」
アーリン
「キュピル、お前だって仲間が捕えられ黒い塔に監禁されたら助けに行くだろう?」
キュピル
「・・全く持ってその通りだ。・・・ただアーリン。牢獄から助けてくれた事には感謝するが
俺もCHHでやらなければいけないことがある。手伝いだけするって訳にはいかない。」
シャルウィン
「トラバチェスの印章は昨日統領が落札したわ。」
キュピル
「・・・・・・・。」
探し物をずばりと言われ、尊敬の気持ちが表れるがそれと同時に隠し事が出来ないという意味で
緊張の気持ちも表れる。
シャルウィン
「透視で得た情報は第三者には言わないわ、安心して頂戴。」
キュピル
「・・・頼むよ、本当に。何故トラバチェスの印章を手にしようとしているのかも解ってしまうんだろうが言わないでくれ。」
シャルウィン
「ええ。・・・アーリンは仲間を助けに。貴方は印章を手にするために。これでどうかしら?」
キュピル
「・・まぁ悪くない。これなら利害一致する。」
キュピルが腕を組み二度頷く。
キュピル
「・・・だがどうやってあの黒い塔に入るつもりだ?入口は見た事ないが当然ガードは固いはずだ。」
アーリン
「正面の入口から突破するのは不可能だ。軍隊が隠れている。」
キュピル
「それならどうやって・・。」
アーリン
「実は地下から黒い塔に入る隠されたルートがある。これはシャルウィンの超能力で得た情報だ。」
キュピル
「本当に凄いな・・・。この掟破りとも言えそうな能力に不可能はないのか?」
シャルウィン
「あるわ。私が一度でも実物をこの目で見た事なければ透視できないの。
黒い塔を見てそこから繋がるルートは見えるけれど、その隠された道は何処から入れるのかまでは知らない。」
キュピル
「実物を一度見ておかなければいけない・・?・・・それなら俺には沢山の仲間がいるが
その仲間を実際に目で確認しなければ俺の仲間の情報は得られないって事か?」
シャルウィン
「ええ、そういうところかしら。」
キュピル
「・・・完全に個人情報が筒抜けって訳でもないのか。」
シャルウィン
「私でも自分の不思議な能力の事あまり解らないの。ごめんなさいね。」
アーリン
「・・・あまりお互いの事情を深く知る必要もないだろ。利害さえ一致してればいい。
キュピルは実力も信念も信用できる。次に何をしなければいけないのか説明するぞ。」
キュピル
「頼む。」
アーリン
「俺達はあの黒い塔に繋がる隠しルートの入り口を探さなければいけない。
勿論隠しルートが入口より安全だという保障はない。だが可能性にはかけるべきだ。」
キュピル
「どうやって入口を探す?」
アーリン
「キュピルの仲間である『琶月』という名の奴隷が後日黒い塔へ搬送される。」
キュピル
「・・・・・・。」
奴隷という言葉に反応するが、協調を保つために突っ込まないキュピル。
アーリン
「奴隷略奪を行うならず者の襲撃を避けるために隠しルートを使って黒い塔へ入る事が予想される。
奴等を泳がし入口を特定する。」
キュピル
「入口さえ解れば助けてもいいか?」
アーリン
「それは危険だ。統領に手渡されるはずの奴隷が襲撃を受け連れ去られたとなればCHHは閉鎖され
血眼になってキュピルを探すだろう。自由自在にCHHの中は歩けなくなるぞ。」
キュピル
「観光しに来た訳じゃない。必要最低限外に行かなければいい。」
アーリン
「・・・ならば好きにしていい。ただし入口を突きとめる、または入口を特定するのに無関係だと立証されるまで手出し無用だ。いいな?」
キュピル
「わかったよ。ところでアーリン。」
アーリン
「今度は何だ?」
キュピル
「武器がない。何か貸してくれないか?出来れば防具もあれば嬉しいんだが・・・」
アーリン
「武器と防具か。・・・あの赤い剣はどうした?」
キュピル
「盗まれた。恐らく酒場でうっかり寝ちまった時だな・・・。」
シャルウィン
「酒場、それもCHHで寝てしまうなんて随分と度胸があるのね。」
アーリン
「武器は剣だったな?だがこの部屋にはナイフとダガー。それとシャルウィンが使っている杖しかない。」
キュピル
「おっと、アーリン。嘘はいけない。そこに武器と防具があるじゃないか。」
そういうとキュピルは以前アーリンが戦利品として頂いた黄金の鎧と装飾品の施された大きなハンマーを指差した。
アーリン
「あれは剣じゃないぞ。」
シャルウィン
「アーリン。彼は面白い事に殆どの武器を幼少時代に経験した事があるわ。」
アーリン
「・・・ハンマーも使えるのか。」
キュピル
「そういうことさ。」
アーリン
「キュピル。お前と言う男は本当に頭脳明晰かつ厚かましい男だ。」
キュピル
「どの口がそんな事を言っている。」
アーリンとキュピルが笑う。釣られてシャルウィンも苦笑する。
キュピル
「さて、目的も分った。段取りもOK、装備も完璧だ。後は琶月を救出・・もとい入口の発見だな。
いつ琶月は黒い塔に連れて行かれる?」
アーリン
「大体一週間後だな。」
キュピルの表情から一気に笑みが消えた。
・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ギーン
「キュピルからの連絡が途絶えた。」
最後に連絡が来てから早五日が経過した。
ここまで何の報告もないのは何か問題が起きたと見るべきだろう。
成功報告も失敗報告もない。それは即ち今現在敵に拘束されている事に繋がるが・・・。
ギーン
「ちっ、キュピルと琶月を早めに救出してやらないと後々大変な事になりそうだ。」
事情を知っているギーンは今二人にどんな災いが降りかかっているか大方想像がついている。
特に琶月はかなり不味い状況にいるだろう。
ミーア
「・・・私がCHHに行くか?偵察ぐらいなら出来るぞ。」
ギーン
「いや、可能な限り我が国が関与している事は知られたくない。魔法を一つ唱えてみろ。トラバチェス国民だと一瞬でばれるぞ。
それにお前が行けば何のためにキュピルに頼んだか分らなくなる。」
ミーア
「・・・魔法で召喚した物体は産まれついた場所によって変色する。オルランヌならオレンジ色。
トラバチェスなら濁った茶色だったな。・・・こんな話を数年前にもしたな。」
ギーン
「・・・ハルララスとユーファが死んだあの日の事か。」(シーズン8第八話参照
ミーア
「だが私はトラバチェスで産まれた者じゃないぞ。」
ギーン
「このトラバチェスに何年いると思っている。少なかれ、見た目こそ濁った茶色をしていなくてもレベルの高い魔術師が
冷静に分析すれば長年トラバチェスに住む者による詠唱だとばれるぞ。」
ミーア
「魔法とは難しいな。」
ギーン
「貴様は一体何のためにアノマラド魔法大立学校に入った。」
ミーア
「友人のピアに連れて行かれただけだ。」
ギーン
「・・・ピアか。」
トラバチェス首都に聳え立つ大きな塔。その塔の最上階にある王室で過去に戦闘が起きた。
その時、ミーアの親友でもあったピアが裏切り者だと発覚しこの王室で死んだ。
・・・その事をすっかり忘れていたギーンがバツが悪そうにミーアに謝る。
ギーン
「・・少し不謹慎だった。」
ミーア
「私も忘れていた所だった。だが魔法さえ使わなければいいのだろう?」
ギーン
「・・・突きつめればそうだが・・。・・・待て。ミーア。少し時間をくれないか?」
ミーア
「構わないが。・・・クエストショップに頼る気か?」
ギーン
「策は多ければ多いほど良い。」
それは奇策か、愚策か。
続く
成功者は無意識に、リスクを選ぶ。 |
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
シャルウィンの力を使って建物内の出入口を監視する事一週間。
アーリンの予測通り捕えられていた建物内でいつもと違う動きがあった。
水晶を一心に見つめ続けひたすら何か呪文のような言葉を呟き続け、水晶に映し出された映像をアーリンとキュピルが見る。
アーリン
「今日は何時もより傭兵が入ってきているな。」
キュピル
「それだけじゃない。護送馬車らしき荷台も近くにスタンバイしているぞ。今日運び出される事は確定何じゃないのか?」
アーリン
「焦るな、キュピル。」
シャルウィン
「・・・・・。12時よ。」
シャルウィンが唐突に時間を言う。
キュピル
「・・・12時?」
アーリン
「12時に奴隷が運び出される。今は11時。いつでも出発出来るように装備を固めておけ。
奴隷が外に出た瞬間、シャルウィンのテレポートゲートに乗って即座に追跡するぞ。」
キュピル
「テレポートってのは本当に便利だな。」
アーリン
「空間把握能力さえあれば誰でも使えるらしい。」
キュピル
「・・・空間把握能力?」
アーリン
「そうだ。一言で言えば移動先の地形を頭の中で浮かび上げられるかどうか・・・だそうだ。
行った事ないと必然的に行けなさそうだな。」
キュピル
「思っていたよりテレポートって簡単な魔法なのだろうか・・。機会があれば調べてみるか・・。」
アーリン
「キュピル。作戦を再確認しよう。」
キュピル
「分っている。奴等が琶月を運び出し統領の住む塔へ繋がる隠しルートさえ発見すれば琶月を取り戻していいんだろう?」
アーリン
「大まかな流れはそれでいい。だがキュピル、くれぐれも冷静な思考だけは失わないでくれ。
君の頭脳明晰は冷静を保ってこそ発揮するもののはずだ。冷静な思考を失えば救える者も救えなくなるぞ。」
キュピルが装飾品の施されたハンマーを右手で強く握りしめる。
キュピル
「・・・分っている。・・・時間はまだまだあるからな・・。深呼吸でもしながらゆっくり待っているさ。」
その時、室内にあるクリスタルが強く輝きだした。
キュピル
「何だ?」
シャルウィン
「・・・・?!アーリン!」
アーリン
「どうした?」
シャルウィン
「建物から奴隷と思わしき者が運び出されたわ。」
アーリン
「なんだって?たった今12時って言わなかったか?」
シャルウィンがクリスタルに映像を映し出す。・・・頭からボロ布をかぶせられた奴隷が傭兵に支えられながら馬車に乗せられている。
重たい足枷などもついていることから奴隷で確定だろう。
キュピル
「琶月で間違いない!すぐにワープして追跡しよう。」
アーリン
「行くぞ。」
アーリンがテレポートを唱えキュピルと共にCHH市街へと飛ぶ。
二人が舞い降りた場所は石で作られたビルの屋上だった。
周囲に存在するビルと比べると大分高い。
地を覗き見ると一台の馬車がゆっくりと移動している。
キュピル
「あれを追うんだな?」
アーリン
「そうだ。私が合図を出すまでは絶対に飛び出るな。合図を出した後は好きにしていい。」
キュピル
「よし。」
馬車がビルの影に隠れて見えなくなる前にビルの屋上から屋上へと飛び移りながら追跡する。
道幅が2mもないため飛び移るのは簡単だ。
時折対向から人や積み荷を積んだ手押し車が現れている。そのせいか移動がとても遅い。
・・・が、馬車を護衛する者がある証を見せると皆一目散に馬車から離れ逃げて行く。
そんな事を繰り返す事30分。移動距離は2Kmに達したがまだ目的地にはつかないようだ。
キュピル
「遠いな・・・。」
アーリン
「そうか?」
アーリンが次のビルへ飛び移る。
キュピルも後に続くが段々スピードが落ちてきている。
身に着けている鎧とハンマーが重くキュピルのスタミナを大きく消耗させているようだ。
キュピル
「くそっ・・・重い・・・。」
次のビルに飛び移った時、キュピルの足が止まる。息を整える。
アーリン
「そうか。先程遠いと言ったのはそのせいか。行けるか?」
キュピル
「行くしかない。」
ジャンプは走るよりも遥かに大きくスタミナを消耗させる。
汗をダラダラ流しながら馬車の後をついて行く。もし馬車の移動速度が早かったら追いつけなかっただろう。
そして追跡してから一時間が経過した。するとある小さなビルの前で馬車が停車した。
護衛が一斉に武器を構え出し厳重体勢に入る。
アーリン
「・・・あれか?」
キュピル
「ぜぇ・・・やっと到着したのか・・・?」
馬車からボロ布をかぶされた奴隷が降りる。足取りはおぼつかず回りの支えがなければすぐに転ぶだろう。
二人の護衛と一緒に奴隷は小さなビルの中に入って行った。
キュピル
「おい、まだか?」
アーリン
「あのビルだという事が分ればいい。行っていいぞ。」
キュピルがハンマーを両手で持ち勢いよくビルの屋上から飛び降りた。
キュピル
「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
ハンマーを思いっきり振りかざし着地と同時に地面を叩く。
強烈な衝撃が走り周囲の傭兵全員が転倒する。
傭兵
「なんだ!?」
キュピル
「死ね!!」
キュピルがハンマーを投げつける。傭兵が逃げようとしたがその前にハンマーが頭にぶつかり傭兵は動かなくなった。
傭兵
「敵襲だ!!応援頼む!」
キュピル
「このっ!!」
群がってくる傭兵を籠手で全員殴り飛ばす。全身に重鎧を身に着けているため銃撃や斬撃程度ではびくともしない。
高い防御力を活かしてキュピルが強行突撃を仕掛ける。
キュピル
「おらあぁっ!!」
傭兵
「うがっ!」
ハンマーの近くに居る傭兵に飛び蹴りを浴びせる。鎧を身に着けたキュピルは今体重は確実に100Kg近くはあり
飛び蹴りを受けた傭兵は大きく吹き飛びビルに叩きつけられた。
傭兵
「敵襲!!敵襲!!!」
一人の傭兵が馬車から機関銃を持ちキュピルに乱射している。だが全ての銃弾は鎧によって防がれている。
再びハンマーを手にし今度は馬車目掛けてハンマーを投げ飛ばした。馬車が木端微塵に砕け散り中から大量の武器が出てきた。
キュピル
「ハンマーよりこいつがいい。」
馬車から出てきた機関銃を手にし乱射する。傭兵達が一斉に盾を構え銃弾を防ぐ。
キュピル
「そうだ、そのまま防ぎ続けていろ!」
キュピルが片手で機関銃を持ち、更にもう片方の手でハンマーを手にする。
奴隷が入った建物へゆっくりと後退しつつ機関銃で乱射する。
傭兵が盾を構えながらじわじわと建物へと近づいてくる。
キュピル
「よし、消えろ。」
キュピルが傭兵の後ろに沢山転がっている弾薬に狙いを定めて連射する。
その殆どは外していたが一発の銃弾が弾薬に命中すると大爆発を起こし傭兵が一斉に吹き飛んだ。
予想以上に爆発の範囲が広くキュピルの元まで火の手が迫ってきたが、すぐに180°方向転換し走って建物の中へ避難する。
・・・キュピルの戦いっぷりをずっとビルの屋上から眺めていたアーリン
アーリン
「豪快な戦いだ。しかし増援が来てしまうな。」
アーリンが琶月を助け出すメリットはない。ただ目的地さえ分れば良い。
・・・その時、シャルウィンから魔法のメッセージが届く。
アーリン
「?」
シャルウィン
『アーリン!あの建物からまた一人奴隷が出て来たわ!』
アーリン
「なんだって!?」
シャルウィン
『それもさっきの馬車よりもずっと早い馬車よ!もう乗せられて出発してしまったわ。』
アーリン
「なんてことだ、まさかこれはフェイクだと言うのか!?」
シャルウィン
『統領の元へ引き渡される予定の奴隷だから念には念を入れたって所かしら。』
アーリン
「やられたな。時刻は・・・12時。どうやらシャルウィンの占いは当たっていたようだ。
今キュピルが暴れている入口は黒い塔へ続かない可能性があるということか?」
シャルウィン
『ええ、そうね。』
アーリン
「すぐに出発地点へ戻る。」
シャルウィン
『キュピルはどうする気?貴方が居なければ彼はここへ戻れず恐らくまた捕まるわ。』
アーリン
「入口の発見の方が重要だ。」
・・・。
・・・・・・・・・。
キュピルが入ったビルはかなり特殊な構造をしていた。
入っていきなり地下へ通じる階段があり他には何もないのだ。
すぐに階段を降り奴隷と傭兵の後を追う。
階段を降りきった瞬間、いきなり四人の傭兵に襲われた。武器は巨大な斧を持っておりキュピルと同じく重鎧を持っている。
これは・・・マハラに嵌められた時に襲いかかってきたあの傭兵達か?
頭と顔をすっぽりと覆いかぶせるフルフェイスのお陰で身元が割れないのは幸いだ。
傭兵が振り回してきた斧をハンマーで跳ね飛ばす。剣と斧なら剣のが不利だが斧とハンマーならこちらが上だ。
斧を飛ばされ手ぶらになった傭兵が慌てて斧を拾い直そうとするが背中を見せた瞬間、キュピルが機関銃で兜に連射する。
一発目は弾かれ二発目は兜がへこみ、三発目はヒビが入り四発目は頭に銃弾が届いた。
残った三人の傭兵が一斉に斧を振る。キュピルがわざと機関銃で攻撃を防ぐ。
機関銃に斧がぶつかった瞬間、衝撃によって火薬が爆発しキュピルと傭兵が吹き飛ぶ。
虚をつかれた傭兵三人は立ち上がるのに時間がかかったが、予測していたキュピルはすぐに立ちハンマーを持って傭兵に襲いかかる。
斧を再び手にするまえに傭兵一人をハンマーで鎧ごと潰す。二人目の傭兵がちょうど斧を手にしたがハンマーで斧を持った手ごと叩きつぶし粉砕する。
右手の骨を全部砕かれた傭兵が絶叫しその場から立ち去る。残った三人目の傭兵も不利と判断したのかその場から撤退し居なくなった。
キュピルもハンマーを両手に持って一本道の通路を走る。
右手を粉砕された傭兵が途中バランスを崩し盛大に転ぶ。キュピルに追いつかれ数秒後にはハンマーでたたきつぶされていた。
無傷で逃げる最後の傭兵が誰かを突き飛ばして更に何処かへ逃げた。
突き飛ばされた人物はボロ布を頭からかぶされており力なく床の上へ倒れる。
キュピル
「琶月、大丈夫か!?」
フルフェイスをオープンさせ、顔を出す。鎧に包まれた右手でボロ布をどかし顔を確認する。
・・・だがボロ布から現れたのは琶月ではなく、全く見ず知らぬの白髪の女性だった。
まともに食事を与えられていないのか全身痩せ細っており、その顔は酷く疲れきっている。
キュピル
「琶月・・じゃない・・!?」
白髪の女性
「・・・やっと・・・やっと私の・・騎士・・・が・・・。」
キュピル
「騎士?」
それだけ言うと白髪の女性は気を失いガクリとキュピルにもたれかかった。
傭兵の逃げた先から応援を呼ぶ罵声が聞こえ一度撤退した方が良いと判断したキュピルは白髪の女性を連れて外へ脱出する。
外はまだ先程の大爆発で混乱している。帰還するなら今しかないだろう。
キュピル
「アーリン!!!エスケープするぞ!!」
・・・・。
・・・・・・・・。
キュピル
「・・・・・嵌められたとは考えたくないな。」
ちゃんと入口で待っているのなら今の一言だけでも聞き逃すはずがない。
もしかして敵に見つかり追われている?いや、それもビルから飛び降りていないなら有り得ない。
確かにずっとそこに居れば見つかるかもしれないが奇襲を仕掛けてから15分しか経過していない。
建物周辺で大混乱に陥っている中、変哲もないビルの屋上を調べる余裕は果たしてあるか。
狙撃するために屋上という可能性もあるが今の状況なら入口が良く見える一階で待ち伏せすべきだ。
冷や汗が流れる・・・・。
傭兵
「逃がすな!!!」
キュピル
「くそっ・・!」
増援が現れた。背負っていた白い髪の女性を地面の上に降ろしハンマーを構える。
キュピル
「こうなったらヤケだ・・!こい!!俺が全員ぶっ倒してやる!!!」
今の装備なら例えマハラに嵌められた時と同じ状況に陥ったとしても全員倒す自信はある。
数十人の傭兵が巨斧を手に持ちながらキュピル目掛けて突っ込む。
キュピル
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!」
作戦は成功だったのか、それとも失敗だったのか。
嵌められたのか、それとも何らかの事情が発生してその場から立ち去ったのか。
そして・・・今琶月は何処に。
・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
続く
追伸
結構短いですがきりがよかったので・・・。
次回ついに輝月が登場します。(おい、ネタバレやめろ
それはただ、自分の人生に責任を持たなければならないとわかったことへの反応にすぎないのだ。 自分の行動に責任を持つ。自分の選択したことには結果がともなう。 ――チャールズ・J. サイクスの言葉 |
キュピル
「この野郎!!」
ハンマーを投げ飛ばし目の前にいる傭兵をぶっ飛ばす。
もう一体何人の傭兵を倒したのだろうか。この高級な装備がなければ確実に命は落としていただろう。
キュピル
「はぁ・・・・はぁ・・・ちっ・・・・なんでだ・・・・。」
だがそんな事よりも今の状況が不思議で不思議でしょうがない。
キュピル
「何故・・・この傭兵達は何も思わず突っ込んでくる・・・!まるで・・人間じゃない・・・ロボットだ・・・。」
再び銃を乱射しながら突撃してきた傭兵を籠手でぶん殴りよろけさせた所で即座に首をへし折り絶命させる。
何度も何度も倒しているが傭兵達は恐れを一切抱かず突撃を繰り返しそしてはキュピルの目の前で死ぬ。
・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
アーリン
「俺達はあの黒い塔に続く隠しルートを探し続けていた。一度も怪しまれずに調査を続ける事は困難を極めた。
だが今日ようやくその入口を特定する事が出来た。これも全てキュピルのお陰に違いない。」
窓も扉もない暗い石壁で囲われた部屋でフードをふかぶかと被った男が一人拍手する。
アーリン
「そのキュピルは?」
シャルウィン
「案の定捕まったわ。それでどうする気?」
アーリン
「隙を見つけてまた助けにいく。」
シャルウィン
「そうね・・・。彼のこの戦績・・・恐ろしいわ。それだけに当分隙がなさそうよ?」
シャルウィンが水晶に息を吹きかけると鈍い音と共に映像が映し出された。
キュピルが傭兵の一撃を払いのけハンマーで鎧を粉々にし、そのまま勢いで傭兵が吹き飛ぶと同時に落ちている剣を投げ傭兵の命を奪う。
だがそれとほぼ同時に一発の手榴弾がキュピルの足元で転がり大爆発する。
高価な鎧のお陰で命こそ無事だったが衝撃で意識を失い派手に吹き飛んだ後動かなくなる。
数人の傭兵がキュピルと白い髪の女性を乱暴に掴み何処かへ連れて行く。
・・・だがこの時。
キュピルの周囲には100人以上の傭兵が倒れており皆、命を落としていた。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
アーリン達が遠くからキュピルを見ていたのと同じように、また一人。遠くからキュピルの戦いぶりを眺めていた男が一人いた。
複数のモニターが存在する部屋でマハラが革地で覆われたソファにふかぶかと腰をおろしていた。
マハラ
「・・・なるほど。あの琶月という子の言う通り。彼がもし自分の愛剣をこの俺に奪われていなければあの時命が無かったのは俺だったかもしれないな。
だがあいつはあの場から逃げず傭兵と延々と戦っていた。馬鹿正直な奴だ。
・・・あれは助けが来る事を知っていなければ出来ない事だ。・・・奴の裏に誰かがいる。慎重に見極めねば・・・な。
おい、統領に連れ出す予定の琶月はどうなった?」
マハラの傍で立っていた一人の男が答える。
側近
「無事統領の元へ引き渡されました。統領から御苦労と労いの言葉を頂きました。」
マハラ
「光栄、だな。」
マハラが葉巻を一本取り出し口にくわえる。側近がライターを取り出し煙草に火をつける。
煙を肺一杯に吸い込み、そして大きく息を吐く。
側近
「緊張が解け安心なさったようですね。」
マハラ
「統領相手の取引となると、な。流石の俺も一定の緊張は持つ。100%成功させなければいけない仕事だからな。
フェイクを仕掛けておいて正解だった。」
マハラがもう一度煙を肺一杯吸い込む。その時、モニターに見た事のある人物が二人映し出されていた。
息をゆっくり吐きだすと同時に声をあげる。
マハラ
「ほぉ?」
はるばる砂漠を越えCHH郊外に接近する二つの影。
燃えるように赤い髪、燃えるように赤い目。
闘争心をむき出しにした男と闘争心をむき出しにした女。
一人は巨剣を背負い重鎧を身に着けた男。
もう一人は和服を見に着け腰に刀を結び付けた女。
側近
「たった今捕えた男の部下です。」
マハラ
「あぁ、ちゃんとプロファイル読んださ・・・。・・・最強の武人を目指すヘルと紅い道場三代目当主の輝月か。
・・・ほぉ、輝月は中々上玉だな。華奢な体つきをしているが武力は中々の物。そして何よりも気高い。
ククク、そんな奴が堕ちる瞬間。そそられるなぁ〜?」
マハラの目が光る。
もう一度葉巻の煙を肺一杯吸い込み、そしてゆっくりと吐きだす。
マハラ
「・・・だがあのヘルという男とまともに戦えばキュピルより恐ろしいかもしれないな。まともな装備をしてやがる。
しっかり奴の戦力を落とさず正面からぶつかれば、やられるのはこちらやもしれん。」
二人がCHHにやってきた目的とは。
・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
今から数時間前。クエストショップにギーンが現れた。
彼はファンに、誰にも気付かれぬようキュピルと琶月が引き受けた依頼内容と今の状況を伝えた。
ギーンの目論見通り、ファンはすぐに感情に操られて行動しようとしたのではなく冷静に状況を判断し
この先いかにして挽回、救出するかさっそく策を練り始めた。
ファン
「僕はキュピルさんの数々の英断、武勇、そして誰にも負けない逆境の強さを知っています。
今でもキュピルさんは必ず何処かで生存していて、死ぬことはないと考えています。
ですが、それと同時にキュピルさんに対して一つだけ失望してしまいそうな事があります。
何故僕やテルミットさんに詳細を話してくれなかったのかと・・・。」
珍しくファンが落胆した表情を見せる。少し項垂れている。
ギーン
「・・・キュピルは確かに強いし頭の回転力も早い方だ。だが、参謀のファンやテルミットがいなければ
あいつは正解を選択する事はできないようだ。黙秘した理由はCHHの街の性質を知っての故か。」
ファン
「二人で行かなければいけなかったそうですが、せめて一言仰って欲しかった所です。
魔法石なり何なり持たせて安全な場所で意見の交換ぐらい出来たはずでしょう。」
ギーン
「・・・全く。・・・もし、キュピルと共に行動した人物が琶月ではなくルイならば物事は全て上手く言っていたのかもしれんな・・。」
ファン
「・・・今は後悔しても仕方がない時ですよ。ギーンさん。ひとまず、先にどちらの事態を優先させるか考えるべきです。
トラバチェスの印章の奪還、それともキュピルさんと琶月さんの救出か。」
ギーン
「悪いがトラバチェスの印章の奪還を優先して貰いたい。」
ファン
「・・・・・。」
ファンが日常生活を送っている時と何ら変わりのない、いつもの無表情な顔をしながら何か考えている。
ギーン
「非情だと思うか?」
ファン
「いえ、そういう訳ではありません。経営者の立場として考えれば仲間の救出より依頼を優先させるべきでしょうから。
僕が今考えていたのは、どうやって印章を奪還するか・・です。」
ギーン
「そうだな・・・。CHHに詳しい奴が居れば良いんだが・・・生憎我が国の誰かを派遣する事は出来ない。
理由は話した通りトラバチェスが関与している事を隠すためにだ。」
ファン
「3人・・・心辺りがあります。彼等ならもしかすると知っているかもしれません。」
ギーン
「誰だ、そいつは?」
ファン
「ヘルさんテルミットさん、そしてディバンさんです。3人とも世界各地を歩きまわってきたそうですから
もしかするとCHHの事を知っているかもしれません。・・・ですが、ディバンさんは今トレジャーハントしに行っているためいません。」
ギーン
「それならヘルとテルミットに聞くべきだな。」
ファン
「僕が聞いてきます。ちょっと待っててください。」
そういうとファンは自室を抜け出し、こっそりとヘルの元へと行った。
・・・・・。
ヘル
「・・・ここでまたその名前を聞くとは思わなかったな。」
ファン
「CHHをご存知なんですね?」
ヘル
「知っている。世界一を目指そうと思えばあの場所は避けて通れねぇからな。」
ファン
「ついでに聞きたい事がありますが、テルミットさんはご存知ですか?」
ヘル
「あいつも知っている。旅を続けていた時は一緒に行動したからな。」
ファン
「・・・それでしたらヘルさんとテルミットさんにお願いしたい事が一つあります。」
ヘルが腕を組み、待ってましたと言わんばかりの顔をする。
輝月との決闘で怪我した部分がようやく治り依頼を待ちわびていたようだ。
ヘル
「うっしゃ、それで俺は何をすればいいんだ?CHHだろうが何だろうが何でもやってやる。」
ファン
「一度僕の部屋に行ってください。ギーンさんが居ます。僕はテルミットさんを呼んで来てから戻ります。」
ヘル
「いいだろう。」
・・・・。
・・・・・・・・・・。
ギーンがテルミット、ヘルにキュピルと琶月が引き受けた依頼と現在の状況を伝える。
テルミットが片手で顔を覆い被せるようにして項垂れる。
テルミット
「・・・・琶月さんのあの超高待遇はそういう事だったんですね・・。納得しました・・・。」
ギーン
「ヘル、テルミット。オークションで流れたトラバチェスの印章の位置を割り出す事は出来るか?」
ヘル
「・・・物理的に考えれば無理だと判断すべきじゃねーのか?魔法で位置を割り出せるならともかく。」
ギーン
「魔法で位置を割り出す事は出来ない。盗まれないために在り処をばらす訳には行かないからな。
・・・・今ではそれが痛いほど響いているが。」
ヘル
「そんな重要な物だ。流れるとすれば統領の元かもしれねーな・・・。あいつが持っていると考えると、かなり面倒だぞ。」
テルミット
「仮に突撃してなかった場合の事も考えると非常に危険ですね。統領の塔へ突撃するのは最終手段にしたほうがいいと思います。
一つ提案ですが、キュピルさんが何か知っているかもしれません。統領の塔へ突撃する前にキュピルさん、余裕があれば琶月さんも救出し、
キュピルさんが何か知っていればその場所を、知らなければ統領の塔へ・・・ってのはどうでしょうか。」
ヘル
「戦略も増強できるしな。」
ギーン
「それならば、手っ取り早くキュピルを救出してやってくれ。間違っても被害を被ってまで琶月を救おうとするな。」
ヘル
「あいつの事はどうでもいい。」
テルミット
「ちょ、ちょっと・・ヘル・・・。」
「聞き捨てならぬ。」
ヘル
「あ?」
ファン
「・・・・・(面倒な事になりそうですね。)」
ファンの部屋に盗み聞きでもしていたのか輝月が部屋に入ってきた。
怒りを露わにした表情を見る限りでは最初からずっと聞いていたと判断すべきか。
輝月
「そのCHHとやらにワシも連れて行って貰おうか?」
ヘル
「勝手に一人で行けよ。俺はキュピルさん、そしてトラバチェスの印章を取り返すだけだ。」
輝月
「そうさせて貰おう。私も貴様と共に行動はしたくないからな?」
テルミット
「ちょ、ちょっと待ってください!CHHは非常に危険な場所です!ヘル、忘れたのですか!?」
ヘル
「こいつの事がどうでもいいっつってんだよ。願わくば、CHHに倒れて性奴隷にでもなってくれりゃ泣いて喜んでやるけどな。
そうなったら俺がお前を買って奴隷にしてやってもいいぜ?」
輝月が一瞬でブチ切れ、抜刀しヘルに襲いかかった。
また同じ羽目になっては困ると判断したギーンが強烈な暗黒魔法を唱え二人の聴力以外の感覚全てを瞬時に奪う。
ヘル
「うあっ!何だっ・・!?」
輝月
「ぐっ、前が・・見えぬっ・・!!」
ギーン
「そこまでだ。続きは全てが終わってからにして貰おう。」
ギーンが杖でヘルと輝月の頭を軽く叩く。二人の暗黒魔法が解除され五感が元通りになる。
ヘル
「・・・・・・・。」
輝月
「・・・・・・・。」
ギーン
「作戦はどうするつもりだ?」
ヘル
「まずはキュピルさんを助ける。だが、そのためにも安全な場所を一つ確保しなければいけない。」
ギーン
「宿屋でも手配するつもりか?」
ヘル
「宿じゃだめだ。怪我した時何事もなく戻って来れる場所じゃなければだめだ。
怪我した状態で宿に戻れば、ここぞとばかりに宿のオーナーが追剥してくるかもしれないからな。」
ギーン
「詳しいな。」
ヘル
「長く居た事もあったからな。」
今の状況を考えると頼もしい限りだが、日常生活の視点から見るとヘルが非常に怖い、かつ危ない人間に見える。(元々危険極まりないが
ファン
「それではどうするつもりですか?」
ヘル
「どっかの建物を襲撃して占拠する。」
ファン
「そんな事すれば大勢から怪しまれるのでは・・・。」
ヘル
「そう思うだろ?だがCHHじゃ、それが日常茶飯事なんだよ。」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
そして現在。ようやくCHH入口まで二人は辿りついた。
ヘル
「気に居らねぇ・・・。何故てめぇと占拠しなきゃいけねぇんだよ・・・。」
輝月
「ふん・・・。」
輝月も同感なのだろう。だがファンとギーンの命令には従わなければいけない。
ヘルと輝月が何処かの建物の占拠に成功した場合、ヘルと輝月に持たせた青い魔法石を使わせて特殊なワープポイントを作る事にしている。
その後、ワープポイントと通ってファン、テルミットがCHH内に入ってくる事になっているがヘル曰く入口全域は監視カメラで監視されているらしく
男二人、女一人、非人間一人が同時に入場してくるのは明らかに怪しまれるらしい。そのためまずは二人でCHHに向かわせることにした。
・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
ヘル
「めんどくせぇ、ここを占拠してやる・・・。」
石壁で作られたビルの中に入るヘルと輝月。扉の前には掛札がかかっており『BW対応宿屋』と書いてある。
宿屋に入るとビニールボンテージっぽいもので石壁を隠し高級感を醸し出そうと努力しているが一般人から見れば逆効果に見える。
宿屋のオーナーが二人の存在に気付くと手を拱きヘルに挨拶する。
オーナー
「これはこれは・・ご主人様。大層お強そうですな。連れている奴隷も瀟洒かつお美しい・・。
このようなボロ宿屋にどんな御用で・・・。うごふっ!!?」
突如ヘルが短刀を突き出しオーナーの心臓を抉る。そのままオーナーはカウンターの上に突っ伏し息絶えてしまった。
オーナーが雇った傭兵が異変に気付き、従業員専用室から六人の傭兵が現れヘルを取り囲んだが有無を言わさずヘルが巨剣で傭兵を薙ぎ倒し僅か10秒で六人の傭兵を殺害した。その間に輝月が宿屋の入り口を鉄格子で封鎖し誰も入れないようにする。
輝月
「お主。」
ヘル
「・・・CHHか。ここに来るのも久々だから念には念を入れておかねぇと。
おい、糞野郎。ここを占拠しちまうぞ。」
輝月が刀を抜刀し、壊されたカウンターに埋もれていたもう一つのマスターキーを手に取る。
輝月
「ここの建物の中にいる奴等を皆抹殺すればよいのじゃろう?」
ヘル
「どっちが多く殺せるか勝負するか?」
輝月
「望む所。」
不幸にもこの宿を利用していた者はここであえなく命を散らす事になる。
ナルビクでこのような事をすれば重犯罪として国際指名手配されるがCHHでは誰も見向きされないのである。
ヘルと輝月がこの宿屋を占領する少し前にキュピルが統領の塔へ続く可能性のある建物で大暴れしていたがその一件も
キュピルが捕まって暫く経過した今、何事もなかったかのように人の流れは元通りになっていた。
ヘルと輝月が宿の占領を開始してから15分。五階建ての宿屋のうち三階まで二人は制圧する。
この宿を利用している者は皆全て連れている奴隷を調教するために来ている。
信用を大事にしている宿屋でも襲撃に合う事は少なくないが大抵入口の傭兵達に殺され事態は収まる。
しかしヘルや輝月のように並大抵の人間では倒す事の出来ない者に襲われる事は稀だ。
自分が利用している間に手のつけようのない者に襲撃されるとは夢にまで思わず、奴隷の持ち主は武器を手に取る前に裸のまま殺された。
小柄な少女
「ひっ・・!た、助けて・・・。」
鎖で柱に繋げられた少女が襲撃してきたヘルから逃げようと部屋の隅へ移動する。勿論鎖がそれを妨害する。
ヘルが巨剣を構え一気に少女の腹を突きさし命を奪う。
ヘル
「・・・悪いな、この宿屋の今の状況を知られたら好機と見たハイエナ共が集まるからな。ネズミ一匹逃がす訳にはいかねぇ。」
巨剣を引き抜くと同時に少女は床の上に崩れるようにして倒れた。
ヘル
「痛みが来る前に死ねてよかったと思え。」
・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
宿屋を襲撃して30分後。ようやく全ての部屋を回り制圧が完了した。
実際にここを利用していた者達は10人程度。宿の規模としては利用者は少なかった方だ。
ヘルと輝月が五階の階段で合流する。
ヘル
「6人。」
輝月
「・・・4。じゃがこんなの運じゃろう。」
ヘル
「てめぇの移動速度がおっせーんだよ。」
輝月が眉間にしわを寄せ嫌悪感を露わにするが、それよりも先に言わなければ行けない事を思い出し気持ちをうまく切り替える。
輝月
「ふん。ここでお主を斬り捨てたい所じゃが途中重要な部屋を見つけた。」
ヘル
「んだよ。」
輝月
「キュピルと琶月が利用したと思われる部屋を見つけた。」
ヘルが一瞬驚いた表情し、すぐに部屋まで案内しろと言う。
勿論命令口調に輝月は再び嫌悪感を露わにする。
・・・・。
・・・・・・・・・・・。
輝月
「ここじゃ。」
部屋の中には確かに見た事のある荷物がいくつか置かれていた。
椅子の上に雑に置かれたサラシ、いくつかの道具と鞄。
輝月
「この鞄は琶月が出発する前に持って行った物じゃ。・・・キュピル、お主等はここから何処へ向こうたと言うのじゃ。」
ヘル
「順風満帆に進んで行けば今頃キュピルさんはクエストショップに戻ってきている。
もし生きていると楽観的に考えるならば今頃牢屋を脱出して何処かで暴れているな。」
輝月
「・・・・気に食わぬが、同じ事を思うておるな。」
ヘル
「偶然にもここでキュピルさんの手掛かりを掴む事が出来たか。ここにワープポイントを作るか・・。」
ヘルがポケットの中に入れていた青い魔法石を床に投げつける。魔法石が床に落ちた瞬間、ガラスが割れたような音と共に
水色に光輝く丸模様の足場が現れた。このワープポイントはクエストショップと繋がっている。
さっそくワープポイントからファンとテルミットが現れ部屋に入ってきた。
ファン
「ここがCHHですか?」
ヘル
「そうだ。ここの建物は既に占拠してある。誰も入ってくる事はねぇ。」
テルミット
「見た感じ宿屋を占拠したようですね。ここならベッドも一通り揃っていますから休憩するには良い場所です。」
テルミットがベッドに腰掛ける。その時、輝月が無言のまま部屋から出て行った。
慌ててテルミットが輝月の後を追う。
狭い廊下でテルミットが叫ぶ。
テルミット
「輝月さん!?何処へ行くのですか!?」
輝月
「琶月を探す。」
テルミット
「一人でCHHを歩いたら危険です!!占拠したばっかりですから少し休憩してから出て行った方が・・・。」
輝月
「私に構うな、テルミット!」
テルミット
「っ・・・。」
・・・輝月に名前を呼ばれたのは凄く久しぶりだ。それなのにこのような形で言われてしまうとは。
テルミット
「駄目です。行かせる訳には行きません。」
しかし輝月は言う事を聞かず、階段を降りて行った。
・・・後を追うかどうか考えたが、現状外に出るのはデメリットしかない。
それにいくら輝月を引きとめようとした所で言う事を聞くとは到底思えない・・・。
テルミット
「・・・僕はどうすれば・・・。」
ヘル
「んなに心配だったれ俺が行ってやる。」
突然後ろからヘルに声をかけられた。
テルミットが物凄く意外そうな表情を見せる。
テルミット
「・・・どう言う事?」
ヘル
「おめぇの言いたい事は分る。あのままCHHについて何も知らない輝月を放置すれば適当な奴等に捕まるのは確実だ。
キュピルさんを助けた時や、印章を取り戻した時。事が終えた時、次はあの糞野郎を助けに行こうってなるだろ?
俺は二度手間は嫌いだし、調査がてらに輝月を尾行してってやる。」
テルミット
「・・・・・・・・・。」
ヘルがこんな風に輝月の事をどうにかしてあげると言ったのは今回が初めてだ。
・・・彼に一体何が?ここに来る途中何かあったのだろうか。
テルミット
「・・・・それならお願い、ヘル。僕はファンさん、あと現地にはこないけどギーンさんと話して色んな想定について話しあってくるから・・・。
輝月さんの事、お願い。」
ヘル
「一つだけ頼み聞いてくれ。今入口は鉄格子を扉にかけて入れないようにしている。
外からじゃ鉄格子を再び入れることも外す事もできねぇから、入口で話し合ってくれるか?戻った時五回ノックする。」
テルミット
「分った。ファンさんを呼んだら入口からちょっと離れた所で話すよ。」
ヘルが一度頷くと巨剣を担いで気付かれないように輝月の後を追い始めた。
テルミット
「(・・・・・でも、本当に一体どういう風の吹きまわし何だろう・・・・。・・・ちょっとだけ嫌な予感がする・・・。)」
・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
輝月が一人CHHを歩き回る。ばれないように輝月の後を追い続けるヘル。
宿を出て5分後。案の定輝月の身に問題が発生した。
狭い路地を輝月が歩いていた時、突然半開きになっていた窓から強力なスタンガンを持った誰かに襲われ輝月が一瞬にして意識を失った。
輝月が倒れるや否、三人ほど男が現れ輝月を囲む。
男1
「うへへ・・。こりゃ随分と上玉が釣れたな!!!」
男2
「・・・ゴクリ。」
男3
「おい・・・。手出すな・・。こいつは売ったら大金になるぞ・・。襲いたくなる気持ちも分るが襲ったら価値が下がる。」
男2
「・・・先っぽ、先っぽだけ!!」
男3
「うっせーよ!!」
男が叫んだ瞬間、輝月が目を覚ました。
男1
「・・・!!!こ、こいつもう起きやがった!!」
輝月
「・・・ふんっ!」
輝月が即座に起き上がり傍にいた男を刀で斬り裂いた。
男1
「ぐああああああああっっっ!!!!」
男3
「こ、こいつつえぇ!!?」
残った男二人がナイフを構えるが、構え方が下手だ。恐らく戦いは得意じゃないのだろう。CHHに住む者としては珍しい奴らだ・・。
輝月が男二人をまとめて斬り裂こうとした瞬間、突如ヘルが声をあげた。
ヘル
「てめぇ等、避けろ!!」
男2
「!!」
男3
「!!」
ヘルが二人の間から飛び出し、輝月目掛けてタックルする。唐突の出来事に意表を突かれ、ヘルのタックルをまともに喰らう。
壁に叩きつけられ後頭部を強く打ちつける。
男2
「誰だかしらねぇけどあんがとよ!!!」
ヘル
「お前等、あいつを犯したいのか?」
男2
「そうだ!!」
男3
「ちょ、ちょっとまて・・。俺あいつ売りてぇんだけど・・。
・・・・ん・・・ちょ、ちょっとまってくれよ・・・・。あんた・・・あんたヘルか!!!?」
男2
「あん?こいつの知り合いか?」
男3
「知り合いも何も・・・こいつの事しらねぇのかよ!?昔CHHで、あちこちの建物を襲って強姦を繰り返した伝説のヘルだよ!!どんな傭兵も一発でぶっ倒したあいつだよ!!」
男2
「・・・あ・・・・ああぁっ・・!!?」
ヘル
「売るんだったらお前を殺す。犯すんだったら手伝う。どうする?」
男3
「犯す。犯します!!」
ヘル
「決まりだな。」
ヘルが意識朦朧としている輝月の傍に近づく。
輝月
「・・・貴・・・様・・・。ただじゃ・・おかぬぞ・・。」
ヘル
「残念だったな。お前はもう二度とクエストショップに戻れねぇ。いや、戻させねぇ。」
ヘルが輝月の髪を鷲掴みにし、もう一度強く頭を壁に叩きつける。輝月が脳震盪を起こし、その場にぐったり倒れる。
男2
「へへへっ、旦那ぁっ。惚れちまうぜぇ・・。」
男3
「俺がそこの部屋に運ぶんで・・楽しみにしててください。」
ヘル
「楽しみにしてる。」
ヘルのドス黒い欲望が輝月に襲いかかる。
情念はしばしば自分とは反対の情念を生み出す。りんしょくはしばしば乱費を、乱費はまた、りんしょくを生む。 人はしばしば弱気がゆえに強く、臆病なるがゆえに大胆である。 ――ラ・ロシュフーコー 「道徳的反省」 |
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ルイ
「・・・そうですか、ファンさん、ヘルさんとテルミットさん、そして輝月さんも暫く帰って来ないんですね。」
ルイが台所で夜ご飯の支度をしながらキューに返事する。
帰って殆どの人が居なくなっていたため、ルイが皆何処に行ったのか質問したのだ。
キュー
「らしいぜー。ファンがそんな事言っていたからなー。何かお父さんのお仕事の手伝いにいくらしい。」
ルイ
「うぅぅ・・。どうして私が居ない時に限って重要な話しが進展して行くんだろう・・・。」
ジェスター
「ルイ〜!ご飯〜!」
ルイ
「今作ってますから、ちょっと待っててください。」
キュー
「おーおー、ジェスターは機械のネジだけでいいんじゃないのかー?」
ジェスター
「あーー!それ差別?」
キュー
「差別じゃないぜ。被害妄想が激しいなぁ〜、ジェスターは。」
ジェスター
「そんな事言うんだったらキューの悪口ツイッターで拡散させるよ。」
キュー
「フォロワー数5人なのに?」
ジェスター
「・・・・・・・・わあああああああああああああああああああああああああ!!!」
キュー
「うぎゃぁー!」
ルイ
「(・・・・そういえば、ファンさん達いつ戻ってくるんでしょうか。キュピルさんが戻ってくる日も聞いていないし・・・
あーーー!何だか全部置いてかれている気がします!!)」
・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
テルミット
「キュピルさんを救出するために最も重要な事があります。」
ファン
「キュピルさんが捕えられている場所を特定しなければいけない。ですよね?」
テルミット
「はい。しかし、この広いCHHでキュピルさんを居場所を特定するのは大変苦労しますしリスクも大きいです。」
ファン
「テルミットさん。実は魔法を使用しても良いのであればキュピルさんの居場所はすぐ突きとめる事が出来ます。」
テルミット
「本当ですか!?」
ファン
「本当です。過去にも似たような事が起き、キュピルさんのマナを頼りに今何処に居るか探し出せる魔法を作った事があります。
この魔法を使えばキュピルさんの居場所を一発で突きとめる事が出来ます。」
テルミット
「さっそくその魔法を使用して貰いたい・・・所なんですが・・、一つ気がかりな事があります。」
ファン
「何ですか?」
テルミット
「CHHは無法地帯ですから、どんな事をしても基本的には咎められません。しかし一つだけ例外があります。
それは統領の問題に関わる事です。CHHを治めているのは統領ですから統領に何か不利益なアクションを起こせば即座に
統領の軍隊が出撃し抹殺しに来ます。もし、ファンさんが魔法を唱えキュピルさんの居場所を突き止めた際。
キュピルさんが統領の塔に居た場合、統領の問題に関わったと見なされ軍隊が出撃してくる恐れがあります。」
ファン
「僕は統領の事についてよく知らないのですが、それは非常に危険な事ですか?」
テルミット
「正直言って統領の持つ軍力は未知数です。国の猛攻を防ぎきる所か逆猛攻を仕掛ける事が出来るほど軍力を持っていると言われた事もあります。」
ファン
「・・・それでしたら、僕達だけでどうにかなる相手ではなさそうですね。」
テルミット
「はい。・・・でも、トラバチェスの印章が塔があると過程するならば・・・・うーん、しかし・・。」
テルミットが胡坐をかいて熟考する。今回の問題はかなり難しい。
ファン
「ルイさんを連れて来ましょうか?戦力増強を図れると思いますが。」
テルミット
「なるべく女性の方をCHHに連れ込むのはやめたほうがいいです。女性を堕落させるのに長けた技術、罠がCHHに集まっていますから。
普通に攻めたつもりが脱落していた・・・っという事もCHHではよくある事らしいですから。
それに女性の方と一緒に行動しているだけで回りから狙われるリスクも急増します。
そのリスクを背負ってまでルイさんが非常に強ければ問題ないのですが・・・どうですか?」
ファン
「・・・判断が難しい所ですね。ひとまず、決定的に強い訳ではないので止めたほうがよさそうですね。」
テルミット
「何とかギーンさんから傭兵を手配して貰う事は出来ないでしょうか・・・。」
ファン
「そういえば肝心のギーンさんはいつ対話出来るのでしょうか。」
テルミット
「あと30分後ぐらいにこの魔法石が光るそうですから、その時にこの魔法石を叩けばいいそうですよ。」
ファン
「準備の時間が長いですね。・・・ギーンさん、もしかすると良い策を何か用意しているのかもしれませんね。」
テルミット
「だといいんですけど・・・。」
テルミットが懐中時計をポケットから取り出し時刻を確認する。
・・・時刻は午後8時半。夜が更け始めてくる頃だ。
テルミット
「(ヘルが輝月さんの後を追って、ここを出てからもうすぐ一時間・・・。大丈夫かな・・・。)」
・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
騎士様・・・起きてください、騎士様・・・!
キュピル
「・・・・・・誰・・・だ・・・?」
聞いた事のない声に起こされ目をあける。
白髪の女性が裸でキュピルの顔を覗きこんでおり懸命に揺すって起こしていた。
白髪の女性
「騎士様!」
キュピル
「騎士様・・・?一体誰の事を言っているんだ。」
白髪の女性
「地獄の底より残酷なこの街。更なる闇の深淵へ堕ちてゆこうとしたこの私の目の前に天の光が射しこんだ。
金色に光る聖なる鎚で悪魔に心を売った者に制裁を与えにきた騎士様!
あぁ、気を失っていた騎士様。でもその顔はとても爽やか!貴方様は間違いなく神に選ばれし天からの使い・・・!」
キュピル
「・・・・・あぁ・・・それって俺に向かって言っているのか・・・?」
白髪の女性
「この場に貴方様以外に誰が居るでしょうか!」
どうやらこの女性。酷い妄想癖があるようだ。
立ち上がり過剰なジェスチャーをキュピルに見せる。身長は琶月より大分大きく大体170cm前後。ルイと近い。
だが琶月とは非対称的な長い髪。腰どころか足首の所まで長く伸びている。
痩せ細っている癖に妙に胸が大きい。ルイと同じくらいかもしれない。・・・何かとルイと比べてしまうな。
・・・だが何よりもキュピルを一番驚かせたのは彼女に狐の尻尾らしきものがついていたことだ。
・・・人かと思っていたが良く見ると耳も人間の形ではなく動物の耳のような形をしている・・・。
なるほど、彼女が統領の元へ連れて行かれそうになった理由は分った。
確かに非常に希少価値の高そうな女性だ。
かく言う、キュピルは彼女のような種族を過去に見た事がない訳ではなかった。
それは通りすがりで見た事があるなどという物ではなく、激動の幼少時代を過ごした大切な一人の仲間・・・。
キュピル
「・・・・・・・ティル?」
白髪の女性
「騎士様、どうか致しましたか?」
キュピル
「な、なんでもない。」
その後ぼそっと「んな訳ないよな・・・」とつぶやく。
キュピル
「・・・しかしアンタの言う人騎士様ってのは凄い人だな。でも俺は神に選ばれし人間でもなければ騎士でもない。」
白髪の女性
「いいえ!そのようなことはございません!貴方様は確かにこの私を地獄から救い・・。」
キュピル
「いいか。こんな事は言いたくないが『間違ってあんたを助けてしまった』。本当は別の奴を助けるつもりだった。
あんたを助けにここにやってきた訳じゃない。」
・・・・・。
・・・・言いすぎた。
一瞬白髪の女性がキョトンとするが数秒後、満面の笑顔をキュピルに見せる。
キュピル
「!」
白髪の女性
「それでも騎士様は私をその場で見捨てずこうやって救ってくれた。この真実は絶対に揺るぎません。」
人を惹きつける強い笑顔。
キュピルが照れてしまい顔を逸らす。
キュピル
「・・・ところで、その尻尾と耳・・・。」
白髪の女性
「あ、騎士様。これやっぱり珍しく見えますか?」
キュピル
「君はシルパート族なのか?」
白髪の女性が驚く表情を見せる。そして次の瞬間には子供が珍しい物を見つけたかのように興味津津な顔をしてキュピルに近寄った。
白髪の女性
「ご存知なのですね、シルパート族を!」
キュピル
「あ、あぁ・・。過去に・・同族の知り合いがいて。それがさっき言ったティルって名前の子だ。
しかしシルパート族はこの世界には存在しない種族のはずでは・・。」
白髪の女性
「そうなのですか?私は子供のころからずっと奴隷商人にあちこち転売され続けてきたのでよく分かりません♪」
キュピル
「(まさか次元を越えて連れて来られたのか?仮にそうだとするとCHHの統領は一体何者なんだ。こんな事・・・作者でもなければできないぞ・・・。)」
確かにCHHは倒錯的な街だ。作者が好みそうな街でもあるが奴隷売買や統率には全く興味を持っていない。
あいつがターゲットした一人から数人程度までの人物しか興味を持たない。こんな大きな出来事はやらない。
キュピル
「(俺は作者の事を良く知っている。・・・少なくとも、このCHHに作者は絡んでいないだろうな・・。
俺をCHHに導いてこんな滅茶苦茶な物語を歩ませていると考える事も出来なくはないが、いくらなんでも遠回しすぎる。
CHHそのものが出来あがるのに随分と時間はかかっているはずだ・・・。・・・やはり作者じゃないな・・・。)」
勿論予測でしかないが。
キュピル
「(さて・・・。脱出する方法考えないとな・・・。)」
目の前でニコニコと笑いながら尻尾を振る彼女の事も気になるが今は何としても琶月を助けなければ・・・。
キュピル
「・・・自己紹介だけしておこう。俺の名前はキュピル。騎士様ではない。」
白髪の女性
「キュピル様ですね!」
キュピル
「様はいらn・・・」
白髪の女性
「キュピル様!私の名前はシフィルドゥファルス・イズルミーナと申します!」
キュピル
「長いな。」
シフィー
「よくシフィーと言われるのでシフィーと仰っても結構ですよ。」
キュピル
「そうか。んじゃシフィー。」
シフィー
「はい!」
キュピル
「脱出方法を考える。少し話しに付き合ってくれるか?お互い能力を知らないが話せば何か脱出の糸口が見えるかもしれない。」
シフィー
「勿論でございます、キュピル様!」
キュピル
「だから様はいらない。」
手を横に振り拒否するが・・。
シフィー
「キュピル様!」
キュピル
「・・・もういい。」
一度深いため息をついて気持ちを切り替える。
キュピル
「・・・シフィーは・・・何か特殊な能力とかは持っていたりするか?魔法とか・・。」
シフィー
「はい。魔法が使えます!」
キュピル
「やっぱりシルパート族は皆魔法が使えるんだな・・・。何が使えるんだ?」
シフィー
「殆どは初級魔法しか扱えませんけれど・・一つだけ私でなければ扱えない魔法があります!」
キュピル
「何?君じゃないと扱えない魔法・・・?」
そんな魔法・・聞いた事ないが非常に興味がある。
キュピル
「それは一体どんな魔法だ?」
シフィー
「今お見せしますね。」
キュピル
「おい、まて!ここでやるな!下手に音立てれば誰かk・・・」
シフィーが片腕を高く上げ何かつぶやくと体から眩い白い閃光が走った。
あまりの眩しさにキュピルが思わず目を瞑り、両腕で光から目を守るがそれでも眩しい。
光が収まり目をあけるとそこには光輝く一本のロングソードが落ちていた。
キュピル
「・・・何・・・?剣・・・?」
シフィーはどこへ行った?
・・・・・。
・・・・まさか。
落ちているロングソードを手にした時、頭の中に声が直接響いて来た。
シフィー
『キュピル様。これが私だけにしか扱えない特殊な魔法でございます。』
キュピル
「・・・驚いたな・・・。生き物が武器に変わるなんて・・・初めて見た・・・。
シフィー
『この剣の名前は【ホーリネス・ブレード】と言います。さぁ、キュピル様!今手にしている聖なる剣を振るい邪悪な都市から抜け出しましょう!」
キュピル
「色々突っ込みたい所はあるがこの牢屋からは早く抜け出したい。」
・・・どれほどの威力があるか分らない。もしかすればただのロングソードかもしれないし何か特別な切れ味を持っているかもしれない。
キュピルは改めて光輝くホーリネスブレードを両手で持ち、思いっきり鉄格子を斬った。
すると次の瞬間、ホーリネスブレードが通った場所から鉄格子が溶け落ち人一人通れそうな穴が出来た。
キュピル
「す、すごい・・・!」
シフィー
『キュピル様、ホーリネスブレードには7種類のエンチャントを付属する事が出来ます。』
キュピル
「エンチャント?」
シフィー
『はい!炎・水・電・地・重力・風。そして聖。今鉄格子が溶けたのは炎のエンチャントが発動したからです。』
キュピル
「・・・武器そのものは凄く強そうなんだがエンチャントの効果が覚えられないな・・・。」
シフィー
『簡単にご説明しますと水は癒しの力を持ち、電は体の自由を奪う事が出来ます。地はキュピル様の支えとなり、重力は物体を重くし風は物体を軽くします。
そして『聖』。悪しき物を一撃で葬る究極の一撃でございます!!しかし、聖のエンチャントを使うには・・・。』
キュピル
「ええい、今細かい説明されても覚えきれない!とにかくエンチャントは有効活用させてもらうよ。
これはどうすれば変えられる?」
シフィー
『私目に一言お声をかけてくだされば変化致します!あ、エンチャントを外すこともできますのでその時は仰ってくださいね。』
キュピル
「わかった。今は炎のままでいい。威力が高そうだ。」
シフィー
『かしこまりました!』
気がつけば最初みた時よりもホーリネスブレードに赤みを帯びている気がする。
するとまた頭の中にシフィーの声が響いた。
シフィー
『あ、一つだけキュピル様にご忠告があります。』
キュピル
「ん?」
シフィー
『エンチャントの発動は私のマナを使用していますので残念ですが限界があります。
少し休めばまた使えるようになりますが大体一回につき10分ほどしか持たないです。』
キュピル
「おっと・・思ったより短いな。それだったら今はエンチャント外していい。ここぞという時に活用する。」
シフィー
『かしこまりました!』
その時、奥の階段から誰かが降りてくる音が聞こえた。
定時監視しにきた看守のようだ。隠れる場所はなく直面は避けられないだろう。
それならば・・・。
キュピル
「うおぉぉっ!!」
看守
「!!」
真っ先にホーリネスブレードを突き出し看守に先制攻撃を仕掛ける。
しかし看守が持っていたロングソードでキュピルの攻撃は防がれてしまった。
一旦お互いに距離を離し見合う。
だが看守が「脱走だ!」っと叫ばれては厄介なので叫ばれる前にもう一度突撃し猛撃を繰り出す。
ここは早期決着が良いだろう。
キュピル
「シフィー!炎だ!!」
キュピルがそう叫ぶと突如ホーリネスブレードが熱を帯びた。
ホーリネスブレードが看守のロングソードとぶつかった瞬間、ロングソードは溶け落ち無くなってしまった。
看守
「なっ!!」
キュピル
「終わりだっ!!」
キュピルが看守の心臓にホーリネスブレードを一突きしその命を奪う。
シフィー
「きゃー!!聖なる騎士キュピル様かっこいいです!!」
キュピル
「・・・行こうか・・。」
出口求めてキュピルは階段を上った。
・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
キュピル
「おりゃぁぁっーー!!」
キュピルがホーリネスブレードを振って傭兵を撃退する。わざと急所を外し傭兵に問い詰める。
キュピル
「答えろ!ここに連れて来られた奴隷は何処へ行く!!」
キュピルが剣を喉元に突きつけて叫ぶ。
傭兵
「し、知らん・・。統領にでも聞く事だな・・・。その前に貴様は死ぬがな・・・・。」
キュピルが傭兵の喉を突き刺し命を奪う。
その直後、警報が鳴り響き何処からともなく傭兵が数え切れないほど現れキュピルを追い始めた。
ぱっと見て20人以上居る事は確実だ。いや、まだ来ている。もしかすると想像以上にやってきているかもしれない。
キュピル
「にげないと。」
あの傭兵達に囲まれたらいくらホーリネスブレードの力を借りても対処できない。
すぐに階段を駆け上り逃げ始めるが、登った先はベランダで行き止まりとなっていた。
キュピル
「まずい、このままじゃ傭兵全員と相手するはめに・・・。」
シフィー
「キュピル様!ここは二階のようです!ここから飛び降りれば外に・・・。」
キュピル
「駄目だ。俺は琶月を助けなければいけない。こうなったらこの塔を登って・・!!」
シフィー
「それならば地のエンチャントを・・・!地のエンチャントはキュピル様に支えをもたらします。
走って壁を登る事が出来るようになるはずです!」
キュピル
「それなら地のエンチャントを発動してくれ!」
キュピルがそう叫ぶと突如剣は形を変えブーツの姿となった。それがキュピルの足にくっ付き、装着すると鈍い振動音を立て始めた。
キュピルが思いきって飛び上がり壁を蹴りあげる。すると突如靴は壁に吸いつき、塔の壁が地面のように感じられた。
頭が本来の重力に逆らって重くなると思われたが、そのような事は全くなくキュピルにとって本当に重力がこの塔を中心に変わったかのように感じられた。
キュピル
「これは・・・凄いな!これなら一気にこの塔を登れる!!」
傭兵
「ん!?あいつ何処へ・・・。・・・!!居たぞ!壁だ!壁を走っている!!?」
キュピルからすれば傭兵達がまるで壁にくっついているかのように見えるが沢山の傭兵達が銃を構えキュピルを捉え始めていた事にすぐに気付いた。
撃たれる前にすぐに走って塔を登り始める。
キュピル
「うおおおぉぉぉぉーーー!!!」
銃弾が塔の壁にぶつかり、破片が飛び散る。
キュピルの行く先に銃弾が当たり、飛び散った破片がキュピルの頬を斬り裂く。
だがそんな事には構わず全力で塔の壁を駆け走る。
途中柱から突き出た棘を背にして弾避けを図り再び塔を登り始める。
そしてついには射程外へと飛び出した。
キュピル
「よっし・・・。これならすぐに頂上へ行ける・・・!シフィー!地のエンチャントはあと何分持つ!」
シフィー
「後7分です。」
キュピル
「よし、7分あれば3kmぐらいは進める・・・。琶月、今行く!!」
キュピルが疲れを無視して全力で塔を登る。
キュピル
「おんりゃあぁぁっっーーー!!!」
全速で走り続ける事更に2分。
シフィー
「後5分です!」
キュピル
「まだいける!」
いよいよ暗雲立ち込める雲の中へと入ろうとしたその時。稲妻が走り鼓膜が破れそうな程の大きな爆音が鳴った。
キュピル
「ぐわっ!」
シフィー
「キュピル様!あの雲の中に入るのは危険です!雷に打たれる可能性があります!」
キュピル
「流石に雷を防ぐ事は出来ないか・・・。仕方ない。近くの窓を突き破って入ろう。」
歩いて周辺の窓を探す。だが驚いた事にこの塔には窓がない。
キュピル
「んな馬鹿な・・・。ここまで来てまた下に戻るなんて勘弁だぞ!シフィー!炎のエンチャントで塔の壁を溶かせるか!?」
シフィー
「この塔の壁を溶かすのは無茶です!石は鉄以上に高熱でなければ溶けません!」
キュピル
「くそ、それなら物理的に破壊して入ってやる!俺が剣を振りおろした瞬間に重力のエンチャントを発動して思いっきり重くしてくれ!」
シフィー
「かしこまりました!!」
キュピルが剣を振り上げカウントを始める。
キュピル
「3・・・2・・・1・・・今だ!!」
キュピルが剣を振りおろした瞬間、あまりの重さに振り下ろす速度よりも剣が落下する速度の方が速くなり
剣だけではなくキュピルの体ごと塔に叩きつけられる。塔に大きな衝撃が走り亀裂が走ると数秒後には剣を叩きつけた場所に大きな穴が開いた。
キュピルがジャンプして穴の中に入り周囲を見回す。
キュピル
「・・・大丈夫そうだ。すぐには傭兵も上がってはこれないはずだ・・・。」
シフィー
「地のエンチャントを解除しますか?」
キュピル
「頼む。」
シフィーが地のエンチャントを解除した瞬間。本来の重力の働きが動きだし、壁に張り付いていたキュピルが床へと落ちる。
キュピル
「いてっ・・・。・・・いってててて・・・。」
シフィー
「はっ!だ、大丈夫ですか!!?」
キュピル
「この程度ならどうってことはない・・・。さて、上へ続く階段を探さなければな。」
ここから二方向に行く事が出来るが壁を崩した時にとても大きな瓦礫が道の両端を塞いでおり先に進む事が出来ない。
キュピル
「これをどかす必要があるな。また砕いて・・・。」
シフィー
「キュピル様!それでしたら風のエンチャントがピッタシですよ!」
キュピル
「確か物体を軽くするんだっけか。よし、風のエンチャントを。」
シフィー
「かしこまりました!キュピル様の籠手に風のエンチャントを付与しました。試しに瓦礫を持って見てください。」
キュピル
「どれどれ。」
キュピルが力を込めて瓦礫を持ち上げる。が、想像以上に軽かったため勢い余ってそのまま倒れてしまい
瓦礫が塔から市街へと吹っ飛んで行った。
キュピル
「やべっ、瓦礫が。」
キュピルの傍から離れた瓦礫は元の重さへと戻りCHHのある建物の屋根を突き破って落ちて行った。
キュピル
「・・・・。」
シフィー
「気にする事はありません、キュピル様!悪に正義の裁きを下したと考えれば良いのです!」
キュピルまぁ、偶然極悪野郎の家に落ちていれば本当に良いんだが・・・。」
「自己正当かよ。
再び雷の音が鳴り響く。雷は塔にでも落ちたのか一瞬揺れたような気がしたキュピル。
更なる塔の上階へと向けて再び走り出した。
・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
輝月はヘルと男共に襲撃を受けた場所からたった5mしか離れていない、ある建物の中で拘束されていた。
台座の乗せられており、両手両足、腕、太もも、お腹に硬いベルトが巻きつけられている。自由に動くのは首から上の頭ぐらいだ。
脳震盪によって意識障害が起きていた輝月だが、これも10分ほどの経過によって意識は徐々に回復していった。精神力の高さがうかがえる。
輝月
「ぐっ・・・・・。」
ぼやけた視界が徐々に元に戻る。・・・鼻にツンと来る鉄の臭い。・・・・これは・・?
ヘル
「起きたか。」
ヘルが深々と汚れたソファーに腰を降ろしていた。そのヘルの足元には血を流した男の死体が二人。
その光景が意味していることを輝月は読みとれなかった。
輝月
「・・・貴様・・・私を嵌めようとその下劣な男と組んでいたのではなかったのか?」
ヘル
「こんな奴と会った事なんかねーな。今日初対面だっつの。」
輝月
「・・・?・・・??では、何故その者共を殺した?」
ヘル
「邪魔だったからだ。俺は元からお前を誰の目にもつかない場所で拷問出来る場所を探していただけだ。こいつはその場所を提供していたがこいつ等その者が邪魔だったら始末しただけだ。」
ヘルが立ち上がり、輝月の傍に置かれている箱の蓋を蹴りあげて開ける。中には見た事のない沢山の道具が入っていた。
ヘル
「輝月、お前を肉体的にも精神的にもボコボコにするのはこの俺だ。紅の道場で受けた屈辱はキッチリ晴らさせて貰うぜ。」
輝月
「ふん。負け犬が何かほざいているようじゃが、このような事をしてただで済むとは思ってはおるまいな?」
ヘル
「何事もなく済む。それがCHHなんだよ。」
ヘルが一本の注射器を取り出し薬瓶に突き刺し薬を注入する。
紫色の有毒そうな液体が注射器一杯に入る。
輝月
「毒か?」
ヘル
「毒かもしれねーな。」
ヘルが注射器を手に持って輝月に近づく。輝月が全く抵抗できない事を良い事に、そのまま首元に注射器を刺し薬を注入する。
針が刺さった瞬間輝月の体が一瞬震えた。
ヘル
「怖いか?」
輝月
「・・・・・・・・・。」
無言だが怖がっている訳ではなさそうだ。輝月の表情からは怒りしか読みとれず反撃の機会を伺っているのが良く分る。
そうなる前に徹底的に凌辱する。それがヘルの考えだった。
薬を打った後は一度ソファーまで戻り輝月の様子を観察する。
五分経過するまでは目立った出来事は特になかったが10分経過すると明らかに輝月に異変が起きていた事が分った。
輝月の体が小刻みに震え、息が荒くなりはじめた。
輝月
「(ぅ・・・っ・・・な・・・・?)」
ヘルが立ちあがり輝月に近づくと徐に輝月の体に触れ始めた。
輝月
「触るな!!!」
ヘル
「黙れよ。」
ヘルが軽く輝月の顔をビンタする。今の攻撃に更に輝月が叫び、吠えるがヘルが輝月の和服を破ると体を強張らせた。
ヘル
「てめぇはここで犯されて喘ぎながら死ねよ。」
輝月
「今まではキュピルの顔に免じて貴様を生かしていたが、もう絶対に許さぬ!!貴様を絶対に殺す!!!」
ヘル
「おー、怖い怖い。殺される前にお前を殺してやるよ。勿論その前にその脆いプライドを全部砕いてからだけどな。」
ヘルが得体のしれない道具を持って輝月に近づいた瞬間。何処かで瓦礫の崩れる音が鳴り響いた。
ヘル
「(む?・・・どっかの野郎が暴れてるのか。)」
気にせず輝月に接近したその時。突如天井にヒビが入り、その直後に巨大な瓦礫がヘルと輝月の間に振ってきた。
すぐさまヘルがバックステップしその場から離れる。続いて天井の瓦礫も降り注ぎ二人の間に瓦礫の山が出来あがる。
ヘル
「何だ!!こいつは!!」
輝月
「(・・・もう一歩奴が前におれば今ので即死じゃったな。惜しい。)」
ヘル
「くそ・・この糞瓦礫め!予定は変更だ!この瓦礫をどかしたら即てめぇをぶっ殺す!!」
「おいおい何だぁ?」
「あの建物が壊れたらしいぜ、ハイエナのチャンスだな。」
ヘルが瓦礫を撤去しようとしたその時、複数人の男たちがぞろぞろと建物の中に入ってきた。
ヘル
「あ゙ぁ゙っ!?」
ハイエナ
「一人みたいだぜ、やっちまおう。」
ハイエナ2
「・・・俺は逃げる!!ヘルと戦っていられるか!!!」
ハイエナ
「何だろうと関係ねぇっー!」
ヘル
「くそが!!次から次へと面倒な事ばかり起こしやがって!!!」
瓦礫の向こうで暴れ回っているヘルを余所に脱出を図る輝月。
強度の高いベルトで全身を縛り付けられているが目を閉じ冷静に呪文を唱える。何の妨害もなく30秒ほど呪文を呟き続けると突如輝月を炎が包みこみベルトを全て焼ききってしまった。
発火の呪文を誤った使い方をしわざと暴発させたようだ。
軽い火傷こそ負ったものの拘束を解く事が出来たため悪くない結果か。
輝月
「(今すぐ奴を抹殺したい所じゃが刀がなければ分が悪い。一度引き戻った所で今度こそ奴を打ちのめそう。)」
破られた和服を手に取り広げる。部分的に千切れてはいるが着れない事もないだろう。大事な場所を隠すために破れた和服を着直し部分的に結び直す。
そしてすぐに建物から避難し外へ飛び出した。
が、外には騒ぎをききつけ集まった下品な男達が待ちかまえていた。
男
「お、中から上玉の女が出てきたぜ。」
建物は既に群がった男達に包囲されていた。武器がないため強行突破は難しい。
輝月
「(ワシの不運を呪いたくなる。)」
男2
「見ろよ、こいつの顔。すげぇ紅潮してやがる。中で犯されてたにちげぇねぇ。」
挑発された輝月の悪い癖が出た。拳を振るい男を殴ろうとしたが片手で受け止められてしまった。
ヘルに打たれた薬が冷静さを欠いた原因であるのは事実だが、元からの性格が影響していたのが大きい。
男2
「パーティ会場へ招待してやる。」
別の男が輝月のお腹を思いっきり蹴りあげる。咽かえり自分に突っ伏した輝月の首を十数秒絞め続け意識を失わせた。
群がっていた男達が一斉に「へっへっへ」と笑い出した。
・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
琶月
「・・・・・・・・・・・・。」
随分と長い間気を失っていた。長い眠りから覚める。
しかし意識が戻った瞬間に即座に体の神経がおかしくなっている事に気付く。いや、思い出したか。
手の先から足の先までピリピリした感覚に包まれており、まともな意識を保つ事が出来ない。
長い長い拷問を受けて体の神経に異常が出ているのか・・・。感覚がおかしいだけでなく体を想うように動かす事も出来ない。
琶月
「うっ・・・に・・逃げ・・。」
何処に居るのかすら分らないが、今すぐ逃げなければ死ぬ。本能的にそう思わざるを得ない所まで琶月は追い詰められている。
琶月の心に重くのしかかる不安感。まるで死刑台に座らせられ死への秒読みを宣告されているかのような極度の緊張とストレス。
勝手に涙が溢れ続け、拳を振るわせ必死に体を動かす。
ぼやけた視界の中、何とか立ち上がり辺りを見回す。一瞬だけピントが合ったりずれたりを繰り返しながら今居る場所を確認する。
琶月
「・・・ここ・・・は・・・。」
・・・何処・・・?
まだ目のピントが合わない。次に視覚ではなく聴覚に頼り今居る場所を探る。
今までずっと視覚で状況を探ろうとしていたため気付かなかったが、何かが勢いよく燃えている音が聞こえる。
琶月
「火・・・事・・・?」
だとしたら早く逃げないと・・・。
足を一歩前に動かす。が、一歩前に踏み出した瞬間に膝の力が抜けズルッと前に倒れ込む。
体に衝撃が走り神経が一斉に働き脳にその情報を送る。
普通の人ならば数秒で収まる痛み程度だが琶月に取ってその痛みがまるで巨大な鉄球でもぶつけられたかのような痛みに感じられ
大声で苦しみの呻き声をあげる。
呼吸が荒く、まだ涙が止まらない。
琶月
「ひぅっ・・・うっ・・ぅっ・・・たす・・助けて・・・。キュ・・ピ・・。」
その時。強烈な爆音と鳴り響き視界が真っ赤に染まる。
灼熱の炎に焼かれたような、強烈な火傷の痛みに近い痛覚が走り再び琶月が叫び声を上げる。
眼を見開き今何が起きているか再び確認する。
・・・目の前に大きな火柱が立っている・・・・。
さっきまでそこには何もなかったはずの場所に・・・。
よく見ると火柱の下に大きな魔法陣がある事に気付く。六角形の形をし、中央には何の言葉で書かれているか分らない言語がびっしりと書かれてあり回転している。
火は時折勢いよく吹きだし、その時一緒に何かの言葉の形をした火も一緒に噴き出てはすぐに消えていった。
琶月には今、目の前で何が起きているのか全く理解出来ていなかった。
ただ、それが本能的に怖い物であるというのは分っており四肢を必死に動かして後ろに下がり始める琶月。
琶月
「ゃっ・・・いっ・・・いやっ・・・。」
だが琶月が下がれば下がるほど火柱は強く昇り、すぐ目の前まで火が迫り続けている。
肉が焼け爛れそうな地獄の灼熱から必死に逃げ続けていると、火柱の中に何か変化がある事に気付いた。
地獄の業火を拭き続ける魔法陣の先に一瞬都市が映った。
だがそれに気付くと同時に突如火柱の中から誰かの腕が飛び出し琶月の首根っこを掴む。
琶月
「っっ!!!」
叫び声を上げようとするが声を上げることも出来ない程に喉を強く掴まれている。
腕しか見えず、正体が分らない。今琶月を持ちあげている人物が統領なのだろうか?
だが琶月の首を掴んでいるその腕は真っ黒に焦げており、肉は焼け落ち、所々骨が見え隠れしている。
それに気付いた琶月は更に深いパニック状態に陥り、暴れたり泣け叫び始める。
しかしそのまま業火に引きこまれた所で脳が身を守るために琶月の意識を遮断し、気絶してしまった。
次は何時目覚め、そして何処で目覚めるか・・・。
続く
石のかいも、真鍮(しんちゅう)の伸べ金で出来た金の城壁も、 空気もかよわない土牢も、いかに強い鉄の鎖も毅然とした精神力を拒む事だけはできない。 ――シェイクスピア「ジュリアス・シーザー 一幕三場」 |
・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ギーン
「・・・あの馬鹿。」
ギーンが長い詠唱を経てようやくキュピルの居場所を水晶玉に映したが、そこには平然と塔の中を走り回るキュピルの姿があった。
時折傭兵と接触しているがその度に見た事もない武器を振り回し敵を一刀両断している。
壁を破壊したり謎の念力で瓦礫を持ち上げては吹き飛ばし多彩な行動を取り続けている。傍から見れば普通に順調に進んでいるように見える。
ギーン
「ちっ、心配して損した。あいつは余裕だ。」
ミーア
「・・・最悪の事態になっていなくてよかったと喜ぶべきだ。」
ギーン
「分っている!とにかくファンに知らせてやろう。下手に動かなくても良さそうだってな。」
・・・・。
・・・・・・・・・・・。
各々状況が変化し続けて行く中、とある宿屋でも大きな動きが起きようとしていた。
テルミット
「(ヘルも輝月さんも来ない・・・。やっぱりついていた方が良かった・・。)」
大昔、ヘルと共にCHHへ来た事へあったが一緒に行動した事は少なくヘルに不審な行動が目立った。
今回もヘルに不審な行動が見える・・・・。
テルミットが深刻そうな顔をして考えている間にファンが水晶玉に変化が起きていた事に気付いた。
ファン
「おや、テルミットさん。水晶玉が光りましたよ。」
テルミットがハッとし、顔をあげる。
テルミット
「ギーンさんの準備が終わったようですね。叩きますよ。」
テルミットが水晶玉を人差し指で数回叩くと、一筋の光が壁に向けて水晶玉から発せられギーンの姿が壁に映し出された。
ファン
「ギーンさん、随分時間かかっていたy・・・。」
ギーン
『ファン。キュピルは今塔の中にいる。』
ファンの話しを遮り、半分苛立ちながら二人にキュピルの状況を伝えた。
テルミット
「え、塔って・・まさか統領のいる塔ですか!?」
ギーン
『そうだ。』
ファン
「キュピルさんの居場所を写しだす魔法を唱えたのですか?もし、そうだとすれば魔力の干渉が起き統領の問題に関わったと見なされるおs・・。」
ギーン
『そんな事は百も承知している。わざわざ長い時間かけて特殊な魔法を詠唱した、居場所はばれない。干渉はばれるかもしれないがな。』
ファン
「居場所が分らなければ問題はないかもしれませんね。ギーンさん、キュピルさんは塔の中に居るという事は順調に作戦は進んでいると見た方がよろしいですか?」
ギーンが腕組みをし熟考し始める。確かに映像を見る限りではキュピルはとても順調そうに見える。
だが、そもそも本来の作戦ではあの塔に入る事は想定していなかった。どこかで開かれるオークションからトラバチェスの印章を取り返すだけの作戦。
・・・キュピルは今統領の塔に入り込み、そこで堂々と暴れ回っている。今はよくても後々深刻な影響を及ぼすのは確実だ。
そのうち何処かで息切れを起こし深刻な事態を招くに違いない。
ギーン
『・・・キュピルに何らかの支援をしなければ、今やつが達成しようとしている事は成し遂げられない可能性がある。』
テルミット
「支援・・・ですか。合流する事が出来れば戦力として加わる事が出来るのですが・・・。」
ギーン
『あいつ既に大分高い所まで塔を上っている。一体どうやってそこまで上ったか分らないけどな。合流は難しいぞ。』
そこまで言って今まで気付いていなかった事にファンは気付いた。
ファン
「・・・そういえば琶月さんは?」
ギーン
『琶月?・・・そういえば、映像には一緒に写っていなかったな。』
ギーンの中ではすっかり琶月の事は忘れていたようだ。完全に戦力外だと思っている。
そしてファンに琶月の事を指摘されて事態は思っていたより深刻な状況に向かっている事に気付き始めた。
ギーン
『・・・あの馬鹿野郎・・まさか、あの塔に潜りこんでいるのは印章を取り返すためではなく琶月を救出するためだったりしないだろうな!!』
ファン
「急いで琶月さんの居場所を確認する必要があるみたいです。」
ギーン
『くそが!また1時間詠唱しなければいけないのか!』
ファン
「ギーンさんが魔法を唱えている間に今後取るべき行動を考えておきましょう。」
ギーン
『任せるぞ。状況を把握したらまた水晶玉で連絡する。』
そういうと映像は途切れ、水晶玉から輝きは失われた。
テルミット
「・・・2パターン考えないといけなさそうですね。」
ファン
「みたいです。一つはキュピルさんと琶月さんは実は共に行動していた、または琶月さんは安全な場所にいるパターン。
そしてもう一つはキュピルさんは印章ではなく琶月さんを救出しに塔へ行っていた場合。」
テルミット
「前者の場合はキュピルさんの作戦が成功した場合は安全に撤退する方法だけを考えれば良さそうですが・・・。
後者の場合は作戦は持続しますから・・・長期的な作戦行動を考えなければいけませんね・・・。」
ファン
「前者、後者にしても今キュピルさんは塔の中に居る事は変わりありません。前者だったとしてもギーンさんが言っていた通りキュピルさんが息切れする可能性も高いので
後ろの行動は変わると思いますがキュピルさんが塔の中にいる間の行動は共通していると思います。先にそこから考えてみませんか?」
テルミット
「分りました。・・・所でもう一つ気になる事があるのですが・・・。」
ファンが首をかしげる。心当たりがないらしい。
テルミット
「・・・ヘルさんと輝月さんがまだ帰ってきません。」
ファンがハッとする。
ファン
「・・・面倒な事になっていなければ良いのですが・・・。面倒な事が起きている可能性の方が高そうです。」
テルミット
「はぁ・・・。ヘル・・・。」
・・・・。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
傭兵
「何処へ行った?」
傭兵2
「分らん、とにかく探し出せ!」
CHHの中央に聳え立つ巨大な黒い塔。
雲よりも高いその塔の中で傭兵達がキュピルを探し回っている。
一方、そのキュピルはと言うと・・・。
キュピル
「ひゅー・・・、何とか見つからずに済んだな。」
キュピルが天井に張り付いて傭兵の様子を伺っていた。
ホーリネスブレードが持つ地のエンチャントを使用して天井に張り付いていたようだ。
傭兵が通りすぎたのを確認すると効果を解除し地面に着地する。
シフィー
『キュピル様、そろそろマナが尽きてエンチャントが発動出来なくなります。』
キュピル
「回復するのにどれくらいかかる?」
シフィー
『10分経過すれば1分ぐらいは回復します!』
キュピル
「早いのか遅いのか分らないが・・・普通かな。しかし、今塔のどの辺まで上ったんだろうか。」
時折見える窓を除いても雲の中にいるため、どこまで高く上ったのか分らない。
そもそも琶月は今何処に居るのか・・・。
キュピル
「(琶月は統領に売られたっとアーリンが言っていた。統領は名前の通りその領を統べる者。
つまり一番上にいるって考えていいよな?ギーンの王室は塔の最上階だし。)」
・・・まさか王の部屋が中階層にあるとは思えない。
とにかくこの塔を登っていけばいいだろう。
キュピルが更に上階へ続く階段を探すため、適当な扉を開けると奇妙な部屋に出た。
キュピル
「なんだ、これは?」
扉の先は塔の中で見たどの部屋よりも広く、中央には巨大な魔法陣が一つあるだけだった。
キュピル
「(・・・この魔法陣は・・・アノマラド大陸独特のルーン語で書かれているな・・・。少なくともこの魔法陣を作った奴は・・・。
・・・ん、何だこの文字は・・・。見た事ない文字だ・・・。)」
魔法陣の外周にはルーン語と訳のわからない言語でびっしりと書かれていた。
シフィー
『キュピル様、あの魔法陣から強力な魔力が発せられています。迂闊に触れると危険です!』
キュピル
「わかっ・・・。」
キュピルが魔法陣から離れようとした瞬間。突如魔法陣から巨大な火柱が立ち始めキュピルの顔先をかすめる。
突然の出来事と耐えられない熱風にキュピルが背中から地面に倒れる。
さっきまで静止していた魔法陣は急速に回転し始めた。ルーン語で書かれた外周は時計回りに、知らない言語で書かれた外周は反時計回りに回りだす。
キュピル
「なんだ!?」
状況を把握する前に火柱は更に強くなり、部屋の隅から隅まで業火が吹きだした。
業火に身を包まれ叫び声を上げるキュピル。エンチャントを使用して業火から身を守ろうとするが業火から身を守る策が思い当たらない。
全身火傷はもう免れないだろう、なんとしてでもこの業火から抜け出さなければ。
そう思った直後、目の前に無数の文字が浮かび上がった。
City
of
Heaven and Hell
What
is
happiness?
キュピル
「くっ・・・・・。
・・・・・・ん・・・・・?」
腕をクロスし業火から身を守っていると、突如火は消え火傷の痛みから解放されていた。
体の傷を確認すると、火傷はおろか服すら燃えていなかった。
キュピル
(一体何だったんだ・・・?)」
だが、次に回りを確認しキュピルは驚愕した。さっきまで塔の中にある一室に居たのに、今自分がいる場所は噴煙で空が覆われた、暗くて煙い場所に居た。
全ての木々が枯れており、先端が尖った謎の毒々しい蔓が岩に絡みついている。
遠くで噴火している山が見える。この噴煙は噴火による影響なのだろうか?
キュピル
「ここは一体何処何だ・・・!こんな所に来ている場合じゃないというのに!!」
シフィー
『キュピル様・・・。何だかここ・・・凄く怖いです・・・。』
キュピル
「・・・シフィー、安全な場所を見つけてたら一旦休もう。エンチャントが回復するまで一旦休憩してその後元に戻る方法を探そう。」
シフィー
『分りました。』
とりあえず今居る場所が安全かどうか確認する。
・・・岩に巻きついている蔓が勝手にウネウネと動いている。見ていて安心できるものではない。
敵意も感じられたためその場から離れるキュピル。
・・・。
・・・・・・・。
しばらく適当に歩き続ける。少し離れた所に丘陵地帯があるのを見つけた。遠くまで視界が見渡せると判断し丘陵を登り始める。時折無数の蔦と蔓に襲われはしたがホーリネスブレードで斬って退治する。
・・・・そして丘陵を登り始めて二時間後。
頂上へ辿りつき、キュピルの目の前には信じ難い光景が広がっていた。
キュピル
「・・・・CHHがある・・・。」
丘陵の先には都市が合った。中央にはCHHで見た巨大な黒い塔と全く同じ物が聳え立っており、その周囲には石ビルが立ち並んでいた。
砂漠で見たCHHと全く同じ外観だった。
キュピル
「・・・どうして、こんな所にCHHと酷似した都市が・・・。・・・まさかあれもCHHだと言うのか・・?」
・・・そもそもここは一体何処なのか?
とてもじゃないがアノマラド大陸だとは思えない。何処か別世界だと考えるのが妥当だが・・・。
・・・・・琶月はそこにいるのだろうか?
キュピル
「・・・厄介な所に巻き込まれてしまった・・・。」
シフィー
『キュピル様、少し休まれてはいかがですか?丘陵を登っているうちにマナは回復しましたがキュピル様の体力が心配です・・・。』
キュピル
「・・・そうだな、少し休もうか。シフィーとも少し話しがしたいしね。」
キュピルがそういうと突如ホーリネスブレードは白く光り輝き、一瞬直視できない程輝いた。
光が収まるとそこにはシフィーが裸で座っていた。
シフィー
「キュピル様とお話しできるのはとても楽しみです!」
キュピル
「・・・シフィー、服はないのか?」
シフィー
「・・・・?・・・あ、服・・・。ずーっと長い事奴隷として扱われていたので服の事何かすっかり忘れていました。
私はもう恥ずかしくないので大丈夫ですよ?」
キュピル
「目のやり場に困るんだ・・・。・・・せめてこれだけでもいいから着ててくれ。」
そういうとキュピルは黒いコートを脱ぎ、シフィーに手渡す。
キュピル
「ちょっとシフィーには小さいかもしれない。俺より身長高いみたいだから・・・。」
シフィー
「キュピル様のコート!ありがとうございます!」
シフィーが喜んでコートに袖を通す。・・・胸の所がかなりきつそうだ。それに下の部分が全く隠れていない。
余計に目のやり場に困る。
キュピル
「(こんな所、ルイに見つかったら殺されるだけじゃすまないかもな・・・・。)」
そんな事を考えながら地面に座り込み、視界の先にあるCHHを見ながら考え事を始める。
キュピル
「(・・・・事の発端は・・・俺がバーテンダーに騙されたからこうなったんだよな・・・。
・・・琶月にはBWをさせてしまった・・・・。・・・・責任は重い。)」
・・・少し現実逃避ぎみにシフィーに話しかける。
キュピル
「シフィー、少し質問をしてもいいか?」
シフィー
「はい!勿論です!」
シフィーがキュピルの隣に座り肩によりかかりながら話し始めた。
キュピル
「シフィーはシルパート族何だよな?」
シフィー
「そうです!」
キュピル
「・・・昔、俺は城下町ギルドって都市に住んでいたんだけどその名前は知っているか?」
シフィー
「知っていますよ。」
キュピルが面喰らった表情をシフィーに見せる。
キュピル
「・・・それは本当か?」
シフィー
「勿論ですよ。」
キュピル
「・・・城下町ギルドはアノマラド大陸には存在しない・・別次元の都市だ。
・・・シフィー、今俺達がいる世界はともかく、さっきまで居たCHHはアノマラド大陸っと呼ばれる世界に存在する都市なんだ。
つまり君は次元を超えてアノマラド大陸に・・・やってきたって事なのか?」
シフィー
「うーん・・ごめんなさい!私色んな奴隷仲介人の所を経由してCHHにやってきたので・・・頭に布袋も被せられていたのでよく分らないのです・・・。」
キュピルがシフィーから目を逸らし、再び丘陵の先に見える都市へと視線を戻す。
キュピル
「そうか・・。」
・・・色んな奴隷仲介人を経由してCHHへやってきた。
・・・つまり、事の発端は城下町ギルドが存在する、あの世界で何者かにシフィーは捕まり・・・そこから何らかの経由でここアノマラドへやってきた・・・。
やはりCHHの統領はただ者ではないと考えた方が良いようだ。
他方の奴隷仲介人と組織的に繋がっている可能性が高く、次元を超えて奴隷を取引できるのであれば、それは統領自身が魔術師か、またはその側近がいるか・・。
キュピル
「(奴隷を売買して金銭を稼ぐ輩は・・・それに手慣れていれば手慣れている程用心深く、賢く、そして自分の持ち兵力を最大限注意を払う。
あのCHHが統領の物であるという事を考えれば・・・。統領は凄まじい軍事力を持っているはずだ・・・。)」
・・・・・。
シフィー
「キュピル様?」
キュピル
「なぁ、シフィー。シフィーは何時から・・捕まったんだ?」
シフィー
「えーっと・・日付も殆ど見ていませんでしたから、何回お天道様が昇ったか覚えていません・・。」
キュピル
「直感でいいよ。それは最近?それとも凄く昔?」
シフィー
「そういえば捕まった時は私はまだ子供でしたね・・・。戦争が飛び火して巻き込まれて捕まった記憶があります。」
キュピル
「(もしかすると俺がアノマラド大陸に飛ばされた時期と近いのかもしれない・・・。)
質問攻めで悪いけど、CHHにやってきたのは何時頃か分るか?」
シフィー
「あの街へやってきたのは・・・恐らく1、2年前だったと思います。自信はありませんけれど・・・。」
1,2年前・・・。しかし、それだけの情報では全く統領の持つ当時の影響力は分らない。
聞いても無駄な質問だったかもしれない。
キュピル
「わかった、ありがとう。シフィーが疲れていなければそろそろあの見えている都市に向かいたいんだが・・・。」
シフィー
「出発する前に今度は私がキュピル様に質問しても良いですか?」
キュピル
「辛い質問ばっかりしちまったからな。どんな質問でもいいよ。」
シフィーがニコニコと笑いながらキュピルに問い掛けた。
シフィー
「キュピル様は婚約者とかいらっしゃるのですか?」
キュピル
「婚約者・・・・。」
・・・・。厳密に言えばミティア、そしてミティアはルイな訳だから一応居る事になる。嘘ついても意味はないだろう。
キュピル
「いるよ。」
シフィー
「えっ!!!!」
シフィーがあからさまに驚いた顔を見せ、しばらくしてしょんぼりした顔を見せた。
シフィー
「せっかく白馬の王子様を見つけたと思ったのに・・・。」
キュピル
「種族が違うんだから、諦めた方が・・・。」
シフィー
「いいえ!!愛は種族を超えます!そして愛は障害も超えます!!婚約者がいようともです!!」
キュピル
「(面倒な事になった。今度ヘルでも紹介しておこう・・・。)
・・・他に質問がなければ出発するよ。」
シフィー
「キュピル様の好きな食べ物は?」
キュピル
「お寿司。」
シフィー
「キュピル様の趣味は?」
キュピル
「えーっと、最近だと娘とペット二人がやってるゲームか。」
シフィー
「えーーーーーー!!!む、娘!!!!???」
シフィーが地面の上にドサッと背中から倒れる。尻尾がクッションになっており、時々もぞもぞと動いている。
シフィー
「わわわ・・・この障害は大きいです・・・。」
キュピル
「・・・おーい、そろそろ行くぞ。また武器になってくれるか?」
シフィー
「ワ、ワカリマシタ・・・。」
シフィーが白く光り輝き、再びホーリネスブレードへと変化した。しかしさっきまでと違い刃はこぼれており、芯も弱い物となっている。
これでは剣と剣がぶつかり合えば負けるのは必然。
キュピル
「うわっ、さっきと偉い質が違う!何が原因なんだ!?」
シフィー
「私の気分かもしれません・・。」
キュピル
「(だああああーーー!!めんどくせえええーーーー!!!!!
この子、凄い子でスタイルが良いのも認めるがあまりにも欠点が多すぎる!!!)」
このままでは道中、敵と遭遇した場合切り抜けられない恐れがある。
シフィーが喜びそうな事をして手っ取り早く街まで行く他ない。
・・・どうせ人目もないし、ルイにも絶対にばれないだろうから・・・・。
キュピル
「シフィー、もう一度だけ元の姿に戻ってもらって良いか?」
シフィー
「・・・はい?」
ホーリネスブレードが輝き、再び元の姿へと戻った。
シフィー
「どうかなさいまs・・・。」
シフィーが喋り出す前に口付けする。勢い余って押し倒してしまうがシフィーが驚いた後、数秒後キュピルに力強く抱きついた。
キュピル
「・・・元気出た?」
シフィー
「はい!!!!!!」
キュピル
「それじゃ行こうか。」
シフィー
「もう少しだけ!」
キュピル
「うわっ!」
倒れたシフィーが起き上がろうとしたキュピルの背中に手を回し、もう一度自分の懐へ引き寄せたキスをした。
二十秒ほどにも及ぶ長いキスを終え、ようやくキュピルはシフィーから解放される。
キュピル
「(・・・俺はこんなキャラじゃないのに。というか、本当にルイにばれたりしないよな!!仕方なくやったにせよ!!)」
・・・まぁ、でも役得かな?っとひっそり思いつつ、もう一度シフィーに武器の姿へなってくれるよう頼むキュピルであった。今度は初めて見た時よりも更に鋭利な剣になっていた。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
==???
輝月
「っ・・・。・・・・・。・・・・・。」
悪臭、汚臭のする密室。肌と肌がぶつかり合う音がこだます部屋の中で輝月は手枷と足枷を嵌められ、無数の男達に強姦されていた。が、その傍らで何故か悶え苦しんでいる男が十数人。
輝月の口に無理やりペニスを押し込もうとして思いっきり噛まれたようだ。他の男達も手で握らせようとして女性とは思えない握力で捻りつぶされ悶え苦しんでいた。
結局一人の男だけが輝月の腰を掴み、乱暴に押したり引いたりを繰り返しながら男のペニスを輝月の膣内を出し入れさせていた。輝月の背中や髪には精液がかかっている。
しかし輝月は声を上げず、ただひたすら黙って行為を我慢し続けている。
男
「ちっ、こいつ全然喘がねぇ。まぐろだと全然面白くねぇよ。おい、もっと一斉に責めてぐちゃぐちゃにしろよ。」
男が輝月のお尻を叩くがそれでも輝月は声を上げようとしない。
男2
「嫌だよ、俺自分のちんこS字に曲げられたくねーよ・・・。」
輝月の傍らで寝そべって答える別の男。輝月を犯したいようだが真正面からだと全て手で捻りつぶされる事を学習したためか後ろが空くのを待っている。
別の男も寝そべりながら喋り始めた。
男3
「第一、そいつ処女だったじゃねーか・・。処女じゃいきなりぶち込んでも痛いに決まってるだろうが。売っちまった方が遥かに良かっただろ・・・。」
男
「くっそ、面白くない!こいつ建物から出て来た時は薬打たれてたんだろ?何で効果出てねーんだよ!理性ぶっ飛んで良い頃だろ。」
手を腰から胸の方に回し乳首を弄りつつ、思いっきりペニスを突き上げてみるがそれでも輝月は声を上げない。
まるで何も感じていないかのように思われているが、何か様子がおかしい。
輝月
「(はぁっ・・・くぅっ・・・!早く・・・早く終われ・・・!こんな・・・こんな感覚・・ワシは知らぬ・・・!)」
腰のあたりが熱く、突きあげられる度に声が漏れだしそうになる。だが始めこそ黙っていたのはプライドによるものだったが
黙っている事によって徐々に男達に飽きられている事が分り、このまま黙り続けていれば解放されるのではっと期待をも抱いている。
そのため、何をされようが絶対に喋らない事を決め込んだのだがヘルに打たれた薬が影響しているのか頭の中は未知の快楽でぐちゃぐちゃにされている。
男が諦めたのかペニスを引き抜き輝月の傍から離れる。
輝月
「(うっ・・く・・終わっ・・た・・・?)」
男
「あぁ、だめだ。こいつ睨むとこえーし、胸も全然ねーし中途半端すぎて駄目だ!傷物にしちまったけどやっぱ売ろうぜ。」
男がやる気がなさそうに適当に輝月のお尻を叩く。その仕草は早くも飽きたとでも言わんばかりの動作。
数人の男達が文句を言いながら輝月の背後に群がる。
男2
「おいおい、せめて一発やらせてくれよ。」
男3
「俺も俺も。」
男
「んじゃ、お前はぶち込んでろ。おい、そこでのびてるお前等ももう売っていいよな?」
このリーダー格っぽそうな男がそう叫ぶ。激痛で返答すらままならない男達以外は皆「構わない」や「せめて一発やらせろ!」と叫んだりしていた。
男が一度舌打ちし、
男
「んじゃ、決まり。あーあ、安くなっちまうなー・・・。あ、お前等!ヤッてもいいが中には出すなよ!下手して妊娠でもしたらそれこそ価値がダダ下がりになるからな!!」
そう叫びながら扉を開け何処かに行ってしまった。
別の男が輝月の傍に歩む。腰を掴み、ペニスをぶち込みピストン運動を始めた。
男2
「やっとおれの番だ。おい、貧乳。気持ちよくて喘ぎたかったら喘いでもいいんだぞ。お前にはそれくらいしか期待できないんだからな。」
輝月
「・・・・・・・・・・・・。」
歯を食いしばり、なんとしても声を上げないと心に誓う輝月。もうすぐで脱出のチャンスは掴めそうだ。
ここから別の場所へ連れ去られる時が脱出のチャンスだ。勿論警備は厳しいはずだが今よりはチャンスはある。
男が激しくピストン運動をくりかえし続ける。
輝月
「(うっ・・・っ!ぁっ!くぅっ!)」
可能な限り息を荒げず、声もあげずただひたすら我慢し続ける。
ヘルに打たれた薬さえなければここまで我慢しなくても済んだのかもしれない。
屈辱的にも、男達が輝月の膣内にペニスを入れられピストン運動を繰り返しているときは快楽で何も考えられなくなっている。
ペニスが膣内で擦れ、突きあげて子宮にぶつかる度に頭の中で火花が散ったかのように強い快楽が背筋を伝って快楽が全身に広がっていく。
輝月
「(無・・・理っ・・・!!こや・・つっ・・・!!早い・・・!まだ終わらぬか・・・!?)」
心の中でそう呟いた次の瞬間、男はペニスを引き抜き輝月の背中に精液をぶっかけた。終わったようだ。
安堵のため息を付き、休憩しようとするがすかさず別の男が再び輝月の膣内にペニスを入れピストン運動を始めた。
輝月
「(っ!?ま、まだ休んでおらぬっ・・!)」
再びピストン運動が始まる。歯を食いしばり続けるが、息が徐々に荒くなってくる。
男3
「お?そろそろ感じて来たか?」
感じている。事実だが絶対にそれを悟られては行けない。
再び男が思いっきり突きあげた瞬間、今までで一番強い快楽が輝月の頭の中を埋め尽くした。初めての絶頂を迎えた。
だが奥歯が欠けてしまいそうなほどに強く歯を食いしばり、呼吸をとめてまで絶頂を迎えた事を隠した。
しかし絶頂を迎えた事による膣の収縮運動は当然隠せない。膣内がきつくなった事に男が気付いた。
男3
「おっと何だよ、こいつ絶頂迎えたぞ。」
男2
「本当なのか?」
輝月
「・・・・・・・。」
男3
「間違いねーって。・・・ガンガン突いて行けばそのうち声あげると思うぜ。うおら。」
輝月
「ぁっ・・!?」
男3
「お?今声上げたか?」
輝月
「・・・・・・・。」
男が再び突きはじめる。
突かれる度に声が漏れだしそうになる。目に涙を浮かべるがそれでも輝月は絶対に声を上げないよう我慢し続けた。
男3
「もう一歩なんだがなぁー。おーい、誰か玩具でも持ってこいよ。」
「んなもん、ここにはねーよ。」っと誰かが適当に声を上げる。
男3
「つまんねー!」
ヤケなのかどうか分らないが男は全力でピストン運動を始めた。とっとと抜く事に決めたようだ。
輝月
「(覚えておれっ・・・!殺す・・・!!このような侮辱をしておいて・・生かしては絶対に帰さぬ・・・!!)」
心の中で復讐の炎を燃やし続け自我を保ち続ける。
・・・解放されるのはまだ先だが、屈服する事は絶対になさそうだ。
続く
第九話 『隔靴掻痒』
突如、異世界とも言える世界に転送されたキュピルとシフィー。
丘陵を登り、辺りを一望できる場所へと移動した先に広がっていた光景はキュピルを驚かせるものだった。
そこにはもう一つのCHHとも呼べるものが合った。
丘陵の先には石で作られたビルが立ち並んでおり、その中央には轟く暗雲を突きぬけ高く聳え建つ禍々しいあの黒い塔があった。
キュピルとシフィーは最新の注意を払いながら移動し、そしてもう一つのCHHをうろうろと歩きまわっていた。
キュピル
「・・・俺が一番最初に来たあのCHHと凄く似ているな。
・・・ただ唯一違う点は・・。」
突如、建物の背後から無数の男達が現れ雄たけびを上げながらキュピルに襲いかかって来た。
即座にホーリネスブレードを抜刀し襲いかかって来た男達全てに斬りかかった。
男達は皆異様にやせ細っており碌な装備もしていないため撃破する事は容易い。
キュピル
「・・・アノマラドのCHHより遥かに皆好戦的でかつ貧弱であるという事・・・。
でも人だ。魔物でも何でもなく襲いかかってくる者全てが人だ・・・。」
シフィー
『ここは一体・・・。』
キュピルが近くの建物を覗く。
建物の中には数人の男達が一人の女性を囲んでおり、性的暴行を加えている。
ここに居る者全てが人としての知恵、美徳を忘れ獣のように本能の声のみを聞いて動いているかのように見える。
それ程までにこの世界は廃退的なのだ。
あるビルの角を抜けると痩せ細った数人の女性が立っていた。
キュピルと目が合うなり近寄り懇願するかのような目つきで話しかけてきた。
痩せた女性
「あぁ・・・そこの健康的なお兄様・・。どうか、どうか私を買って頂けないかしら・・。たった少しの食料と水さえ頂ければ何でもしますわ・・・。」
病に冒された女性
「何でも・・・なんでも・・ゲホッゲホッ!うっ・・・お、お願いです。どんな事も引き受けますので買って頂けないでしょうか・・。」
二人の女性の他にも他の女性にも話しかけられ困惑した表情を浮かべるキュピル。
シフィー
『ここは・・・売春婦達が集まる広場なのでしょうか・・・?』
キュピル
「(それにしては彼女たちを取りまとめる男達は居ないし・・・何よりも彼女達は心の底から俺に囲って貰う事を願っている・・・。)」
この痛々しい光景に酷く傷ついたキュピルが数人の女性に手を差し伸べる。
キュピル
「聞いてくれ。俺は旅の者だ。この街の外れに突如ワープしてしまった。
ここで今一体何が起きているのか。俺に教えてくれないか?」
キュピルがそう言うと喋れるものは一斉に状況を説明しだした。
全員の声を当然聞きとる事は出来ないため、キュピルが一度回りを静止させると一人を指名して話しを聞いた。
痩せた女性
「ここは・・・かつては何もない荒廃とした砂漠でした・・。ある時、その黒い禍々しい塔が現れ売春を目的とした隠れ裏町を作りあげて行きました・・・。
当時はまだ回りは豊かな国で溢れており、私達はこの街とは無縁な生活を送っていたのですが・・・ある時、この街を治める統領が他国に攻め入り、結果全ての国は壊滅・・・。
草木は枯れ、川と海は全て毒か溶岩へと変わり食べ物も私達の知る食べ物は全て無くなりました・・・。
生きる術を失った私達はここCHHへ移り住み・・・見た事のないグロテスクな食べ物で飢えを凌いでいます・・・。」
キュピル
「すぐ襲いかかってくるあの狂暴な男達は何だ?」
痩せた女性
「ここCHHは・・・力が全てです。力なき者は皆飢え死にする運命にあります・・・。
弱き者も強き者も誰かを襲い、そして富と食料を奪わなければ生きていません。男達は売春という選択肢はありませんから・・。」
キュピル
「・・・・・・所で、ここの大陸名は何て言うんだ?」
痩せた女性
「ヴェル・エメラルトゥンと言います・・。」
少し状況をまとめよう。ここ、ヴェル・エメラルトゥンはかつて複数の法治国家がありアノマラド大陸とあまり変わりのない生活を送っていた。
所がある時、荒廃とした砂漠に統領が治める黒い塔が出現。黒い塔を中心に売春を目的とした裏町が出来あがった。
そしてある時、統領は他国を襲い大陸を人の住めない土地へと変えていった。
生きる術を失った彼女達はCHHで売春で一日を必死の思いで生き抜き、男達は力で他人の富と食料を奪わなければ生きていけない・・・。
なんて世界だ。
そして彼女は確かに言った。「CHH」と。
キュピル
「(・・・とても嫌なシナリオがあるな・・・。)」
シフィー
『キュピル様・・・。』
キュピル
「(シフィー、教えてくれ。君が誰かに捕まり人身売買させられた時、初めに連れて行かれた場所はCHHと呼ばれていたか?)」
シフィー
『ごめんなさい・・・。名前は聞いていません・・・。』
キュピル
「(ならアノマラド大陸とここ以外であの禍々しい黒い塔を見た事はあったか?)」
シフィー
『・・・あ・・・そういえば一度だけ見たことあります!』
・・・・どうやら嫌なシナリオは当たっているようだ。
CHHはアノマラド大陸だけでなく複数の世界に存在し、そして何らかの目的があって世界を退廃させているようだ・・・。
ここ「ヴェル・エメラルトゥン」はもはや人の住める土地ではなくなっている。
これは未来のアノマラド大陸を表している可能性もあるという事か・・・?
そんな事はさせない・・・。
だが・・・・。
国をも滅ぼす事の出来る軍事力・・・。
キュピル
「(俺一人でどうにか出来る相手じゃないのは明白だ・・・。世界が壊れる力何だぞ・・・。)」
・・・だが・・・・。
どう言う事なのだろうか・・・。
キュピル
「(・・・シフィーは俺が元々住んでいた世界の出身者だ・・・。
作者は言っていた。『その世界に住む者全て私が作りあげた!』と・・・。
だがそのシフィーが多数の世界を経由し、今ここにいる・・・。もし、これが作者の仕業じゃないとすれば作者の世界に
干渉した事になる・・・。
自らの世界を作り上げ誰にも邪魔されずにニヤニヤするあいつがそんな事をして黙っている訳がない。)」
・・・・作者の力は強大だ。俺が何人いようと倒せるような敵じゃない。
CHHの統領でも痛い目にあうはずだ。・・・だが・・・なのに・・・長い事勢いがそのまま・・・っという事は・・・。
キュピル
「(・・・・可能性は二つだ。CHHの統領は作者。それなら何の問題もないからな・・・。)」
そしてもう一つの可能性。それは。
キュピル
「(・・・・作者ですら手に負えない。)」
・・・少し情報が足りない。
出来る事から少しずつ進めて行こう。
キュピルが立ちあがると再び複数の女性がキュピルに纏わりつき手を握りったり肩に触れたりし始めた。
キュピル
「ここに居る人達全員を救ってあげたいが・・・俺には出来ない。せめて食料と水だけでも提供しよう。
シフィー、食料と水を生産する魔法があったよな?」
シフィー
『はい、お任せください!』
剣が白く光り輝くと形を変え人の姿に変わっていった。
数人の女性達が驚き後ろに退くが、安全だと分るとすぐにまた群がって来た。
シフィーが魔法を唱え手を天へと向ける。そして両手に光が宿り始めると次の瞬間、右手にパン。左手には水が召喚されていた。
食料と水を見た瞬間、我先に手にせんと女性達が必死に奪い取ろうと乱闘騒ぎが起きた。
キュピル
「落ちつけ!!」
騒ぎを聞きつけた複数の男性達も集まり始めた。
食料と水を召喚出来るシフィーを目にした瞬間、人とは思えない叫び声を上げながらシフィーを誘拐しようと走り始めた。
キュピル
「させるか!!」
キュピルが素手で男を殴り手に持っていた質の悪い剣を奪い取ると男の首を斬った。
次々と襲いかかって来た男達を迎撃し一人残らず殺してしまった。
また新たに別の男達が現れたキュピルの強さを目にし恐れて距離を取っている。
キュピル
「話しを聞け!!いいか!俺は略奪をしようと殺しているんじゃない!!
お前達が俺の言う事を聞き、秩序を守るのであれば全員に一定の食料と水を配布しよう!
だが秩序を乱すのであれば何であろうと排除する!!いいな!!!」
キュピルが怒鳴りながら声を上げ周りに居る者全員を叱った。
一喝した後、全員キュピルの言う事を聞くようになり順番を守って食料と水を受け取り始めた。
中には男も混ざっていたが、それで態度を変えることもキュピルはしなかった。
騒ぎと噂は広まり、次第にキュピルの周りには沢山の人達で溢れて行った。
全員に食料と水を提供するのに相当時間がかかりそうだ。
キュピル
「シフィー、魔力は平気か?」
シフィー
「はい。私は休めばいくらでも魔力を補充する事が出来るので。」
キュピル
「シフィーが居て本当によかった。大変だと思うけどお願いするよ。」
シフィー
「はい!・・・でも後で私のお願いも聞いてくれますか?」
キュピル
「・・・何?」
シフィー
「魔法を全部唱えたら言います♪」
・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
テルミット
「・・・・・・・駄目でしたか。」
ヘル
「途中で気付かれて見失っちまったよ。」
ヘルと輝月が占拠した宿屋を出て約二時間後。ヘルは戻ってきたが輝月の姿はなかった。
テルミット
「まずいですね、CHHで輝月さんを一人放置して行く訳には・・・。」
ヘル
「別にいいだろ。あいつ一人で勝手に飛び出て行ったんだ。それに引きとめもしたし態々この俺様が出て忠告もしようとしたんだぞ。
もう知ったこっちゃねぇ。」
テルミット
「・・・・・・。」
ヘルが地べたに座り、片膝を立てる。
物凄い不機嫌そうな顔をしており迂闊に話しかけると八つ当たりを喰らいそうだ。
ヘル
「ま、俺としちゃこのままCHHの渦に飲み込まれ二度と返って来ない方が嬉しいんだがな。」
テルミット
「(・・・・・・。)」
ファン
「しかしそれは困ります。輝月さんはヘルさんと並ぶ戦力ですので居なくなられるt・・・。」
ヘル
「あいつが俺と同じ力量の訳ねーだろが!!」
ビックリしたのかファンが体を一瞬震わせた。
酷く気が立っている。
ファン
「・・・どちらにしても、このメンバーだけで塔に乗り込むのは無理ですね。」
ヘル
「・・・・何?あの統領の塔に行く事になったのか?」
ファン
「キュピルさんがそこに居る事が分ったので。」
ヘル
「何!?まさかキュピルさん統領に捕まった訳じゃないよな!?」
ファン
「いえ、捕まった訳ではありませんが塔の内部で戦っているようです。」
ヘル
「まじか・・・。キュピルさん、相当無茶してるぞ・・・。」
片目を手で覆いながら悩むヘル。
策を考えているようだが流石にそう簡単には出てこない。
その時、ギーンと連絡を取る事の出来る水晶玉が光りはじめた。
ファン
「テルミットさん、ギーンさんから連絡が来ました。」
テルミット
「あ。」
すかさずテルミットが水晶玉を人差し指で数回叩くと、一筋の光が水晶玉の中央から発せられ
壁にギーンの姿が再び映し出された。
ファンから問われる前にギーンは口を開いた。
ギーン
『琶月は塔の中に居ない。』
テルミット
「え、ちょっと待ってください。琶月さんは塔の中に居なかったのですか!?」
ギーン
『そうだが。』
テルミット
「では今琶月さんはどちらに・・・。」
ギーン
『・・・あのクズは今この世界に居ない』
その言葉を聞いた瞬間、ヘル以外の人間が固まった。
ファン
「・・・琶月さん、お亡くなりになられたのですか?」
ギーン
『違う。奴は生きている。今は違う次元の世界に行っているっという意味だ。』
ファン
「・・・それを聞いて安心しました。」
ギーン
『だがますますクズの状況が不明だな。ふん・・。』
ファン
「何故琶月さんは今異世界に・・・。」
ギーン
『それで、今後どうする予定だ?』
ファン
「キュピルさんが塔内部で戦闘しているのであれば僕は合流し救援に向かおうと思います。」
ギーン
『それは愚策だと思わなかったのか?』
ファン
「確かに愚策かもしれませんが、相手の力は強大です。小細工が通用するとは思えませんし何よりもキュピルさんの生存を重視したいと考えています。
時々キュピルさんは危ない行動に出るので本当に無茶なら止める必要がありますし、行動によっては僕の魔法があれば上手く行く可能性だってあります。」
ギーン
『・・・あまり褒めれる策ではないな。だがキュピルが死んでしまっては作戦成功率が激減するのも確かだ。
あいつが死ぬ前に誰か一人速く救援に向かった方が確かにいいな。』
ヘル
「なら俺も行くぞ!いや、全員で行けばいい!!」
ギーン
『馬鹿は黙ってろ。』
ヘル
「何だと!!」
ヘルが立ちあがり水晶玉を踏みつぶそうとしたが、すかさずテルミットが水晶玉を奪い阻止する。
テルミット
「落ちついてください!」
ギーンが鼻で笑いヘルを更に刺激する。
テルミットがヘルを抑えている間に話しを進める。
ギーン
『撤退する時の行動は考えているのか?』
ファン
「テレポートでは足が付きそうなのでまずCHHへ飛び、そこから足のつかない方法で瞬間移動して離脱しようと思います。」
ギーン
『なるほど。それなら問題ないな。だが足のつかないテレポートは詠唱に時間がかかるぞ。どうする気だ?』
ファン
「そこはギーンさんにお願いしたいと考えていますが・・・・。」
ギーン
『惜しいな。それでは80点だ。もう少し安全な方法がある。』
ファン
「安全な方法?」
ギーン
『詠唱はルイにやらせる。』
ファン
「ル、ルイさんをCHHに呼ぶのですか?」
ギーン
『キュピルの危機と言えば来るだろう。』
ファン
「それはそうですが・・・。」
ギーン
『・・・ファン。お前の言いたい事は分っているが、今回の事の重大さも理解して貰いたい。
統領がトラバチェスの印章を使ってどのような事が出来るか少し考えてみろ。』
ファンが無表情のまま考えこむ。
ヘル
「へっ、何がトラバチェスの国王だ。俺達の力を借りないと何も出来ねぇ癖に。こんなチンピラの街一つ潰すせないのか?」
テルミット
「ヘル!!!」
ギーン
『何も知らない馬鹿が・・・。』
ファン
「・・・・。ギーンさん。」
ギーン
『何だ。』
ファン
「ギーンさんの方で何か策を持っていて実はそれを既に実行に移していたりしますか?」
ギーン
『そうだ。』
ファン
「僕達の方はキュピルさんを援護し、トラバチェスの印章を奪還。その後CHHから脱出して終了。・・・それで大丈夫なのですね?」
ギーン
『それでいい。CHHをどのようにすることも容易いがトラバチェスの印章を取り戻さない事には何も出来ないからな。』
ファン
「分りました。何を考えているか分りませんがギーンさんの方で何か策を持っていればそれに従います。
・・・さて、ではキュピルさんの元へ参ります。」
ギーン
『テレポートを使えば足が付くぞ。そうなればそこの宿屋に統領の雇った傭兵が来る可能性がある。
可能ならば自らの足で向かうのが一番だがファン一人では無理だな。俺が思うには輝月を連れて行ってやれば・・・。
・・・ちょっと、待て。輝月は何処だ』
ファン
「・・・・・・・・。」
ギーンが険しい顔をして更に問い詰めようとした瞬間、ギーンの側近が現れ何かを伝えた。
ギーン
『・・・・なに?本当なの!?』
ファンとテルミットとヘルが水晶玉から映し出された映像に注視する。
側近がひたすら頷いており何かを伝えている。
しばらくして、ギーンが深刻そうな顔をしながらファン達に伝えた。
ギーン
『キュピルの反応がこの世界から消えた。』
ヘル
「!?
し、死んだ訳じゃないよな!?」
ギーン
『当たり前だ、クズが。俺はこの世界からと言ったぞ。』
再びヘルが喚くがファンとテルミットは無視して質問をした。
ファン
「琶月さんと同じく異世界へ移動した・・・っという事ですか?」
ギーン
『恐らくな。ちっ・・・想定外が多すぎる。一番最初の計画からどうしてここまでずれているんだ。
・・・このままだとジリ貧で終わるな。一旦状況を全て再調査した方が良さそうだ。』
ギーンがミーアを呼びつけ何か色々指示し始めた。
指示を終えるとミーアは即座に何処かへ移動し行動に移り始めた。
ギーン
『少し時間かかる。』
ファン
「・・・ではその間に僕達は輝月さんの行方を捜すとしましょう。輝月さんは欠かせない戦力ですから。」
ヘル
「あんな奴はいらねぇ。」
ファン
「ヘルさん、すみませんが従って頂けませんか?僕は一応非常時にはキュピルさんと同じ権限が与えられているので・・・。」
ヘル
「・・・・ちっ。」
不服そうな顔を浮かべながらヘルはそっぽを向いた。
テルミットがため息混じりに喋った。
テルミット
「CHHに来て宿屋を占拠したのは良いのですが、その後は全然進みませんね・・・。」
ファン
「相手はとにかく強大です。無理はせず、情報を集めて確実な方法を取るのが一番です。」
しばらくして再び側近が現れ何かを報告し始めた。全てを聞き終えるともう一度ギーンが口を開いた。
ギーン
『現在の状況を全て把握するのに二日ほどかかる。二日後、すぐに行動を移せるように試作段階の魔法陣を作りあげておくか・・。』
ファン
「・・・試作段階の魔法陣?」
ギーン
『俺が考案した新しい魔法陣だ。出来あがってはいるが試作段階故に張るのに時間かかる。だが二日あれば出来るだろう。全て教えてやるからルイと共にその宿屋に魔法陣を張れ。』
ファン
「結局ルイさんを呼ぶ事にしたのですね。」
ギーン
『お前の次ぐらいに魔法が出来るからな。』
続く